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第5話「正義の為と、君は云う」





「なぁ托都、ちょっと」
「どうした」
「はい、右手出して」
「はぁ…?」

ヒカルが突然托都を連れ回し突然呼び出すことはここ最近常のことだが、こうして不可思議な行動をとられれば托都もいい加減に困り顔になってしまう。
ただ言うことを聞かねば拗ねられるのが現実、おとなしく右手を差し出した。

「…なんだこれは」

右手首に髪を束ねるためのシュシュのようなブレスレットを通された。
紅い色が基調で、その上からフリューゲルアーツに似た色の蒼い宝石が纏められた二重の構造になっているらしい。
…が、客観的に見たら托都とは不釣り合いな装飾だ。というより女性や子供が身に付けるアイテムではないだろうか。

「じゃーん!お揃いってやつ?」

見ればいつの間にかヒカルも左手首に同じものをはめていた。
色は托都の方と逆、蒼と紅の両極がヒカルによく似合っている。

「この歳でこんなものを…」
「こんなものなんて、酷いやつだな。いらないなら捨てるから返せ」
「捨てるのは勿体ない。それなら貰っておこう」

しかし珍しいこともあるものだ。
たしかに今日一日、托都はヒカルのとある進言で引っ張られていたが、夜になってこういうプレゼントがあるオチがあるのは想定できなかった。
別に記念日でもなければ托都の誕生日でもないのにどういう風の吹き回しだろうか。

「あのさ、それ、お守りだから」
「なに…?」
「もしもなにかあったら、きっとそれが守ってくれる。俺は傍には居続けられないから」

二人の関係は、守り守られることにある。
互いの背中を預けて日常と非日常の境界線を歩き続ける。どちらかが傷付いても、きっとどちらかが癒してくれる。

決して一人にはしない。

そんな約束をした。

だがヒカルは世界に飛び立つべき存在だ。休みを明ければまたプロデュエリストとしてロンドンへと旅立つことになる。
そうなれば二人は離れてしまう。
だから互いの代わりになるお守りをヒカルは托都にプレゼントした。

