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「そうか。貴様らの正義は、この程度か」

「えっ!?」

土煙の中に消えたヴァイスのシルエットは、マントのフード部分に隠されていた姿を描き出す。

"それ"の正体を後ろから見たヒカルは驚愕した。

「嘘、だろ…?」

「嘘なものか。だが、残念だ。わざわざ姿を晒すつもりはなかったが…仮面を剥がされた以上、仕方のないことだ」

徐々に晴れる煙の奥、壊れた仮面の中にある"白い眼"が二人の姿を捉える。
そして顔の上部を覆い隠していた仮面がヴァイスの鳴らした音ひとつで粒子と化して、煙と共に消えていく。

風に靡く金の髪は獅子のごとく、茶色の髪はふわりと揺れる。
開かれた瞳の色は森のように深い、"あの"深緑の瞳ではなく、不気味なほど煌めく白い瞳。

「なんでお前が……!!」

思わず叫んだ、仮面の奥のその正体の名を。


「托都━━━ッ!!」


あの日消えた非日常の彼は、闇を裂き、黒を白へ潰して現れた。


風雅遊矢へ、復讐を遂げる概念(ひと)として。


第6話「悲劇より顕れる」




「クソッ!!どこまで追えばいいってんだよ!」

すでにあの油臭い工場地帯を抜けた。
それでも狩也が追う敵は逃げることをやめない。ただ時たまに後ろを確認し誘っていることだけは分かっていた。

「どこまでも俺を馬鹿にするっていうんなら、容赦はしねえからなッ!!」

ビルの谷を、住宅街を抜けて更に更に、ハートランドシティの深い部分へと駆ける。
気付けばステージは埠頭へ移り数日前にも似たような理由で訪れたと当時の自分のなにもしていない事実に唇を噛み締めた。
だがそんなことを気にしている暇はない。とにかく敵を追わねばならない。
狩也にとっては遊矢も托都もどうでもいいが、この平和を乱すなら迷わずトリガーに指をかけるだろう。
そう、遊矢のことはあくまでも『どうでもいい』のだ。

