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第9話「絆、熱く束ねて重ね合い」




その時なにを思っただろう。

ただ静かすぎる世界で、男は懶い瞳で彼を見た。

白き神が人である事実を否定したはずの彼が、次に見えた今、人としての機能を失って其処にただ"在るだけ"となっていた。

「哀れだな」

憐憫の情を含んだ言葉は届かない。
ピクリとも動かないということは、五感が働いていないのだろう。
なにかを映すことがなくなった二色の眼は秘めた美しさを塗り潰され、目の前の男を見ることすらない。

空ろな器だけがポツンと取り残されている。

本来ならこんな状況になにも感じるはずはない。何故なら彼は万物の悪であり、確かに人ではないから。
そう、この胸を締め付けるような罪悪感は永久を生きる男のものではない。

「解っている…だが…」

何処か遠い、遠い記憶の果てから声がする。
"こんなことを望んでいないのに"
と。誰とも知れぬかつてあったはずの思い出が捨てた良心を掻き毟る。

━━もしも、の話だ。
もしも彼にまだ人として生きる力があったなら。
そう思わずにはいられなかった。

「貴様に、立ち上がる力はあるか」

忘れたはずの良心に火が灯り、そう思ってしまったならそこから踏み出すのは早かった。

胸の左側━━心臓の位置に手をかざした途端、星の瞬きを彷彿とさせる光の乱反射は空間を支配する。
その光は、ヒカルの魂を受け止める未完の聖杯に間違いない。
顕現したそれを利用し、行使する願いはたった一つ。

