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第3話「堕天使の舞踏会(マスカレード)」


遠退く意識の中で、一点の光が灯った。

━━━手を…ッ!!

暖かい日だまりのような懐かしさに、身体は自然と動いていた。
その光に手を伸ばしたが時すでに遅し、意識はブツリと、コンセントを抜いたテレビのように消え失せた。

彼は、大切な人の望む世界を望めなくなった。
故に悔いはなかった。なかったはずなのに、何故なのだろう。

"あの人が幸せならそれでいい、自分には関係ない"と胸に秘め続けていた言葉が今以上に適しているとは思えない。

もう朝日は昇らない。

この選択は正しかったのか、確かめることもできない。

「…俺は」


━━━━━、


「…俺は、…?」

やけに眩しいような、暗いような、よく分からない場所で目が覚めた。
少しずつ視界が明瞭化していき、辺りの様子が明らかになり始めて見回してみた。
どうやら下が明るく、上は暗いようだ。
照明が下に付いているのだろうか。

人気がなく不気味な雰囲気が漂うこの空間が多分ではなく絶対昨晩の事件が関係していると理解できた。
尤も真っ暗なため、夜が明けたとも言い難いが。

ガンガンと頭が痛むのは無視して、とりあえずの目的はこの空間からの脱出だ。
まずは立ち上がろうと床から手を離した。

「っ!!」

瞬間、吸い込まれるように体は倒れ、立ち上がることができなかった。

「どうなっている…?これは、」

よく、よく目を凝らして見てみると手首になにか巻き付いている。
糸のようなそれは引きちぎろうにもやたらと頑丈で、特に左腕の方は何重にも巻き付けられ、頭痛の理由がなんとなくわかった気がした。

「ご丁寧にここまでするとは…全く、大人しくしろということか」

周到にも左腕を封じられては抵抗もままならない。
どうせ制限されてはやることもないのだ。夜のあの出来事を思い出すことにした。

「ヒカルは、無事なのか…?」

流れ星のごとき登場で現れた新たな敵・原罪のイヴ。
彼女は罠を張り錬金術を行使、ヒカルの身体を分解処理しようとした。
止めることができない彼に対し、持ち掛けた取引は「自身が身代わりになる」こと。
托都は確かに返事をイエスで返し現在に至っているが、取引が果たされたとは限らない。

未完の聖杯はいらない、と言ってはいたもののその存在は強力な兵器に他ならない。
かつて、錬金術師・ヴェリタスは裏切りを促し記憶を操作する凶悪な洗脳装置を使いヒカルを利用したこともあった。
そんな事態に陥っていってしまっていたとしたら、どうなのか。

そして、気になることがもう一つ。

「白き神、か」

黒い神ならここにいる。だが"白き神"とはなにを指しているのか。
托都自身となんらかの関係があるのか、全く別の存在なのか、抽象的な言葉からはなんの考察もできやしない。
ワードの少なさもあるが、思考を一々止める頭痛が忌々しい。

「そろそろ限界…だな」

座り込んだまま、右手で前髪ごと額を押さえ込んだ。

托都の左腕にある不気味な模様━━混沌の刻印は、人ならざる者の証であり世界を束ねる者である証拠だ。同時にデュエルディスクにも、攻撃や守りの手段にも利用される。
その代償か、コレに人が触る等触れられた場合、全身に痛みが伴う。
そこから導き出されるのは、触れられている間はなにもできない、なんの能力も動きもとれないという最たる弱点。