「どんなことが起きたとしても、このお守りがある限り絶対に手を離さない」

托都の右手を力強く握ったヒカルの左手は、弱々しいのにとても暖かい。

「では、俺もそれに応えねばな。時が来たならばその手を必ず握ってみせる」

夕焼け空に、誓ったお守りの二色は美しく輝いた。


~~~


「白い、復讐…?」

突如空を裂いて現れた白き外套の男。
あらゆる生物が畏怖するほどの覇気と仮面の奥から感じ取れる生命への賤しみ。
人の形をし人の言葉を話してはいるが、どれも人外そのもの。この世の存在とはとても思えない。

思わぬ敵勢力の介入に狼狽えるヒカルを尻目に、ヴァイスと名乗った男は地上に降り立った。

「女、一旦退け。この場は俺が出張ってやろう」
「ヴァイス様…。貴方ほどのお方があのような小僧と直接話を交わす必要はありません。どうぞ、エデンにお戻りください」
「俺は退けと言った。未完の聖杯がどれほどの勇士か、一見の価値はある」
「…畏まりました」

深々と頭を下げたイヴは左腕からデュエルディスクを消滅させた。
ヒカルのディスクに表示されるエラーと鳴り響く警告音は紛れもなくデュエルが強制終了した証拠だ。

「待て!逃げるのか!!」

「逃げるだなんてとんでもない。次があるなら、ちゃんと決着させましょうね」

追う間もなくイヴはこの世界から消滅した。
仕留められなかった上に敗色濃厚だったデュエルを、まさか敵の手で中断させられ助かったなんて悔しさに唇を噛んだ。
もちろん、その怒りの矛先は新たに現れた白い男に向けられる。

「こんな真似をして、なにが狙いだ!!」

「狙いだと?…ふむ、退屈しのぎにこれから掌握する世界の見物に来た、と言えば納得するか?」

「世界の掌握!?」

世界を滅ぼそうと企てる敵は過去に飽きるほど見てきたが、まさか世界征服が目的の敵が現れるなんて予想外もいいところだ。
古典的すぎてヒカルは逆に目を丸くしてしまう。

「まずは一歩目。貴様には人質になってもらおうか」

「なに…?」

「"奴"の死を望む者がいる。そのために必要な鍵が貴様だ」

"奴"とは何者か、更にその"奴"の死を望んでいる誰かがいるというのも引っ掛かる。
大方、どうでもいい理由で未完の聖杯を使うだのなんだのだろうと考えていたが、少し敵の状況も考えと違うようだ。

「誰が好き好んで人質になんてなるかッ!さっさとお前を片付けて、あの女を追う!!」

「見事な心意気だ。だが、━━━━ッ?」

「えっ?うわっ!!」

ヴァイスが左腕を掲げた瞬間、二人の予期せぬ方向から凄まじい強風が吹き荒れる。
まさに暴風、夏の嵐のような風から誰かの声が聞こえてきた。

「ちょっと待ったぁッ!!!」

「遊矢!?」

竜巻状の風に乗ってやってきた遊矢は狩也や慶太たちを連れ、ヒカルの前で壁になるようにヴァイスに立ち塞がった。
遊矢自身すごくかっこよく登場したが、突然すぎた暴風にひっくり返ったヒカルのことには気づいていない模様だ。

「先輩!無事ですか!?」
「おう、おかげさまでな…」
「話は全部聞かせてもらったぜッ!ヴァイス、お前の好きにはさせないッ!!」

「風雅遊矢と愉快なご一行か」

「愉快な…」
「ご一行…」

遊矢のおまけ扱いに衝撃を受けたアミと慶太より、地雷を踏まれた狩也が先手を打った。

「こっちは5人、お前は1人だ!抵抗するなら容赦はしねえからな!」

「はははっなにを言っている。貴様らなど数に入るものか、数の優位性で俺に勝てると思うなッ!」

ヴァイスから言わせれば狩也、アミ、慶太は頭数にすら入っていない。その事実が狩也を余計に奮起させる。
思わずデュエルディスクを手に取った狩也の手はヒカルが止めた。

「先輩!」
「ヴァイス、お前は…一体誰の死を望んでいるんだ…?」
「誰かの…?」

ヒカルの意外な言葉に互いの闘争意識が止んだ。
そればかりか、挑発を繰り返していたヴァイスが俯いたような気がする。

ヴァイスが言った死を望む誰かとは、ヴァイス自身ではないかとヒカルは推察した。
本当に復讐の神であるなら誰かの願いを叶えることもあるだろう。だがこの男がそんな優しさを持っているとは思えなかったのだ。

重苦しい静寂の中、漸くヴァイスが口を開いた。

「俺が望むのは人類への制裁のみだ」

「じゃあ、不特定多数の死を望むってことなのか…!?」

「その中で犠牲が生まれるなら已む無しだ。だがな、たった一人、そうしなければならぬ奴がいる」

空気がピリピリと張りつめる。
すぅっと息を吸い込んだヴァイスは"彼"を見て言った。

「風雅遊矢ッ!貴様は俺が討ち落とす!」

「なっ!?」
「遊矢を!?」 

「貴様のことが憎いと叫んだ奴がいた。ならば、神たる俺が応えぬはずがなかろう」

先程と同じく掲げた左腕から白い光が溢れ出る。
悪神の輝きとは思えぬその眩さに目が眩んだ瞬間だった。

「故に苦しめッ!爪の先から髪の一つも残さずにもがいてみせろ、神話の装甲ッ!!」

「なに、っ!?」
「風!?うわぁっ!!」

ヴァイスが放った白い光は先程遊矢が乗って来た竜巻と同一規模の暴風を巻き起こし、その場のほとんどが風に耐えられずに飛ばされてしまう。
耐えた遊矢が後方の仲間たちに気が行った隙に、その足元の地面が紅い輝きを放ち始めた。

「ッ!!な、なんだよ…これ!?」

足元から洩れる結界。
その光は遊矢の体に指先から変化をもたらした。
徐々になにかの模様が浮いてくる。それはいばら姫の城に茨が巻き付いていくのと似た異常を遊矢の体に起こしている。

「うぅ…遊矢…!!」

遊矢の様子に気がついたヒカルがよろよろと起き上がってきたところをあちら側は見逃さなかった。

「あ、っ!?」

瞬間移動を思わせる動きで現れたヴァイスはヒカルを脇に抱えて上空へと飛び立つ。

「っ!先輩!!」

「おい狩也!!」

遅れて立ち上がった他3人はなにもできずにそれを見ているしかできなかった。

ただ狩也だけはなにも言わずにその姿を追い掛ける。
遊矢の状況を無視してただひたすらに。

「あのバカ、なにやってんだよ…!!」

「遊矢!!大丈夫!?」
「なんか…体が、重い…」

地べたにへたり込んだ遊矢の顔に汗が滲んでいる。
困惑したアミがちらりと一瞬だけ見た両腕はゾッとするほどに変わり果てていた。
少しずつ黒々と変化する姿を見ていられずにアミは目を背けてしまった。

「どうして…こんな…」
「大丈夫、アミ…。それよりヒカルは…?」
「そんなこと今聞かないで!!」
「早く追わないと…」

「遊矢さん!!」

衰弱して動くこともままならない遊矢に、後ろから少女が声をかけた。

「レッカちゃん!?」
「ここは私がなんとかします!早く追ってください!」
「でも…!」
「狩也さんだけでは勝てませんから!」

遊矢を包む結界に両手を当てて目を閉じたレッカは慶太とアミへ声を飛ばす。

それに納得はできたか、いないのか分からないが、慶太はアミの手をひいてその場から立ち去る。

狩也がヴァイスを追った方向へ向かって二人は駆け出した。