「━━━━━。」

望みは静かに紡がれた。
願いに共鳴する一瞬の光は消え失せ、そして残されたのは…、

「これで、最後にしよう」

正しく在るべき人と、正しく在ったモノだった。


~~~


一陣の風は吹く。
辺りを支配する戦いの気配に人々は失せ、残されたのは反撃を狙う者たちとそれを迎え撃つ者たちだ。

突如現れた狩也と慶太は図らずもアミとレッカを救うこととなった。
しかし状況は依然不利のままらしく、今まさにデュエルが始められようとしている。

「随分好き放題やってくれてんじゃねーか!」

「えぇ!そうすることであたしのストレスは解消されて、…こうしてメインターゲットもちゃあんと現れた」

「メインターゲット?」

ルルンの視線が狩也をロックした、それを慶太も見逃さない。すぐさま狩也を右手で制して前に出た。
…のだが、

「狩也!とりあえず下がってろ!」
「冗談じゃねえ。下がるのは慶太だ」
「お前は無茶すんなって!」
「無茶なんてしてないだろ!こんなのも大したことじゃない!」
「どう見ても重傷だ!頼むから大人しくしててくれよ!…また同じことの繰り返しじゃんか…」
「…それは」

一時的に失明してしまった左目を覆った包帯を剥がそうとした狩也の手を止めて慶太は言った。

C.C事件で遊矢を裏切ったことは最早周知だが、その直前まで慶太が一緒だったことも忘れてはならない。
もし、慶太が暑さで倒れた狩也を家に置いて外に出なければ、その裏切りもなかったのではないかとずっと彼は悔やんでいる。
昨日だってあんな風に送り出したのに、その結果はコレだった。
自分が止めなくてはならない、一人で駆け出すのを抑えなければまた取り返しのつかないことが起きてしまう気がする。

「なにかあったら、今度こそ雪那ちゃんになんて説明すればいいかわかんねえよ…」
「慶太…お前まだそれのこと言ってんのかよ。今更━━」

「いつまでやってるつもりー?」

少女の声に二人は漸くハッとなり振り返る。
苛立ちを隠さないルルンは仏頂面を引っ提げ、靴をコツコツと鳴らしていた。

「アンタらの痴話喧嘩に用はないの、こうしてエモノは釣れたんだからさっさとやっちゃわないと…ねえ?コタローちゃん?」
「応ともルルン!」

呼ばれたコタロウが草の影から現れ、これにてこの場で自由に動ける人間は4人。ちょうどいい数だ。

「タッグデュエルか」
「なぁお前デュエル弱いんだろ?さっきの話聞いてたぜ!」

レッカが言った「リコードイミテーション最弱」。これが嘘でないのなら負ける要因はない。
万全ではないからフリューゲルアーツはまず使えない、無理もさせられない、それでも十分。
最弱を相手にして負けたならこの先ヴァイスを相手にすることは到底ままならないことだ。

「ふっ…あっははははは!!アンタに負けるほど弱くないし!今のうちに吠えてなよ!」

「なっ!!」
「慶太、やるからには邪魔すんなよ」
「…狩也」
「奴らからは聞き出すことが山ほどある、時間はかけられない」

真剣な狩也の目を見て、さっきのように言い返すことは叶わなかった。
だが言う通りではある。
早く撃退しヴァイスがいるという白き城が何処に存在するのか、そして陥った最大のピンチから遊矢を救う方法を聞き出すことが今最も重要な事柄だ。

「気を付けてください!コタロウはあのムサシの弟子!!まだ半人前ですが、研ぎ澄まされた刃は師を彷彿とさせるでしょう…!」

「ムサシ…?」

名に覚えがなくとも一瞬で解った。
あの琥珀色の瞳の男が脳裏に過る。敗北の痛みが駆け巡る。
しかしこれも僥倖。
再戦はきっとある、いいや"ある"。ならこれはそれのために積み重ねるべき運命なのだろうと言い聞かせた。

「さぁ!!行くぜッ!!」
「デュエル!」

「「デュエル!!」」

《LP:4000》

ライフポイントは共有で4000。フィールドや墓地も共有。
その気になれば一撃で決着がつけられるが、共有という曲者ルール。なにが起きるか分からない。
慶太は思う、力を合わせれば勝てると。━━あとは狩也次第だ。

「先攻は…」
「俺はフィールド魔法《星の楽園-コズミック・パライソ》を発動!!」
「狩也ぁ!?」

その時慶太は思い出した。思い出してしまった。
"この夏、同じようなことがあったような気がする…いや、あった"と。
しかもそのデュエルで狩也は鞘走りに鞘走り、余計なプレイングで大ピンチに陥った。最終的には勝利したが、慶太のドローに逆転か敗北かがかかっていた場面があったこともあり、この展開にひどく後悔した。

余談だが更に挙げるなら、狩也は"他人に合わせない"。
昔はタッグデュエル大会のパートナーに誘ったこともあったが、今考えれば拒否されたこと自体が幸運だったと言える。
連携に興味を示さず、個の実力で押そうとする。まさに脳筋。ここまで相性もなにもあったモンじゃないデュエリストは相当だ、と後にヒカルに言わしめたほどだ。