限界というのも、食い込むほど巻き付いた糸に締め付けられた左腕が、ずっと危険信号を発しているからだ。

「意識が飛ぶ前に、脱出の手を…」

頭痛が酷い。思考を固めるほどに凍り付く。
考えることをやめたらマズイと警鐘を鳴らしている。

「手助けが必要かしら」

パチン。
指を鳴らした音と同時に脳内を掻き回していた痛みが消え失せた。

「━━貴様は、」

「さっきぶりね。さぁ、お話を始めましょうか」


~~~


朝日はあたたかに、暗い部屋に朝焼けが差し込む。
無機質な電子音だけが鳴り響く部屋で、遊矢は浮かない顔をしていた。
静かすぎる時間の流れはつい昨晩の襲撃などなかったと言わんばかりに主張しているが、敵の作った布陣は完璧に遊矢たちを囲い込んでいた。これに落ち着いてなどいられない。

━━━話は数時間前に遡る。

まず"前提"としてだ。
C.C事件後のトラヴィスは父が伝えてきた教団の教えを破棄。道を外した者はセキュリティにより捕縛され、その他は日常に消えていったはずだった。
だが一部は身内を失い一人残されたトラヴィス自身を案じ、彼の手足となりあらゆる地域に散らばっていた。

特に幼少からの従者であるアルカナはこの事件の折、トラヴィスからの通信を通じヘリを飛ばし、保護を行った。

ヒカルの無事はトラヴィスの予想外なファインプレーによって確認された。だが予想外は更に遊矢を驚かせる。

"托都の行方が分からない"

そんなことを誰が予想できたか。
遊矢自身が托都を心配していないわけでは決してないが、何故あれほど警戒心が強く人間的にも異端としても強力な力を持った托都が、と戸惑ったのだ。

なにがあったかはきっとヒカルが知っている。

目覚めるのを待つ室内に、一人の女性が入ってきた。

「遊矢、」
「リンさん…」
「今アドルインが全力で調査中、あの場でなにが起きたかは大体分かるはずだ」
「ありがとうございます。でも、それより」
「分かっているさ」

以前、クロスが解説した未完の聖杯のメカニズム的にも托都がそうなる可能性は確実に0だ。リンにも皆目見当がついていない。

リン曰く「ドン・サウザンドが自演自作でなにかをやらかしたか」とそんな予想を立てたらしい。
今が丸くても実際は破壊の神、バリアンという悪の混沌の頂点だ。いつ人間界とアストラル世界に牙を剥くか分からない以上は疑いもかけたそうだ。
しかしドン・サウザンド自身がこれを否定した。
むしろ想定していない、何処にいるか把握すらできないとのことなのだ。
もちろん、丸々信じるつもりは毛頭ないが。

「ん…っ」
「!ヒカル!」

僅かな陽射しを取り込む二色は、月と太陽の色。
朝の光の眩しさにヒカルは目をぱちくりさせた。

「━━朝…?…あれ、遊矢…ぁっ!?」
「よかったぁ!このまま起きないんじゃないかってハラハラしたぜ!」
「お、おい!苦しい!抱きつくな!」

名を呼ばれて僅か0秒、飛び付いた遊矢の表情は安堵のそれだ。
だがヒカルがそれを理解したかは別の話。すぐに突き飛ばして呼吸を整え始め、落ち着いた頃には遊矢も冷静になっていた。

「それで、どうしてこんなところに?」
「深夜に山奥で倒れていれば病院に運ばれるのは自然だろう?」
「…あぁ。まぁ、そうですね」
「詳しい話はゆっくり聞かせてもらう、まずはこちらの話から聞いてもらおう」

ヒカルから聞ける話は多いだろうが、目覚めたばかりで調子が通常に戻るまで時間も必要。まずは遊矢側の出来事を話すことになった。


~~~


岸岬狩也は悩んでいた。
缶コーヒーを片手に青空を眺め、天に向かってため息をついた。

「なーに黄昏てんだよ狩也」
「慶太…」
「話、一応聞いたぜ。大変だったんだな」
「大変だったのは先輩だろ」

遊矢よりは話し掛けやすい。現在の慶太に対する狩也の評価だ。
この気さくさと絶妙に地雷を避ける会話術。遊矢のようにプライドをズタズタにしてくるような踏み込み方はしてこない、なんだかお母さんのような包容力まで持ち合わせている。
その上、本人は狩也に比べて強くあることに拘りがない。それは"諦めというより見守るため"な気がする、とアミが言っていた。

「界の空で力を手に入れたんだ」
「うん」
「これさえあればもう噛ませ犬になんてならない、誰かに弱者だって言い訳を押し付けずに済むって思ってた」
「そっか」
「それがなんだ、昨日のザマは。遊矢に言いくるめられて役目を取られて、結局遊矢はあのままやってたら勝ちだった」