~~~


「ッ放せ!!このっ!この!」
「望みなら離してやろう。ま、落ちて死ぬのが目に見えるがな」

ジタバタ暴れるヒカルを正論で押し込み、地上で追ってきているだろう追跡者たちの姿を捉えてニヤリと笑う。

こうすれば遊矢に対して友達意識の薄い狩也は追うに決まっている。
その上どうやら援軍が来たらしい。慶太とアミが更に後ろからその姿を追ってきている。

無論ヴァイスにとってはこのチェイスも単なる気まぐれに過ぎない。
何故か、手にすべきものを奪った今ならすぐに異界にダイブしてしまえば彼らに追う手段はない。
そこから結論付けられるこの行動の意味は一つ。

「よかろう、数など毛ほどの有利になるものか。俺の初陣に、貴様らの命を以て華を飾ることを赦す!」

自信満々のこの男を間近にしこう抱えられていることしかできないのが中々歯がゆい。
どうにかして顔を見ることはできないものかと上手く角度を変えるが、仮面の形状を若干把握したこと以外は特に目新しいものもない。強いて言えば、風で揺れる白いフードの端から金の髪がちらりと視界に入ったくらいか。

「…金髪…?」

ヴァイスという名前から見た目まで真っ白な男が髪の色は金とはまた可笑しなものだが、その鮮やかな金髪にヒカルはどこか既視感を感じていた。


━━━━━、


一方地を全力で駆ける狩也たちは、上空を飛ぶヴァイスが何者かと合流したのを確認した。
だが合流した後なにを始めるつもりか、左右に分かれていく。

「二手に分かれたぞ!!」
「…アイツ」

分かれた時、左側に跳んだ男が狩也と視線を合わせた。
まるで狙いを定めた猛禽類のごとき眼だ。
それに対する狩也の表情の変わり方を見た慶太は分かれ道の、右の道に逸れながら言う。

「狩也、お前は左のやつ頼む!」
「慶太くん!?」
「俺らが真っ白野郎を押さえてやっから、やりたいことをやりたいようにやれッ!!」

「…分かった!」

少しだけ言い淀んだ狩也は返事を返してすぐに左へと疾走していった。

見届けたあと、慶太とアミは右の道を抜けて、工業地帯特有の狭い道や迷路のような通路を通り、あやしいガスの臭いが漂う廃工場の広場へと到達した。

そこには頬をついて退屈そうに待っている白い男。
と、その後方、二人にとって見たこともないような不思議な構造をした檻に閉じ込められているヒカルの姿があった。

「おう!待たせたな真っ白野郎!」
「遊矢になにをしたの!?」

「はぁ…人間はいつの時代も厚顔無恥な輩しかいないのか。文明が栄えようともその性質は変わらんのだな」

ヴァイスは瓦礫から立ち上がり二歩三歩先に進んだ後、左腕を掲げ黒い霧からデュエルディスクを精製した。
そのディスクはどこかで見た気がするような、しないような形状をしている。
だが慶太やアミに、それを気に止める余裕はない。