自分との再戦が望めなくなった場合を除いては。


~~~


「どうなってんだ!?」

煙が晴れた先で立っていたのは紛れもなく、敵の罠によって行方が分からなくなっていた托都だ。
そう、容姿は托都そのものだ。様子がおかしいことと明らかな敵対姿勢が気になるところである。
異様な白い瞳と使役するモンスターたち。そして自分を大々的に神だと宣い、あまつさえ遊矢に敵意を剥き出しにしている。
アミと慶太がそこから連想したのは、かつて遊矢の兄としてではなく風雅の人間に復讐を掲げ現れた『あの時』の堰櫂托都の姿。
今ではすでにその際の牙は抜け、最大の天敵だった父親とも和解しているはずだ、何故今更彼がこんなことになってしまったのだろうか。

「托都…?」

「…はぁ…人間は、外面が一致しているだけで同じモノとしか認識できなくなるのか。やはり、いくら文明が栄えようとも脳(ココ)が大して進化していないらしい」

呆気にとられていまだ動けないヒカルの方に一瞬だけ振り向き、そしてそう語った。

『彼』は自身をヴァイスと呼んだ。
今の言葉をそのまま捉えるなら、まさに他人の空似。托都のそっくりさんということだ。
にしては似すぎている、髪の毛のクセから背丈までが同じ人間など双子でもない限りいるはずがない。

「貴方は誰!?托都さんじゃないの!?」

「何度も言ったはず。我が名はヴァイス。肉体の名など知らぬわ」

「肉体の名前…?」
「それならやっぱり貴方は托都さんなの!?」

「そうさな。確かに"体"は奴のものだ、それは認めよう。だが、"意識"や"魂"は全く異なる存在だ。俺は奴という肉を得て此処に顕現した、それは来るべき王の復活とも似ているだろう」

堰櫂托都という人間の体に乗り移った悪霊、神霊と言うべきか。
この言い分ではまるで意識を乗っ取ったともとれるが、実際はどうか、ヴァイスは続ける。

「それ故本来ならば風雅遊矢など、どうでもいい只の人間。しかしな…」

「まさか…!托都が願ったって言うのか!?」

「そうだ、未完の聖杯。よく聞いていたな」

ヴァイスは先に、言った。
"貴様(ゆうや)が憎いと叫んだ奴がいた"
確定的な死を望むとまで言い切るなんて、そんなことを言うなんて、事情を詳しく聞いたわけではないヒカルからすれば托都が言うにはあまりにありえない言葉だ。

「大体、復讐の概念神が対人の憎悪無くして目覚めるものか。堰櫂托都は"最初から"俺の転生する器だと決まっていたのだ」

「そんな…じゃあ、托都はどうなったって言うんだ!!」

「さぁな。だが一つだけ教えてやろう」

"概念神が転生した時、その人間の意識は食い潰され消えてなくなる"

残酷な事実が刃となって突き刺さる。
托都はなるべくしてヴァイスと成り、20年の時間を生きてきた彼は無いモノとして扱われるために昨日まで在ったのか、と。

「お前…ッ!!お前がッ!!」

「おっ、と」

瞳の輝きが赤く燃え盛ったのをヴァイスは見逃さなかった。
ヒカルが立ち上がったところに先ほど弾け飛んだ鳥籠状の檻と同じものを形成しそのままヒカルを閉じ込めた。

「ヒカルさん!」

「くっ…!」

「残念だったな覚醒体。そのまま向こうの餓鬼が派手に散るのを指を咥えて見ているがいい」

見下すような笑みに、無力と噛んだ唇から思わず血が滲む。

「さて、パーティー再開といこうか。残念ながら俺のライフポイントは1以下すら削られてはいないが、どうする?」
Weiβ LP:4000》

「そんな!どうして!?」

「永続罠《反逆者の流刑》を発動していた。このカードは俺に対するダイレクトアタックを全て無効化し、ダイレクトアタックを行ったモンスターをエクストラデッキに戻し、このデュエル中の再度の召喚を封じる!」

「なんだって!?」
「それじゃクリスタル・ディーヴァバタフライは…!」

一撃目の時点で受け止められた挙げ句にクリスタル・ディーヴァバタフライはその身の水晶を砕かれてエクストラデッキへと散ってゆく。
召喚難易度が高いエクシーズシンクロというもののを使う時点で一撃必殺を狙っていた二人の策は儚く無駄に終わってしまった。

「一時でも俺を追い詰めたことを誇りに思え。人間には夢を見るのが似合いだ」

「なに言ってんだよ!まだ俺たちは負けちゃいねえぜ!」
「ええ!私はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」
《Hand:3》

今伏せた2枚のカードには、攻撃を止めるカードとモンスターを墓地から呼び戻すカードがある。
これを使えば、ラピスラズリ・バタフライドラゴンを呼び出すことが出来、更には1ターンをしのぐことも出来る。

ヴァイスが自らに課したハンデによってこのターンの次にヴァイスのターンが回ってくるのは慶太とアミの2ターン目を1つずつ、つまり2ターン耐えきる必要がある。
うまくいけば慶太のターンでもう一度ワンターンキルを狙えるはずだ。

「やはりこの程度。数どころか相手にする価値もない」

「な、なにをーッ!?この期に及んでまだ俺たちが弱いってのか!冗談じゃねえぜ!」

「ならば貴様らの身に刻むがいい!我が力はペンデュラム召喚だけではない、肉体が同じということは奴の力すらも意のままということを!」

妖しく輝く二対の堕天使の中心、そこに現れた扉は激しい風を呼び一帯を揺らして存在を確立させた。

「セッティングされた《転生の堕天使》の効果、ドローフェイズをスキップし除外された俺のモンスターをフィールドに特殊召喚する」

「そんな!」