もし俺だったら、勝てていたのか。
狩也はそう続けた。

C.C事件において、主犯であるトラヴィス以外に同罪を課されるほどの人物がいたとするなら、間違いなく狩也の名前が挙げられるだろう。
己の強さのために裏切り、遊矢への嫉妬心から敵対。一時は遊矢を追い込み、そして倒した。
その代わりに得たものはなにもなく、最後には心の内側がすっからかんになっただけだった。

遊矢たちの優しさかそれとも事情ゆえか許されて、距離を少し置きながらも裏切り者なんて話はなかったと言わんばかりに友達らしい扱いを受けているが、それが逆に狩也の首を絞め続けた。

━━━そんな狩也に思ってもいなかった機会が訪れた。

界の空。世界の狭間に迷い込み、錬金術師と再会した狩也は遊矢たちと同じ力…フリューゲルアーツを手にした。
今まで自分が思っていた嫉妬心すら自分が弱い理由を他人に押し付けるための口実にしかなっていないのも分かった。

結果、こちら側に戻ってから漸く自信もついてきた。
ヒカルに師匠になってもらい指南を受けていると、相応の実力もついてきたのではないかと思えるのだ。

…とはいえ、その自信も昨日の件で溜まったゲージを0にされてしまったわけだが。

「別に狩也は狩也だし、やってないのに負けた勝ったは分からない。それにまだ次があるだろ?」
「あれば、の話だけどな」
「これで終わるとは俺は思わねーよ?」

リコードイミテーションと遊矢に呼ばれた敵は目的を果たしたとは言ったが、あの"一人目"や"一体目"の意味は分かってはいない。慶太の言う通り、再襲撃ありえる。
こう言ってはいるが、狩也自身次があるなら確実に戦いを望むだろう。

「ま、難しいことは後でだ!とりあえず、遊矢のところ行こうぜ!ヒカルさんのこと心配だろ?」
「そうだな」

次のことより目の前の先輩の安否だ、とこう落ち込んでも思えるのは間違いなくその先輩のおかげだ。
広場からすぐ近くの医療施設に向かおうと振り返る。

「…おいおい」

そこに少女が立っていた。
それもとびきり怪しい黒いローブを深く深く被っている。

「ほら、言ったソバからってやつ?」
「マジかよ」
「こんな夏に真っ黒なんてあの人以外でありえるかって!て、わけで!誰だお前!!」
「おい…慶太、」

カンッ!!

ハイヒールを鳴らす音が場の明るい空気を一変させる。
慶太も遊び半分ではいけないか、と薄ら笑いを引っ込めて真顔に様変わりだ。

「私は、托都さんのお話を聞きに来ました!風雅遊矢さんはどこですかッ!?」

「遊矢を、探してるのか…?」
「あのなぁ!聞き方ってモンがあるだろ!大体、お前みたいな怪しい奴に誰が教えるか!」

「なーにを偉そうにッ!私はあの施設の古参ですから!はい、論破ッ!!」

「なんにぉおー!?」

論破か不思議な論破に慶太が地団駄を踏んで怒っている。
最初から怪しんでいた慶太からすれば神経を逆撫でする一発を食らったと言ってもよいだろう。
逆に隣の狩也は冷静で、しかも先ほどの言葉の意味に心当たりがあった。

"施設の古参"ということは、托都の母の住む孤児院を指しているはずだ。
以前遊矢から無駄に話を聞かされていたためすぐに思い当たったが、にしてもこの見た目と態度には違和感しかない。

「場所を教えてもらいます!私はあの人に会わなきゃならない、この先の未来のために!」

「未来のため、だと?」
「おう!そんなに知りたきゃデュエルで俺に勝ってみろ!」
「慶太、まずは話を聞き…」

「分かりました!」

返事を返した後少女は狩也の方を見た。
意味ありげな表情は、なにかを伝えようとしているのだろうか。

「ここで私の実力を、知ってもらうのもいいかもしれませんから!」

少女はこんな人に負ける気がしないと続け、烈火の炎のように紅いデュエルディスクを装着して、被っていたフードを脱いだ。
燃えるように紅い瞳、その紅さはまるでデュエル時の托都と同じような異質な輝きを放っている。