「最初からやる気なら!」
「デュエルで勝って、全部聞き出してやるッ!」

二人のデュエルディスク、花や蝶を模した華やかなそれが展開され、辺りはARフィールドへと変貌を遂げる。

「「「デュエル!」」」

《LP:4000》

火蓋は切って落とされた。
敵は未知の存在。どういうものか、デュエルという概念以前に何者かも分からない。
しかしなにも知らないからと言って、負けるわけにはいかない。二人にはその仮面を剥ぎ、白い男から二人の未来を奪い返さねばならないのだから。

「っ…!?おい、誰かそこにいるのか!?」

「ん?」
「ヒカルさん!!私たちです!アミです!」

ヒカルの声が檻の中から響く。
だが様子がおかしい。まるであちらからはアミたちがなにをしているか、なにも把握できていないかのような言い方だ。

「なにも見えない…!くそっ、どうなってるんだこれ!」

「大したことではない、貴様の視界を一方的に遮断させてもらった。見るに堪えん殺戮は精神に苦だろう」

どうやら敵には敵なりに気遣いをしているつもりのようだ。全くもって余計なお世話だが。

視界を遮られた状態ということはヒカルからデュエルの内容は全く確認できない、ということだ。
ヴァイスの手の内を絶妙に隠す手段としては申し分ない。

「貴様らはフィールドのカードを共有することを許す、そしてライフポイントは互いに4000持つといい」

「随分余裕じゃねーか」
「バカにして…!」

「代わりといってはなんだが先攻をもらおう。では、ゆくぞ」

ルールは変則のタッグデュエル。
2対1の方式で、二人はフィールドを共有するがライフポイントは共有しない。しかもヴァイスに与えられたのは先攻の権利のみ。
明らかにアミたちが有利だが、先程ヴァイスは数は意味を成さないと豪語した。勝てる自信があるというのか。

「俺は手札より魔法カード《二対転輪》を発動!デッキからカードを2枚選択し、ゲームから除外する代わりに、デッキからカードを2枚ドローする!」

「先攻はドローできないっていう不利を早速…」

40枚のデッキから引き抜いた二枚のカード、それらにヴァイスは明らかな高揚を見せた。
これからなにが始まるのだろうか。

「見せてやろう。これがあらゆる世界、あらゆる事象より俺が取り込んだ力の一つだ!」

手札からカードが2枚選ばれた。2枚、つまり魔法や罠だろうか。危険な香りがフィールド内に立ち込める。
だが、それらは予想を遥かに上回るものとなって二人に立ちはだかることとなった。

「俺は《転生の堕天使》と《輪廻の智天使》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
《L:1》 《R:10》

「ペンデュラムスケール!?」
「なにそれ!!」

スケール1の《転生の堕天使》とスケール10の《輪廻の智天使》がペンデュラムゾーンにセットされた。
これによってレベル2から9のモンスターを手札から召喚可能となる。

一見すればこのプレイングはとるに足らないものだろう。
だがそれは、"この世界では"非常識となる。

「ペンデュラム召喚!現れろ、我が手に宿る力よ!《機械堕天使 スカーバティ・ネメシス》、《機械堕天使 ヘブンズ・アルテミス》!」
《ATK:3000/Level:8》
《ATK:0/Level:2》

禍々しくも美しい両翼は楽土か天国の使者のものか。二体のモンスターはその見た目に似つかわしくないフィールドに顕現した。

「なんだ、あれ…」

「ペンデュラム…?なにがどうなって…?しかも、機械堕天使…!?」

出現した2体のモンスターのレベルは全く異なっている。
召喚条件すらロクに知らされぬまま、"未知の"召喚法「ペンデュラム召喚」は行われた。

ペンデュラム召喚とは、特殊なモンスターカード「ペンデュラムモンスター」を2体必要とし、ペンデュラムゾーンと呼ばれる場所に2体をセットすることで、レベルとは異なる「スケール」の数値の間のレベルを持つモンスターを複数呼び出す召喚だ。
今回の場合スケールは1と10。つまり、2から9のレベルのモンスターをペンデュラム召喚が可能だったわけである。
(※現マスタールールでは、ペンデュラムゾーンは魔法・罠ゾーンと合併されていますが、本作では前マスタールールを採用していますので、ペンデュラムゾーンは別枠とさせていただきます。)