そんなこんなで狩也は共闘と思いはしても協力とは思ってくれないだろう。
どうなることか分からないが、この太陽の輝きに照らされた雲の上のフィールドに慶太は嫌な予感がした。

「コズミック・パライソの効果発動!ライフを800ポイント削り、手札から「コスモ・メイカー」と名のつくレベル7のモンスターを2体選択してエクシーズ召喚する!」
「ライフ800も取られんのか!?」
「なんだよ文句あるのか?」
「い、いや…」

的中確率100%という予測可能な光景はこうして確定的な現実となりブチ抜かれてしまった。
ライフポイント共有ルールである以上、ライフを削られるのは狩也個人だけではない。それを一々気遣うのが面倒くさいのか、あるいは本気でなにも考えていないのかを知る術はない。

「手札から《コスモ・メイカー クドリャフカ》と《コスモ・メイカー ジャベリン・ベガ》を素材に、オーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚ッ!!」
《Kariya&keita LP:3200》

亜空から現れたのは星雲(ほしぐも)の竜。
全てを呑み込む輝きを放つ光の余波は、荒れ狂う幻想の波動にして主を護る絶対的な力。
眩い閃光は大地を呑み、そして顕現した。

「現れろ!《コスモ・メイカー ネヴラスカイ・ドラゴン》!!」
《ATK:2600/Rank:7/ORU:2》

夏の空に竜の咆哮が轟く。その衝撃はARとは到底思えぬ現実のものとして敵対者を威圧する。

ネヴラスカイ・ドラゴンは召喚成功時、デッキからフィールド魔法一枚を手札に加えることができるという効果を持つ。
狩也が数ある中から選んだのはフィールド魔法《スターダスト・コロシアム》。しかし今は使わない、まだ温存しておく。
この後必ず使う時が来ると確信を持って。

「コズミック・パライソの効果で召喚されたモンスターエクシーズは、次の相手ターンのエンドフェイズまで効果による破壊を受け付けない。俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」
《Hand:1》

「これであの二人は戦闘でしかネヴラスカイ・ドラゴンを倒せない…2600の攻撃力を誇るあのモンスターを越えるのも簡単じゃない。でも…」

そう、戦闘で破壊するためには攻撃力2600以上のモンスターを1ターンで用意するしかない。
レッカの記憶の範囲ではあるが、ルルンがそんな単純な攻撃力で勝負できるデュエリストではないことは分かっている。とすれば問題はコタローの方だ。
ムサシの弟子ということは運勝負の搦め手も、高い攻撃力による戦闘も十分にあり得る。

「ふーん?頭の中お星様が回ってるトンだ夢見がち少年だとは聞いてるけど…思ったよりも単純なんだー?」

「言ってろ、今に痛い目を見ることになるぜ」

「どっちのことやら…あたしのターン!」

フィールドが両者共有のタッグデュエルでは、二人目のプレイヤーのターンにバトルフェイズが解禁される。
弱い、最弱とあれこれ罵倒されているルルンが果たしてネヴラスカイを越えられるのか、まずはそこからが問題だ。

「まず、永続魔法《魔法人形精製術(リリカルパペット・メイキングサークル)》を発動!これにより、あたしは1ターンに1度デッキから「魔法人形(リリカルパペット)」と名の付く装備魔法を手札に加え、手札のカードを一枚墓地に送る」

「装備魔法デッキか…!!」

ルルンは手札の罠カード《魔法人形束縛(リリカルパペット・バインド)》を墓地に送り、デッキから《魔法人形 フロッグ》を手札に加えた。
わざわざデッキから引っ張り出してまで手札に加えるということはつまり━━、

「あたしは手札に加えた《魔法人形 フロッグ》を発動!装備対象は…ネヴラスカイ・ドラゴン!」

「なんだって!?」

「フロッグの効果で装備モンスターは互いのバトルフェイズ時に限り、あたしがコントロールを得るわ!」

「はぁ!?なんだその無茶苦茶!」
「どこが最弱だ…ッ!!」

普段は狩也がコントロール権を持つネヴラスカイ・ドラゴンは、バトルフェイズ時のみルルンがコントロールを得ることになる。それはつまり、ルルンのバトルでは牙を剥き、狩也のバトルでは壁として立ちはだかるということだ。

「あたしが最弱扱いされるのは、魔法カードを封じられた時になんの手も持たないこと、簡単に対策ができることが理由。初見のアンタらには無理な話だけどね」

「くっ…!」

「さぁバトルよ!自分のモンスターにやられちゃいなさい!!ネヴラスカイ・ドラゴンで攻撃!」

なんとも可愛らしいカエルのぬいぐるみから現れたおぞましい舌がネヴラスカイ・ドラゴンを捕らえ、操り人形のように思いのまま動かしてみせる。
抗えないネヴラスカイから迸る光のエネルギーは自らの主を呑み込まんと溢れ出した。

「狩也!!」