「慶太、」
「言いたいことは分かってる。でも、それでも昨日の今日なんだ、分かってくれよ」
「…了解だ」

慶太も頭では理解していたようだ。
ただ警戒するのは間違ったことではない。もしかすれば少女が敵である可能性もある、可能性は感じた時点で捨ててはならない、確信に変わったなら別の話だが。

「「デュエル!!」」

《LP:4000》

「先攻はいただきますッ!私はフィールド魔法《堕天使の舞踏会(マスカレード)》を発動ッ!」

「へえ、早速フィールド魔法か!」

青空はARに掻き消され、移り変わりし舞台はまさに豪華絢爛の舞踏会。
黒い羽根が舞い落ちる宮殿に迷い込んだデュエリストの運命は、魅了され敗北に膝をつくかそれともダンスをモノにしての勝利か。

「このフィールドでは互いのプレイヤーは1ターンに1度、《仮面天使トークン》を特殊召喚しなければならない!そして、このトークンは特殊召喚の素材にしなかった場合、エンドフェイズに破壊されて800のダメージを受けることになります!」
《ATK:0/Level:8》

「エクシーズ対応のトークンだって…?」

トークンのテキストには、本来なら絶対にありえないはずのエクシーズ召喚に使用できるという文が書かれている。
このフィールドにおいてはなんでもあり、自由だとでも言うのか。

「そして私は魔法カード《複製天使加工術》を発動!これにより、私はもう1体の《仮面天使トークン》を特殊召喚します!」

レベル8のモンスターが2体、エクシーズ召喚対応ということはやることも必然的に、ランク8モンスターエクシーズのエクシーズ召喚だ。

「レベル8の《仮面天使トークン》2体で、オーバーレイッ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚ッ!!」

吸い込まれた紅い光は思わず目を背けてしまうほどの光を放ち、亜空間から降り立つは機械の身体、折れた片翼を隠さない、薔薇の花の意匠が凛々しい堕天使。
その風貌はまるで━━━━、

「天上より堕落せし紅き女王よ、その紅き薔薇で暁を穿て!現れよッ!《機械堕天使 ローゼン・ルシフェル》!!」
《ATK:2500/Rank:8/ORU:2》

言葉を失った。
美しさではない、あまりの衝撃にだ。

「おい、嘘だろ…なんで」

何故あの男…托都以外のデュエリストが


「機械堕天使だとッ!?」


"機械堕天使を使っている"のか━━━。


~~~


「さぁ、お話を始めましょうか」

「話すことがあるのならな。生憎俺にはない」

「いけずね。でも同感よ、私も貴方にする話はないの」

まるで支離滅裂だ。
話がないのに話をしようとは、まるで自分からはなんの話もないから向こうから話を聞いてあげようとわざわざ一緒にいる友人のような行動に少し首をかしげた。

女がなにをしたか、先程までの頭痛も綺麗さっぱり消え去り思考がやたらとクリアなのも意味があるのだろうか。

「でも仕方がない。目覚めていない以上、私はやるべきことをやるだけ」

「目覚めていないとはどういうことだ。この通り、最悪な目覚めだったわけだが?」

「言っているでしょう?"貴方に"興味はないのよ。私達が欲しいのは"白き神"。出来損ないなんて持て余すだけよ」

やはり同じワードが出てきた。
興味がない、なら何故わざわざ手元に置く必要があるのか。生贄、あるいは誘き出すための餌か。
ドン・サウザンドもお世辞には白い神とは言いがたい、むしろあれは紅き神というべきだろう。

「此処で答えを教えてあげる。貴方が一体なんのために神に等しい力を手にし、なんのため今まで生きてきたのかを」

虚空に突き出した左手に、光に包まれた石の短剣が握られた。
イヴは妖しい笑みを浮かべたまま、托都の身動きを封じている結界が広がる牢の奥に踏入り、鋭く研かれた白い剣を右手で擦り撫でる。

「我々が求める白き神は、あらゆる世界の概念を内包した存在。概念が存在する限り死ぬことのない概念そのもの」
「概念そのもの、だと…?」
「ええ。そして、白き神が司るは『復讐』の概念。人間同士を嫌悪する世界の象徴」

概念の化身は姿を持つ者こそいないが、その魂はその概念に最も相応しい生物を選び、個体の死が訪れる度に魂から魂へと移り変わり、転生(リンカーネイト)する。

「概念に選ばれた生物は、本来その瞬間に個体の人格を食い破られ消滅する。…でも、」

伝えられた言葉の意味を理解した時、背筋が凍る感覚を味わった。

もし、復讐の概念を持つ存在に選ばれ、魂が宿ったとすれば、なにがあるか。


「貴方は、何故━━━目醒めていないのかしら」