「これこそがペンデュラム召喚。事象"ARC-V"より生み出された覇王の技術だ」

「ペンデュラム召喚…なるほど、そういうこと…めんどくせえなこりゃ」

オチャメに片目を瞑った慶太。内心はあの敵に対して前人未到の勝利を上げるための策を考えることで精一杯、余裕なんて無い。
隣のアミはあからさまに動揺している。慶太がなんとかしなければ、パニック状態になってしまうかもしれない。

「俺はカードを1枚伏せ、ターンを終了する」
《Hand:1》

モンスターの効果はどうなのか、ペンデュラムモンスターは本当に召喚にしか使えないのか、二つの疑問が慶太の脳内を駆け巡る。
しかもトドメを刺すかのような「機械堕天使」というカテゴリ。昨日の今日でこれとはなんの因果なのか。
そもそも何故機械堕天使を使っているかが不明な点は置いておくが。
だが迷う暇はない、戦いは始まっているのだから。

「俺のターン!!」

アミにできるだけのサポートをする、これだけで戦況は大きく変わるはずだ。
未知の召喚法・ペンデュラムと機械堕天使たちに対抗できるのは今ここでアミにしかできない、"エクシーズシンクロ"だけだと信じて慶太は戦うしかない。

「俺はカードを3枚伏せる、そして《鎖鳥の竜騎士 ネモフィラ》を召喚ッ!」
《ATK:0/Level:1》

凛と咲く花はネモフィラの花の小さなワイバーンに騎乗し、力強く剣を抜いた。

「ネモフィラは俺のフィールドにカードがセットされた状態で召喚に成功した時、伏せカード2枚とネモフィラをゲームから除外してエクストラデッキからレベル8以上のモンスター1体を、召喚条件を無視して特殊召喚できる!」

小さな体に大きな可能性。
ネモフィラには伏せカードと自分自身を生け贄に捧げることで、強大な力を産み出すことができる━━━のだが、モンスターエクシーズが持つのはレベルではなくランクだ。もちろん慶太がモンスターエクシーズを持っているわけがない。
ならば誰がレベル8以上のモンスターを呼び出すのか、もう決まっている。

「アミ!!」
「わ、私!?」
「うん!」

そう。エクストラデッキにレベル8以上のモンスターがあるのはこの場でたった一人、アミだけだ。
慶太からの支援で落ち着きを取り戻したアミは、デュエルディスクのエクストラモンスターカード収納スペースから飛び出した一枚の白い枠のカードをディスクにセットした。

「来て!瑠璃色に煌めく蝶の竜!《煌蝶竜 ラピスラズリ・バタフライドラゴン》ッ!!」
《ATK:2800/Level:8》

荘厳にして美麗な瑠璃の体を持つ竜。
目を覆ってしまいたくなるほどにまばゆい輝きに、重苦しい覇王の気配を一瞬で消し飛ばされた。
この世のものとは思えぬ"奇跡(シンクロモンスター)"は、蒼いネモフィラの花舞う世界に現れた。

「見たかッ!俺たちのコンビネーション!」

「ふんっ…たかが即席程度でなにをほざくか。呼び出しただけではスカーバティ・ネメシスにも劣る木偶の坊にすぎん」

「私のラピスラズリ・バタフライドラゴンは木偶の坊なんかじゃないわ!」
「そうだぜ!さぁアミ、ガツンと決めよう!ターンエンドだ!」
《Hand:2》

フィールドを共有しているため、慶太はフィールドを開けたままでもターンを終えることができる。
しかもこの変則ルール、次にターンが回ってくるのは…。

「私のターン、ドロー!!フィールドに「蝶竜」と名のつくモンスターが存在する今、魔法カード《クリスタル・ムーン》を発動!」

《クリスタル・ムーン》は自分フィールドに「蝶竜」と名のつくモンスターが存在する時、エクストラデッキからエクシーズチューナーモンスターを特殊召喚できるとても強力な魔法カード。

そしてエクシーズチューナーモンスターとは、これからアミが行う「エクシーズシンクロ召喚」に必要不可欠なモンスターだ。

「現れて!エクシーズチューナー、《クリスタル・ローズクィーン》!!」
《ATK:0/Rank:4/ORU:0》

エクシーズシンクロ召喚、それはシンクロモンスターをエクシーズチューナーモンスターでチューニングして行う奇跡の召喚法。
シンクロモンスターともモンスターエクシーズとも違うモンスターは互いの性質を掛け合わせ生まれる存在だ。