「更に《輪廻の智天使》の効果により、特殊召喚するモンスターの内1体をデッキに戻すことでエクストラデッキから天使族モンスター1体を特殊召喚することができる!」

蘇るモンスターは当然スカーバティ・ネメシスとヘブンズ・アルテミス。このどちらかをデッキに戻して別のモンスターを呼び出すこともできる。
なんという出来すぎたコンボ。まるで最初からクリスタル・ディーヴァバタフライが現れることを知っていたかのような戦略の組み立て方だ。

「ヘブンズ・アルテミスをデッキに戻し呼び出すのは《機械堕天使 シャドウ・ハルシオン》!来い!2体のモンスター!」
《ATK:3000/Level:8》
《ATK:3000/Rank:8/ORU:0》

顕現したゲートから現れた二体の堕天使。
その内影を操る機械堕天使はかつての深紅の色を失い白と黒に潰されていた。

「シャドウ・ハルシオンを!ヴァイス、どこまでお前は…!!」

「知らん、死人に口無しだ。デッキに戻されたヘブンズ・アルテミスの効果発動!このモンスターデッキではなく墓地に送ることで、堕天使と名のつくモンスターの攻撃回数を1回ずつ増やす!」

これでスカーバティ・ネメシスとシャドウ・ハルシオンの攻撃回数はそれぞれ2回、合計4回の攻撃回数を持つことになった。
ライフポイントは4000だ、二人に4000ずつ宛がわれようと削りきれる。
先程のお返しと言ったところか。

「どんなに攻撃回数が増えたって…!」

「高々攻撃のために手を増やす必要が何処にある?その罠、俺が見切れないと思ったか」

「えっ!?」

「スカーバティ・ネメシスの効果。このターン、バトルする権利を全て破棄することで、その攻撃回数の数だけ相手に攻撃力分のダメージを与える」

合計4回のダイレクトアタックを捨てて、効果ダメージに変換する。よってアミが伏せた二枚のカードは意味を成さないものとなった。

全てがヴァイスに読まれている。これではアミと慶太には対抗策がない━━━!

「まずは貴様からだ。花の命は短い故な、一瞬で終わらせてくれるッ!スカーバティ・ネメシスの効果発動!ナハト・ディジェネレーション!!」

「ッ!!うわあああああぁぁッ!!!」
《Keita LP:0》

雲に覆われた夜空を内包したスカーバティ・ネメシスの一撃が襲いかかり、その牙は慶太のライフポイントを一滴も残さずに刈り取った。
残るは2回分、それをアミは受けなければならない。

「慶太、くん…」

「…くっ…逃げ…アミ……!」

地面に叩きつけられて体を思うように起こせない慶太の姿を見て、アミも恐怖でその場から動くことができない。

「遊矢はこの惨状を知った時、どんな顔をするものか。想像するだけで笑いが溢れそうだ」

「やめろ托都!!お前がこんなことするはずがない!二人を、遊矢を傷付けたりなんてしない!」

振り返ったヴァイスの眼はあまりに冷たく、射抜くような視線に畏怖を覚えた。

「我が名はヴァイス、故人の名を叫んでもなにも帰っては来ないぞ。しかし、貴様が泣いて乞うなら別だがな」

「っ…!」

「選択の時間は与えんぞ。スカーバティ・ネメシスの効果発動と同時にシャドウ・ハルシオンの戦闘を破棄した。覚悟を決めろ小娘、救世主は現れぬようだ」

救世の装甲を持つヒカルはこの状況、アミにとってのヒーローである遊矢もいない。誰も助ける人がいない。
慶太と性別の差で体の強さ弱さが異なるアミが実体化するダメージに耐えきれるか、きっと耐えきれない。

「食らえ!ナハト・ディジェネレーション!」

凶牙が影の渦を纏ってアミに向かってくる。
逃げられない、巻き込まれる━━━死んでしまう。

「誰かぁっ!!」

悲鳴が耳を劈く。

そして声は同じく、ヴァイスの後ろから木霊した。


「やめろ━━━!!」


鳥籠は突然の銀の輝きに破られ、駆け出した脚は禍々しい牙よりも早くアミの前へ辿り着いた。

「…!」

《Ami LP:0》
「…あ、あれ…私…?」

「やめろヴァイス、二人にこれ以上手を出すなッ!!」

立ちはだかったヒカルの左腕には蒼銀煌めくデュエルディスク。

どうやらスカーバティ・ネメシスの牙はヒカルの乱入によって直前で止められ、アミはダメージを受けながらも実際の衝撃を受けなかったらしい。

「ヒカルさん…?」
「遊矢のためなら、仲間のためなら泣いてやろう。跪いてもやろう。でも、それはお前が約束を守ることが条件だ!二人を見逃せ、そうするなら何処へなりとも連れていけばいいッ!」

「…朽祈ヒカル。確かに、これは奴の…」

意味ありげに顔を背けたヴァイスも、すぐさま歩を進ませヒカルの元へやってきた。

「いいだろう。運の良い人間どもは救世主に感謝するがいい」

「ヒカル…さん…!」

「ダメ!!ヒカルさん!」
「大丈夫。だから二人は遊矢を守ってくれ」

後輩を想う優しい笑顔に決意が垣間見えた。
これを止めれば自分達が、という恐れがそれ以上声をかけることを阻害した。

「風雅遊矢に伝えておけ。"白い城で待っている"とな」

「待ちやがれ…!!」
「ヒカルさん!!」

二人が話を聞くこともなくそのまま世界から消失した。
亜空間に繋がるゲートへ消える直前、ヒカルがなにかを落としていったのを見たアミはそれを拾い上げる。蒼いブレスレットのようだ。

「…これ…」
「手がかりに…?ぐっ…!」
「慶太くん!?」
「戻ろう、遊矢のとこに」

今は敵を追うこともままならない。
まずは遊矢がどうなってしまったのかを確認すべきだと、二人はその場からゆっくり離れた。