~~~


言葉を失うその姿。
君臨したのは薔薇色の堕天使。

「見ましたか!ええ、見たでしょう!これが私のエースモンスター。《機械堕天使 ローゼン・ルシフェル》ですッ!」

薔薇の香りを辺りに散らす堕天使の姿に慶太も狩也も衝撃が隠せなかった。

世界でたった一枚ずつ、混沌の力が産み出しているはずの『機械堕天使』。
托都以外が使うはずがないそのモンスターと同じ名を持った機械の堕天使とそれを使役する謎の少女。
謎は増える一方だ。

「私はカードを1枚伏せてターンエンドです!さぁ、アナタの実力を私に見せてください!」
《Hand:2》

「おいおい冗談じゃねーぜこんなん」

「慶太狼狽えるな!後退すれば向こうの思う壺だ!」

「わぁってる!俺のターン、ドロー!!」

托都とデュエルをしたことはない、ということはもちろん機械堕天使と対面したことがないわけだが、そもそもあんなモンスターに対策を取ろうと思う方が間違いだ。
ここは一点突破、ダメージを与える云々よりも確実に倒すことが大事だろう。

「俺はフィールド魔法《堕天使の舞踏会》の効果で、《仮面天使トークン》を特殊召喚!更に、このトークンをリリースして《ロザリオ・ワイバーン》を特殊召喚!」
《ATK:1000/Level:4》

《ロザリオ・ワイバーン》はフィールドの植物族以外のモンスター1体をリリースすることで特殊召喚できるモンスターだ。
これでこのターン、慶太が800のダメージを受けることはない。

「そして俺は《鎖鳥の騎士 ロータス》を通常召喚!ロータスの効果で、手札の鎖鳥モンスター1体を墓地に送り、デッキから鎖鳥モンスター1体を特殊召喚する!来いッ!《鎖鳥の狩人 ガーベラ》!」
《ATK:1700/Level:4》
《ATK:1800/Level:4》

蓮と扶郎花の二体は薔薇と十字のワイバーンの両脇に出現に、剣と弓を構える。

これにより慶太のフィールドにレベル4のモンスターが3体揃った。

「レベル4の《ロザリオ・ワイバーン》と、ロータス、ガーベラでオーバーレイッ!エクシーズ召喚ッ!!」

出現するは世にも美しき花の妖精。
陶器のような肌、新雪が落ち色を得たかと錯覚させる髪はまるで冬を思わせ、剣を持つ姿はあまりにも可憐だ。

「現れろ、輝きし白き希望ッ!《鎖鳥の霊剣士 スノードロップ》ッ!!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:3》

スノードロップの効果によって、召喚時に素材とした植物族モンスターの数×400のダメージが相手を襲う。
この召喚で使用したのは2体。よって与えるダメージは800だ。

「っ!!よくも!」
《Unknown LP:3200》

「もういっちょ!魔法カード《シードブラスト》発動ッ!今与えた効果ダメージをもう1回与えるぜ!」

「きゃっ!」
《Unknown LP:2400》

尻餅をついた少女は恨めしそうに慶太をにらんでいる。
一方慶太は怪しくはあるがかわいい女の子ににらまれている状況にため息をひとつつく。
「こんな状況じゃなかったら声かけるくらいかわいいのに」
と残念に思いながら。
しかし勝負は勝負、心を切り替えなければならない。

ともかくライフポイントはあと2400にまで削ることに成功した。
慶太はあと1600もこのターンで決めるつもりだ。

「スノードロップを対象に魔法カード《マリンスノー・バレット》を発動ッ!このターン、スノードロップは相手モンスターと戦闘する際に破壊されず、ダメージ計算を行わずにモンスターを破壊する!」