「私はレベル8のラピスラズリ・バタフライドラゴンにランク4の《クリスタル・ローズクィーン》をチューニング!光満ちる時、希望開く星光なる蝶…今舞い踊りて輝く未来を!エクシーズシンクロ召喚!煌めけ!《水晶蝶姫 クリスタル・ディーヴァバタフライ》!」
《攻撃力:3000/ランク:12》

四つの光の輪が天に昇り、竜は光目掛け羽ばたき、体を八つの光に変えた。
その光から開いた新たな道には蝶竜と同じ輝きを放つ水晶の蝶の翼を宿した、華々しく美しい歌姫のモンスターが降り立つ。

これぞエクシーズシンクロ。
モンスターエクシーズでありながらオーバーレイユニットを持たず、シンクロモンスターでありながらレベルを持たない蝶竜の化身の姿だ。

「クリスタル・ディーヴァバタフライの効果発動!このモンスター以外の特殊召喚されたモンスター全てを装備し、バトルの時全てを除外することで攻撃力を合計分アップさせ、その数だけバトル回数を増やす!」

「ペンデュラム召喚は特殊召喚扱い…、セッティングされたペンデュラムモンスターは問題ないが…」

大量召喚を持ち味とするペンデュラム召喚には効果絶大、予想外の痛手にヴァイスは思わず危機感を感じたか。

フィールドに召喚されていたスカーバティ・ネメシスとヘブンズ・アルテミスはクリスタルと化してクリスタル・ディーヴァバタフライに吸収された。

「ついでに罠発動!《重力転換-グラビティ・ソーン》!このターン、エンドフェイズまで俺たちのフィールドのモンスター以外、効果を発動できない!」

ペンデュラムモンスターがいかなるモンスターであろうと、効果を封じられれば手も足も出ない。
フィールドはがら空き、与えられるダメージ総数は12000ポイント。これが決まれば圧勝のワンターンキルコンボ完成だ。

「バトルよ!クリスタル・ディーヴァバタフライの効果で、装備した二体を除外して攻撃力アップ!2回のバトルを行うわ!」
《ATK:6000》

「よし!行けぇ!!」
「これで終わりよ!ダイレクトアタックッ!クリスタルハミング!!」

「ッ!!」

歌姫の歌が放つ光の波動が衝撃波となりヴァイスへ襲い掛かる。

ヴァイスは身構えこそしたものの、攻撃は直撃。
間違いなく倒した、それを確信できるほどの一撃であった。

土煙の向こうに消えたヴァイスの姿は確認できないが、ヒカルの様子は大きく変化していた。

「あ、あれ…?見えてる…?」

「ヒカルさーん!!」

「アミ、慶太…ってお前らなんでここに!」

「まぁまぁ勝ったんだからいいじゃないッスか~!!」

どうやら先程まで全く見えていなかったアミたちの姿が見えるようになったらしい。
更に檻が上部から消えてゆき、呆気にとられたままのヒカルが地べたに座った状態で残された。

「よかった!無事で本当によかった!!」
「見たか真っ白野郎!!これが俺たちの、正義の一撃だッ!!」

意気揚々とする慶太は拳を固めてヴァイスに対して叫ぶ。

だが━━━━、

「そうか。貴様らの正義は、この程度か」

男は目の前で嗤っていた。

「えっ!?」
「まだってことかよ…!!」

土煙の中に消えたヴァイスのシルエットは、マントのフード部分に隠されていた姿を描き出す。

"それ"の正体を後ろから見たヒカルは驚愕した。

「嘘、だろ…?」

「嘘なものか。だが、残念だ。わざわざ姿を晒すつもりはなかったが…仮面を剥がされた以上、仕方のないことだ」

徐々に晴れる煙の奥、壊れた仮面の中にある"白い眼"が二人の姿を捉える。
そして顔の上部を覆い隠していた仮面がヴァイスの鳴らした音ひとつで粒子と化して、煙と共に消えていく。