~~~


「どうして…!」

レッカが解呪する結界の紅い光は収まるようには見えない、むしろ徐々にその眩い輝きは強くなっていくようにも感じられた。
すでに中に閉じ込められた遊矢から反応がなくなっている。死んではいないだろうが肉体に残るダメージは相当のはずだ。

「なんであの人は、こんなことを…っ…?」

なんの前触れもなく突如結界が消え始めた。
レッカが解呪に成功したわけではない、突然のことだ。
目的を達したのか?まさか狩也たちが倒したのか?などとレッカの思考は巡り巡った。

「遊矢さん!」

前に倒れそうになった遊矢を支えて声をかけると意外にもすぐに目を覚ました。どうやら結界には体力や気力を奪うような力はなかったようだ。

「…あれ、みんなは?」
「ヴァイスを追いました。無事ですね?」
「うん…一応…、あれでもなんか…左が重いような気がする」
「左?」

左半身の見た目に異常は確認できない。
しかしレッカは遊矢のアームカバーの下になにかがあることを察知していた。
失礼します、と声をかけてアームカバーを上部に捲るとそこには痛々しい茨のような模様が描かれていた。それもどこかで見たようなものだ。

「これは…」
「…托都と、同じ…?」

そう、托都の左腕に宿ったバリアンである証と同一のものだった。
当然ではあるが遊矢はバリアンではない。一体なにをされたのだろうか。
レッカは左腕にゆっくり手を添えてもう片方でぐっと掴んだ。

「いっ!!たぁ…!?」
「どうやら本当に同じもののようですね」
「アイツ、こんなモンを…」

遊矢は一点に受けた痛みを体全体に受けるというデメリットを身をもって体験した。
不可解ではあるが、ヴァイスの発言を思い出して納得する点もある。
これは確かに、体を蝕む毒にも似た力だ。