「なるほど。ローゼン・ルシフェルの攻撃力は同じ、これでローゼン・ルシフェル"だけ"を破壊できる」

たとえ攻撃力が同じであろうが上であろうがスノードロップは破壊されず、慶太はダメージも受けない。それでいてモンスターは破壊できる。
ローゼン・ルシフェルさえ突破すればフィールドはがら空き。エースモンスターだと称したからにはそれ以外の決め手に欠けることも露見している。
心理的余裕を見せた少女の慢心によるミスプレイを慶太は見逃さなかった。

「バトル!スノードロップで、ローゼン・ルシフェルを攻撃!!マリンスノードロップ━━シュートッ!!」

スノードロップの持つ剣が銃剣に変化し弾丸のごとき速さで堕天使に襲い掛かり、純白の剣は心臓の位置にある薔薇の意匠を貫き爆発した。

見るも無惨に砕け散ったモンスターの残り香だけが漂うフィールドでダメージを受けた者はいない。
だが次の、更に次の手は慶太の手札から引き抜かれる。

「ラストッ!スノードロップがモンスターを破壊したことで手札から速攻魔法《太陽光線(サンライトブレイズ)》を発動!このターン植物族モンスターがバトルで破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

スノードロップが破壊したローゼン・ルシフェルの攻撃力は2500。そして少女のライフは2400。
ギリギリだが削りきれる、むしろうまく計算したと慶太にしては褒めるべきだろう。

「てなわけで、これで終わりだぜ!いっけえ!!」

妖精の羽を羽ばたかせ剣を携えたモンスターは少女に突貫する。

それに対し少女は若干冷ややかな視線を送り、一度呼吸を調えて高らかに宣言した。

「フィールド魔法《堕天使の舞踏会》の効果発動ッ!」

「このタイミングで!?」

「このターン破壊された機械堕天使と名のつくモンスター1体を選択し、その攻撃力の半分ライフを回復します!」

破壊されたのはもちろん《機械堕天使 ローゼン・ルシフェル》、その攻撃力2500の半分、1250が少女のライフポイントに加算されることでライフは3650に。
ダメージは受けるがまだまだ、ライフポイントが1150残ることになる。

《Unknown LP:2400→3650→1150》

「なんてやつ…!っ、ターンエンド!」
《Hand:0》

「この瞬間ッ!墓地のローゼン・ルシフェルの効果が発動ッ!」

「あれは、オーバーレイユニット!!」

「再び現れよ!ローゼン・ルシフェルッ!!」

突如として発動したその効果は、破壊されたターンのエンドフェイズ時に破壊された時のオーバーレイユニットから1つを取り除き、フィールドに特殊召喚する蘇生能力。
ローゼン・ルシフェルが破壊時に付与されていたオーバーレイユニットの数は2個、その1つを使用することでフィールドへと舞い戻ったのだ。

《ATK:2500/ORU:1》

「すげえな!でも、こっからどう勝つつもりだ?」

「慌てちゃダメですよ、勝負はこのワンターンにかかっているんですから!」

楽しそうに一本指を突き立てた少女はそのまま指をデュエルディスクにセットされたデッキ、一番上に置いて親指を添える。

一挙一動が可憐な姿に本当に一目惚れしそうになるが、踏みとどまるべきだろう。

「私のターンッ!!」

デッキから抜いた一枚のカードに、少女は勝機を見た。

「私は罠カード《アフターリベンジ》を発動!ライフを1000支払い、前のターン相手から受けた効果ダメージ分ローゼン・ルシフェルの攻撃力をアップします!」
《Unknown LP:150》

「うえぇっ!?」

スノードロップ召喚時の800と《シードブラスト》による追加の800、そして《太陽光線》による2500ダメージ。合計は4100だ。

《ATK:6600》

「でも!俺も墓地から《鎖鳥の歌姫 マリーゴールド》の効果を発動するぜ!」

《ATK:6600》

マリーゴールドは墓地から除外することで、自分フィールドの「鎖鳥」と名のつくモンスターの攻撃力を相手のモンスター1体と同じにする効果を持つ。
これでスノードロップも6600に攻撃力が跳ね上がった。