「分かってる!!罠カード《明けの星雲》を発動!戦闘ダメージを0にする!そして、このターン相手は魔法・罠のセットを行えない!」

朝日の光に護られ、致命的なダメージを受けることだけはなんとか避けられた。
しかし装備魔法を破壊しなければ次の慶太のターンにまたルルンにコントロールを奪われてしまう、これでは埒が開かないどころかいつかは追い詰められてしまう。

「ちぇっ…つまんないわねぇ…あたしは速攻魔法《魔法人形廃棄(リリカルパペット・ディスポーサル)》発動!フィールドに発動している「魔法人形」と同名の装備魔法を墓地に送り、同名カードを装備しているモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!ダメージは1300!!」

「なっ…くぅッ!!」
《Kariya&keita LP:1900》

「あはっ!かっこわる~い!ターンエンドっ!」
《Hand:3》

フロッグの舌から繰り出された予想外の攻撃に思わず膝をついてしまった。
なんという苛立つ戦略、コレを最弱と言いきったレッカは一体なんなのかと言いたいくらいには普通に強敵だ。

「大丈夫か狩也」
「あぁ、全然平気」
「ならいいけど…やっていいよな?」
「当たり前だろ、でも責任は取れよ」
「おう!もちろんだぜ!俺のターン、ドロー!!」

まるで二人は事前に打ち合わせしたかのようになにか対策語り合うことなく、伝わらない会話だけをしてターンを開始する。
だがそれは互いの信頼があってこそ。

何故ならば、慶太は今ネヴラスカイ・ドラゴンを破壊しようとしているからだ。

「俺は手札から《鎖鳥の天使 マリーゴールド》を特殊召喚!コイツはフィールドにモンスターエクシーズが存在する時に特殊召喚できる!」
《ATK:1000/Level:3》

「攻撃力1000じゃネヴラスカイには届かねーな!」

そう、バトルフェイズ中はネヴラスカイ・ドラゴンが向こうに立ち、マリーゴールドのようなモンスターでは手も足も出ない。
ただしバトルフェイズ中に限る話だが。

「まだだぜ!速攻魔法《誘発進化》発動!自分フィールドにモンスターが特殊召喚された時、それより攻撃力の低い植物族モンスターエクシーズを特殊召喚できる!」

あくまでマリーゴールドは《誘発進化》のための一手。それ以上の意味はない。
慶太のデッキにある攻撃力1000以下の植物族モンスターエクシーズ、それはたった1体であり、確実にネヴラスカイ・ドラゴンを破壊できるモンスターでもある。

「来い!《鎖鳥の霊華 キングプロテア》!!」
《ATK:0/Rank:5/ORU:0》

凛々しくも可憐なその姿はまさに美しき花、キングプロテア。
攻撃力は0でオーバーレイユニットもないこのモンスターの実力は、まさに今このような状況で最も輝きを放つことのできるものだ。

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド!そしてキングプロテアの効果発動!」
《Hand:2》

「オーバーレイユニットがないのに効果を…!!」

「エンドフェイズ時、オーバーレイユニットがないこのモンスターが存在する場合、自分フィールドのモンスターエクシーズを1体破壊しその攻撃力分のダメージを与えるぜ!!」

「な、なんですって!?」

コズミック・パライソによる破壊耐性は前のルルンのターン中に終了している。よって今ならば効果でネヴラスカイ・ドラゴンを破壊できるのだ。

狩也は慶太に「やっていいか」を問われた時にこの戦術に気が付いていた。
かつて現れた黒い教団の二人組を葬ったこともあるこのコンボはタッグデュエルにおいては意思の疎通ができなければ成立しないものだっただろう。

「食らえ!2600のダメージだぜ!!」

「っきゃあぁっ!!」
《Rurun&Kotaro LP:1400》

花の香りが渦を巻くエネルギー波がルルンを飲み込み、攻撃はそれはそれは大層派手に決まった。
ネヴラスカイ・ドラゴンという強力なモンスターは失ってしまったものの、これで次のターンに脅かされる心配もなくなった。
あとはコタローというデュエリストがどんなデッキを使うのか、だ。

「っくぅ~~……!!」

「く、悔しがってるの…?」
「まぁ…直前まで余裕そうにしてましたから…」

デュエルを見守るアミとレッカからも分かるくらいルルンは苛立っている。
今すぐにでも沸騰するヤカンというべきか、爆破寸前の時限爆弾の方か。どっちにせよ煮えくり返っているのだろう。

「やってくれたわね!?レディーの服を汚すなんてそれでも男なの!?」

「やられたからやり返しただけだっつの!」

「くやしー!!コタロー!やっておしまいなさい!」
「な、なんだよ命令すんなって…」

青い髪を束ねた八重歯の少年・コタロー。
ムサシの弟子のターンが訪れ、狩也も身構えた。