「…アイツ、何者なんだよ」
「ごめんなさい。私には、それをどうすることもできません」
「気にすんなって」

アームカバーを戻して立ち上がろうとしたがよろけて転んでしまった。見えないダメージの蓄積が原因だろうか。

「悪いけど、ちょっと…休む」
「遊矢さん…?」

ぼそっと呟いた後、小さな寝息が聞こえていた。
こんな状況でと呆れるべきか、はたまた違う原因がまだあるのか、分からずじまいのまま空は曇り太陽は彼方へ消えていった。


~~~


男は『無』だ。
所詮は贋作。本物の存在が『有』である以上、彼はなにもない存在だった。

故に男は有でありながら無であった男の下にいる。
そして聞いたのだ。

「貴方の目的はなんだ」

玉座の男は嗤いながらこう答えた。

「復讐」

復讐者━━━。そうだ、彼は復讐者なのだからこの答えが返ってくるのは当然のことだ。
だがそれだけのはずがない、と無の男は再び問いかける。

「復讐の先にはなにがある」

復讐者は黙りこんだ。そしてこう言った。

「人類への救済だ」

長い長い話を続けた。

輪廻転生することで人間の世界を『視た』男は繰り返される人生の中にひとつの答えを手に入れた。
人間の闇は深い。深すぎて理解できないほど。
概念として深淵に突き進むことを止められない男はその答えを実行に移そうにも人生は短く足りなかった。

しかし、今はどうだろうか。
男を転生に導いた協力者の手によって、男の計画は円滑に事を運んでいる。

もうすぐ計画は果たされる。
世界は確実に変わるだろう。

「貴様は、『有』になりたいか?」

唐突な問いだった。
それには答えられなかった。

「今は無も有も同じこと、この身が在る限り、我が忠義を貫きましょう」

跪き男は白い瞳に服従を誓った。




そう、忠義を貫くと言ったのだ。
だからこそ男には、無であったとしても許せないものが一つだけある。

振り返ればそこにいる、その少年の抱えた罪が。

「ようやく追い付いた…!!」

金髪を乱した赤い服の少年の瞳は紫色の炎が燃えている。

「来たか、岸岬狩也」

「ご丁寧に誘導しやがって、誘われてやったんだから感謝しろ」

「こちらは呼んだつもりはない。貴様が勝手に追ってきただけのこと」

黒の長髪、太陽のような橙が揺れる切れ長の目、それらを引き立たせる和装が特徴の長身の男は狩也の追跡を誘導し、誘い込んだ張本人。
つまりリコードイミテーションの一員、ヴァイスの仲間である。

「言ってくれるな、ヒカル先輩はどこだ?大方あのバカもそっちにいるんだろ」

「未完の聖杯か…居場所が知りたいか、ならばデュエルだ。デュエルで私を負かすことが条件だ」

アダムと同じデザインのデュエルディスクを見て息を呑んだ。
漸く、漸くデュエルすることができるという高揚と絶対に負けない自信が狩也の胸の奥で交差した。

「我が決闘は一撃必殺、受けて立つか━━!!」

「あぁやってやるとも!!」

デュエルディスクのコアとなるアメジストは上空で姿を変え、太陽に反射して白い色を放つ。
そうして左腕に装着されたデュエルディスクは黒と赤のサブカラーが狩也ととてもマッチしている。
これこそ、界の空で狩也が手にした新たなデュエルディスク。ルクシアが造り出した新型のデュエルディスクだ。

「「デュエル!!」」

《LP:4000》

火蓋は切って落とされた。
一撃必殺だろうが狩也には関係ない。ただ勝つことだけがこの先の平和を手にする鍵になる、それだけだ。

「私が先攻を貰おう。私はフィールド魔法《華園の城》を発動!」

「フィールド魔法…?」

油と塩臭い埠頭は何処、夜桜舞い散る日本の城とそこに通ずる橋がかかった幻想的な和が馴染み深いフィールドが現れた。
ここまで立派な城はなかったが古に通じている点において一致している故郷・天之御崎を懐かしみたいところだが、そんな暇はない。
フィールド魔法ということはなにか男に有利な効果があるに違いないと狩也は身構える。

「私は《夜陣武者 黄昏》を特殊召喚!黄昏はフィールド魔法が発動している時、特殊召喚できる」
《ATK:1500/Level:5》

「そして、もう2体」
《ATK:1500/Level:5》

レベル5のモンスターが3体揃った。これは恐らく強力なモンスターエクシーズが現れるだろう。

「私はレベル5の黄昏3体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚ッ!」

「一体どんなモンスターを…!」

「日出ずる刻現れし無双の剣、我が手に宿りて燃え盛れッ!《羅刹武者 暁》ッ!」
《ATK:2600/Rank:5/ORU:3》

六つの腕にそれぞれ刀を手にした鬼の武者。
太陽の名を冠した巨大モンスターはまるで悪鬼羅刹のごとき表情で狩也を見下ろしている。

「私はこれにてターンを終了。貴様の力、見せて貰おう」
《Hand:1》

「たかが攻撃力2600程度じゃ、俺は負けねえ!俺のターン!!」