このターン、まだ《堕天使の舞踏会》の効果で《仮面天使トークン》は召喚されていないが、強制効果は必ず発動する。
そして特殊召喚素材にできなければ800のダメージを受けることになる。
自ら危険な橋を渡る必要はない、どうするつもりか。

「決まったな!この勝負ッ!」

「いや、私の勝ちですッ!」

「な…!?スノードロップ!?」

「ローゼン・ルシフェルの効果ッ!!相手モンスターの攻撃力が変化した時、オーバーレイユニットを1つ使うことで、そのモンスターを破壊しますッ!ミスティックレインッ!!」
《ORU:0》

そう、攻撃力が上昇すればローゼン・ルシフェルはこの効果で敵を破壊し、そうでなくとも与えるダメージが4100になれば一撃必殺。
まさに決めの一手だ。

「さぁ!ローゼン・ルシフェルでダイレクトアタックッ!シャイニングインパクトッ!!」

「ま、マジかよ!!うわぁぁっ!!」
《Keita LP:0》

思わず目を背けるほどの閃光に包まれた堕天使はその身すら光に変えて突進し、光はライフを削り取るように弾けた。

次に狩也が目を開いた時には慶太のライフが0になっていた。

「ちっくしょー!」
「さぁ!場所を教えてください!」

悔しがる慶太の前にカツカツヒールを鳴らして足早に現れた少女はとにかくなんだか行動が忙しない。
見かねた狩也がやってきて、少女に声をかけた。

「遊矢なら、これから会いに行くけど来るか」
「ええ是非!!やっぱり話の分かる人は楽ですね!」
「な、なんだよそれ!まるで俺が話の分からない奴みたいに!」

事実である。

話が拗れてデュエルまでしているが、明らかに敵対者ではない上にやたらと友好的だ。

「ほら置いてくぞ」
「置いていきますよ~」

「あっ!!待てってばッ!!」

ぶつくさと文句を言いながら慶太もついてきた。
なんやかんやで信用はしていたのかもしれない、デュエル前の発言が本当ならばの話だが。


~~~


「そうか、遊矢たちもそんなことが…」

遊矢たちの話は大方終わった。
アダムという男が現れデュエルを仕掛けてきた事、組織の名が「リコードイミテーション」である事、狙いが未完の聖杯ではない別のなにかである可能性が高い事。
大きく分けてこの3つはヒカルも理解できた。特に3つ目は。

「さて、次はヒカルの番だ!」
「なにがあったんだ、あの場所で」 

話題を振られたヒカルは少し考え込んで、しゅんと落ち込んでしまった。

「敵に、…錬金術師と思わしき女に襲われた」
「錬金術師!?」
「確かにあの場に残った残滓から、ルクシアやヴェリタスと同じような異能力を感じたが」

錬金術を操る者たちはヴェリタス達の他にいないとばかり考えていた遊矢たちの前に、こうして新たに現れた錬金術師。

ヒカルは、その錬金術師…イヴと名乗った女は恐らくアダムの仲間だろうと言った。
理由はそのまま、アダムとイブという旧約聖書に登場する人物からだ。

「それで、大丈夫だったのかよ…!またレーなんとかってくっついてたりしないよな?」
「そっちは大丈夫。…でも」

でも?と疑問を投げた遊矢に対し、ヒカルからの返答がない。
あまりに長い間に、リンが口を開いた時だった。

「俺のせいで、托都が…」
「ヒカルのせいって…」

「そう、アナタのせいです」

突然の第三者。
遊矢は聞き覚えのある少女の声を聞いて振り向いた。


「アナタのせいで、白き概念神が覚醒してしまうのですからッ!!」




~~~


「っあ━━━…?」

一瞬の出来事に反応できなかった。
見開いた緑はその痛みに次第に歪み、視界が赤く染まりだした。

「真実の石剣、賢者の石から錬成されたその剣に貫かれた貴方は真実を知る」

突き刺さった石の剣は冷たい氷に触れている錯覚を覚えた。
逆にその冷たさが気にならないほどの急激な体温低下、震えるほど寒さは徐々にその事実を脳に、身体に知らしめていく。