そうして現れた真の姿に、アミと慶太は言葉を失った。

「どうして…!?」
「━━なんだって、こんなことにッ!」

風に靡く金の髪は獅子のごとく、茶色の髪はふわりと揺れる。
開かれた瞳の色は森のように深い、"あの"深緑の瞳ではなく、不気味なほど煌めく白い瞳。

「なんでお前が……!!」

思わず叫んだ、仮面の奥のその正体の名を。



「托都━━━ッ!!」



あの日消えた非日常の彼は、闇を裂き、黒を白へ潰して現れた。



風雅遊矢へ、復讐を遂げる概念(ひと)として。





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【あとがき】

今回の一言「ヴァイス様絶好調」
舌が回る回る、お前普段そんなに喋ったりしないだろってくらいよく喋る。ただ根が何一つ変わってないからアレもなにか機会があれば同じくらい喋りそうな気はする。

と、いうわけで!!一体何者なんだ(笑)と言われ続けたヴァイスの正体が明らかになりました!テンション高すぎて本当に本人は素顔を見せる気なかったのか。
あとヴァイスさん実はヒカルさんにはバレてた説を提唱しておく。驚いてはいたけど、金髪の下りでバレてたろ。
なによりも、ペンデュラム召喚初実装…!!!案ずるな、次回にその本気を見せてやろう。…本気じゃないけど。
アミちゃんのデュエルが久しぶりー!!二年ぶりー!新規カードがねえ!!!(悲しみ)
みんな大好き魔法少女ぶりを遺憾なく発揮してくれているアミちゃんに思わず聖桜もにんまり、慶太もにっこりである。
慶太の思わぬ連携プレーはなんだかコイツ永遠の二番手だなってのを確信させた。つかコイツまた主夫力上がった?
狩也はまさかの遊矢スルー。また狩也が遊矢と仲違いしてる…。別に遊矢と仲悪いわけじゃないよ、狩也が一方的にツンデレなだけだよ(要するに仲良し)。
遊矢はなんかよくわからないトラブルが!!あれはなにが起きたんですか!次回以降を見ろ!!

次回!ついに明らかになったヴァイスの素顔、衝撃の展開にヒカルがとった行動は…?
そして、謎の影を追った狩也はその影と対峙する。一撃必殺のデュエルが今始まるッ!!まだ6話だよぅ!?

【予告】
正義を成す為、悪となれ━━囁かれた言葉は黒い空の下で木霊する。
いつから黒だけが穢れであると言われていたのか、そこに在るのは世界を潰す白き特異点。
繰り返される人生(ひげき)の中で、見つけた答えを果たすため、彼は時を廻り続けた。
そう、これは人類への救済だ、と彼は云う。
第6話「悲劇より顕れる」


===


はぁ…久々のデュエル回だと思っていたら、何故かデュエルが中断されていた。

その上アミにメインデュエルを取られる始末。

慶太はともかくアミが今さらデュエルしていることに誰も違和感はなかったのか。

これが、展開の圧力…。次回もデュエルはないんだろうな…。


===

【夏休みの思い出…1】


「夏祭りだぜッ!!」
「……」
「そうか」
「ってぇ…二人とも!!今日のお祭りいかないのかよー!!」
「行ってどうするんだよ、この家から花火は見えるし、騒ぎになるのが目に見えてる」
「くっ…正論…」

で、でも!!どうしても二人と行きたい!夏祭りに行きたいんだ!!
なのに…二人はどうしてこんなに落ち着てんだ…?…あ、いや冷めてるのかもしれないけどさ。

「頼むぜヒカル!!」
「いやだ」
「托都!!」
「…遊矢、聞きたいことがある」
「えっ!?なになに!!」

もしかして、一緒に行ってくれるんじゃ━━━!!

「夏祭りとは…なんだ」
「うんうん!ってえええぇぇぇ!?」
「祭りと言われれば、分かるが…夏が付くことによって、変化があるのか?」
「…」

祭りに夏がくっついたら起きる変化…たしかに、ただの祭りと変わらないよな…いやいや俺が知らないだけで実はなにか違いがあるとか、ないとか…あるとか?

「多分…」
「多分?」
「夏祭りに行けば答えが見つかるはずだッ!!」
「ならば行こう」
「よっしゃあ!!」

ちょろいッ!!
あ、でもホントになにが違うのか気になるなぁ。探してみる?

「(夏祭りの起源が分からないのかこの二人。…面白そうだから観察するか…)」