敵がフィールド魔法を使うなら、狩也だって同じ手を使える。
ここは合わせることで自分にも有利な陣地を作り上げることを優先としなければ敵の罠に絡めとられるやもしれない。
つまり初手からクライマックスを狙うわけだ。

「俺はフィールド魔法《ヘブンリィボディの星雲》を発動!」

夜の世界に星が生まれた。
地面の底には星の彼方が広がり、世界の誰も知らない桃源郷を思わせるこの空間は華やかさとは裏腹に互いが互いを射殺すほどの視線のぶつかり合いが繰り広げられている。

「《コスモ・メイカー アークトゥルス》を召喚!更に、アークトゥルスを召喚したことで《コスモ・メイカー クドリャフカ》を特殊召喚!」
《ATK:1200/Level:3》
《ATK:0/Level:7》

「アークトゥルスは、召喚したターンのエンドフェイズまでレベルを7にまで引き上げることができる!」
《Level:7》

狩也も初ターンからレベル7のモンスターを揃えてきた。
しかも《ヘブンリィボディの星雲》が発動している今ならワンターンキルをも狙える。

「レベル7となったアークトゥルスとクドリャフカでオーバーレイ!エクシーズ召喚ッ!秩序の中に眠りし竜、雲貫き、星纏いて舞い降りよ!来い!《コスモ・メイカー ネヴラスカイ・ドラゴン》!!」
《ATK:2600/Rank:7/ORU:2》

天の星が生まれ変わって竜の姿をとったのか、そんな空想が拡がるほど美しい星空の竜が降臨した。
両翼に星雲を宿した竜の熱い想いの咆哮はそれだけで羅刹を砕かんという勢いが感じられる。

「己の主を護る竜…なんと、宝の持ち腐れか」

「ネヴラスカイ・ドラゴンの効果発動!1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い相手モンスター1体を破壊して、ネヴラスカイの攻撃力分のダメージを与える!!」
《ORU:1》

もちろん破壊されるのは暁しかいない、ダメージは2600だが《ヘブンリィボディの星雲》が発動している状態なら話は別だ。

「《ヘブンリィボディの星雲》の効果で、光属性ドラゴン族モンスターが与える効果ダメージは二倍!これで5200だ!」

完璧なワンターンキル戦法だ。
しかし指を指された男の表情に変化はない。負けることを恐れていないのか。

「さっさと決めて、お前からヒカル先輩の居場所を聞き出すッ!行け!ネヴラスカイ、ノヴァブラスト!!」

星の波動が武者を飲み込み、その一撃は迷わず目の前の男へ突き進む。
それでも男の顔はいまだ無表情、恐れは微塵も感じない。

狩也の目に勝利への期待と希望が煌めいた。

まるでそれは一等星のように。










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【あとがき】

今回の一言「だが慶太、テメーはダメだ」
アミちゃんは庇うけど慶太は庇わないヒカル、マジリスペクト。
そしてヴァイス様はやりたい放題。なるほど分からんが高速で脳内を駆け巡る効果説明にジャッジ呼びを禁じ得ない。

な、わけで!!ヴァイスの口から色々説明された通りあんな感じです。
托都の意識を吹っ飛ばしてヴァイスが意識を乗っ取り、まるで自分の体を自分が使っているかのように行動しているというわけです。なので決して托都が突然いたい人になったわけではない、いや元々いたい人だけどさ。
性格が似てるから違いが文だと分からないけど「ぬ」とか付けちゃってる辺りは古代から生きてる感ある、いつかSAKIMORI語で喋り出したりしないよな?大丈夫だよな?大丈夫じゃない。
ヒカルのスーパー現実逃避タイムが未遂に終わる辺り、ヴァイスは有能。覚醒さん今期唯一の出番終了。最近空気だな。
遊矢だけじゃなく後輩を守るために犠牲になる決意ができるようになったのは純粋に成長したと言えるけど、自己犠牲だけじゃ止められないことに気付かないと彼はまた死ぬ(確信)
遊矢の出番が一瞬あったけど本当に一瞬でどうしようって感じがする。相変わらず毎回恒例前半空気主人公っぷりを発揮してくれて僕は嬉しい。ちなみに今期は後半もこんな調子である。
狩也のデュエルが開始ッ!ここからアツいライバル関係が始まるわけですよ、遊矢とヴァイスよりもある意味見所詰まってて個人的に推してます。良キャラ同士のデュエルは楽しい。

次回!!狩也とリコードイミテーション・ムサシのデュエルの後半戦!
衝撃の展開と驚くべきフィールド魔法の効果、一撃必殺の意味を理解した狩也は…?
更に更に、ヴァイスがとった行動が…!?

【予告】
過去の夜空に揺れた星、勝利に焦がれてすれ違った手は今再び握られた。
花散る残酷の中で奇跡に触れる君の想いに応えられる友の姿はなく、ただの孤独に唇を噛む。
たとえ敗北を視たとしても、あの日魔術師が言った言葉を忘れぬために。
その恐怖を怯え隠す姿は、まだあの頃のまま。
第7話「君が君であるために」