「今までなんのために生きてきたかは知らないけれど、貴方は価値のない生を延長したに過ぎないわ」

赤い光を放つ結界よりも更に生々しい人の血が流れ流れて、重さに耐えきれない体が倒れて意識を削がれる。

ゆらゆら揺れる視界の端に、托都は見下ろす女の狂気的な笑みを見た。

「貴方は神の力を得た時点で人格は"死んでいる"」

「な、…に…?」

「さようなら。せめて優しい夢を見て、そして本来あるべき姿に消えなさい?」

血に濡れた頬に触れるイヴは優しげに語りかけた後、口角を吊り上げて嗤った。

「貴方に優しい夢が見れるというのなら、ね」








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【あとがき】

今回の一言、「ホモはせっかち」。
慶太が猪突猛進脳筋地雷回避ママ属性を手にしてしまった!!!(なお狩也限定で発揮される模様)
しかし負けるッ!!さすがは慶太!!俺たちにできないことをやってのけた挙げ句に負けたぞッ!!!

さぁて、出落ち気味に托都が死にましたが死んでないでしょう。死んでたらRRはどう説明するのかって話なわけで。
ともかくイヴおばさんが楽しそうでなによりです。
ヒカルの話とはなんだったのか、8割が慶太と狩也に割かれて尺の1割くらいしかもらえていない気がする。遊矢は出番があるだけマシ。
リンさんも登場で、トラヴィスの霊圧が消えた。
狩也はテンションダウン。缶コーヒー片手に黄昏て終始テンションが低いままツッコミ役に徹してましたね、やっぱり狩也は前線よりツッコミが似合う。
ついに出た!!新キャラクター、謎の少女ッ!!一体何ッカなんだ…。
敬語、強気、デュエル強い上にたゆんたゆん、機械堕天使に関しては結局触れられてないまま、挙げ句の果てにヒカルを思いっきり罵倒。これは間違いなく敵ですね(知ってた)
謎の少女ちゃんが言うからまーたヒカルが曇っちゃうでしょ!いつものことだけど!!
次回はそんなヒカルさんがメイン、と、もう一人が…。

次回ッ!!謎の少女・レッカの登場第2回ッ!
物語は更に加速する中で、一人落ち込んだままのヒカルを誘うように現れる女の影。
そして真実の石の剣に刺された彼は一体どうなる…?

【予告】
黄金と蒼銀、二つの眼は揺れる。
少女の怒りは胸の内を貫くように突き刺さり、星の夜の記憶に苛まれる。
もしもあの時、彼に救われなかったら。
もしもあの時、彼を救うことができたなら。
己の弱さと強さに苦しみもがき、それでもまだ諦めたくない。
第4話「萌芽」


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狩也すげー!!ブラックコーヒーが飲めるのか!?

あぁ、まぁな。

すっかり大人の味覚になりやがってー!

当然だろこれくらい。

ところで、プルタブが開いてないのはなんでだ?

くっ、バレたか…!!


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【界の空から帰還後…3】


「……」

フリューゲルアーツ…翼の力か。
これがあるからって止まってたら、また遊矢に先を越されることになる。
これからも精進しよう。

「さて、そろそろ先輩と待ち合わせの時間…」

ん…?なんか騒がしいような…。

「狩也!」
「先輩ッ!?どうしたんですか!そんなに慌てて!」

もしや、未完の聖杯を狙う敵が現れて━━━!?

「みゃーん」

「猫!猫がくっついてくるー!!早くー!!」
「にゃー」
「嫌ああああ!!来るな寄るなあっち行けーッ!!」

「猫…?」


END


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【界の空から帰還後…4】


「面目ない…」

「にゃー」
「驚きました。先輩、猫が苦手だなんて…」

「猫が苦手なんじゃなくて、動物が苦手なんだ…」

「動物?」

本当に意外だ。
先輩ってなんというか、こう、愛されキャラっていうか…。
動物的な愛嬌があるからむしろ同調するかと思ってたけど、苦手なのかー。
……そっか~。

「えいっ」

「にゃーん!」
「うわあああああああ!!?」

「この際です、仲良くなりましょう!」

「一生恨むからなッ!?」


END