~~~





「…」

目を開いた。

満天の星が拡がる天には優しさがない、暖かさもない。
作り物の冷たさだけが肌に触れた。

「…」

氷のように冷たい硝子に触れ、視線を落とした。

今その手にあるのは彼の手をとるための約束ではなく、どうしようもなく彼から突き放された自由のない枷で、近いはずの距離はとても遠い。

金と銀の宝石から零れた滴を拭うこともしないままに、ただひたすら彼らの無事を祈った。

「遊矢…」

今はまだ、気付かない。







Next →


===


人間に転生する度にその人間の情報が入ってくるわけだが…。

今回は凄まじく情報量が多い、なんだ堰櫂托都という人間はそこまで抱えた闇が深いのか。

しかし…朽祈ヒカルによく世話を焼いているな、特別な繋がりが…なっ!?

ま、まさか!!こやつらそういう関係なのか…!?


===

【手紙を求めて…1】


「わ、わわっ…!!」

なんてことだ…!こんなものを見つけてしまうなんて…!!
…周りには、誰もいないな?

「どきどき…」

これは、どこで読むべきか?

「うーん、…そうだ!」
「なにがそうだ、だ」
「えわぁぁ!?た、托都いつの間に!?」
「いくらヒカルでも勝手に部屋に入るのは見過ごせないな」
「い、いや別に間違えただけだ!無実!」
「一体なにを持ち出したんだ、…それ」
「あっそれ…」

取られてしまった…やっぱり秘密だったのかな。

「…………」

あれ?なんか、フリーズしてる?

「托都、もしかしてその手紙…」
「それは言うな…!!…まさか、見たか…!?」
「見てないけど…」
「なら忘れろ!これは人権に関わる、いや俺の人生に関わる…!!」
「な、なんと!?」

気になる…!!すごく気になる…!!

「いいな、忘れるんだぞ」

「……」

めちゃくちゃ気になる…!!




END