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第2話「原初の咎人」



話は数分前に遡る。

「急げっ俺!」

風雅遊矢は走る、向かう場所はもう決まっている。
流星が墜ちたのは誰にでも分かるし見に行きたくなるのは分かる話だ。だが遊矢が向かう理由は野次馬になるためなどでは決してない。

あの流星はただの隕石や落下物、飛来物じゃない。
遊矢は最初に見たときから勘づいていた。
そしてそれが友の自宅方向に墜ちたとなれば黙ってはいられない。彼を信頼していないわけではないが、それでも万が一のことがある。
ヒカルと托都がいない今、その状況に介入できるのも遊矢一人だけだ。

「…!」

正面に人。
深夜でも明るいはずのハートランドに今日は人の活気はない。
警戒すべきだろうか、一歩踏み出せば正面の彼女も遊矢に向かって歩き出した。

「風雅遊矢、ですね?」
「俺のこと知ってんのか?」
「はい」

街灯に照らされた女の正体。
紅い羽根の髪飾りに、白い髪を二つに結んだ、黒いローブを纏った小柄な少女だった。
だが少女と言うにはあまりに雰囲気が大人びていて、遊矢より小さな背なのに年上と感じさせる香りが漂ってきている。

「お願いがあります」
「あー…悪いけど、今急いでるんだ。だから…」
「そのことに関係しているんです」
「?関係…?」

少女は語った。
流星として降り墜ち現れた彼らはいずれ世界を破滅に追いやる存在になる、と。
彼らが求めるものは遊矢の身近にあるものであり、今は遠くにある、ということも。

「身近にあって、今は遠くに…ッ!未完の聖杯!?」
「今はそう思ってもらって構いません。彼ら━━リコードイミテーションの狙いは世界への復讐」
「復讐…」

かつて錬金術師・ヴェリタスが、同じ目的で顕れそして対立したことを思い出す。
何より、未完の聖杯を求めている…とすれば、ヒカルや狩也に関わってくる問題だ。ヒカルには托都が付いている上、ハートランドからは遠く離れた場所にいる。
やはり今一番危険なのは狩也だ。敵の罠に嵌まらない保証はない。

「急がねえと!!」
「遊矢、さん」
「ありがと。また会ったら詳しく聞くからッ!!」

少女の肩をポン、と叩き、遊矢は風を纏って空へ飛び立つ。最速で狩也のところへ辿り着くにはこれが最善手だ。

「…はい」


~~~


━━━そして現在。

すさまじい速さで空を駆け抜けた遊矢はこうしてリコードイミテーション、原罪のアダムと対峙している。

「遊矢…」
「無事か?狩也」
「っ!余計なお節介だ!なにしに来やがった!」
「ん?言った通りだぜ、コイツの相手は俺がする」
「はぁ!?人の獲物を横取りとは、感心しねえな」

C.C(クロノスクライシス)事件以降、遊矢と狩也の溝は塞がったように見えて地の遥か奥底まで割れたままだ。
しかも、プライドが高い…というより負けず嫌いの狩也が突然空から降ってきて正体不明の敵に宣戦布告したとなれば、邪魔されたと思うのも道理というもの。

「いやぁさぁ!色んな話聞いちまって、コイツ倒してさっさとヒカルたちのトコに向かわないとならないんだよ~!」
「おい話をすり替えるな、理由はなんだ理由は」
「…奴ら、未完の聖杯を狙ってる」
「未完の聖杯を?」

程度は低いが狩也にも未完の聖杯は宿っている。
ヒカルのようにどんな願いも叶える爆弾のような力はないが、自分が願った小さな願いを無意識で叶えてしまう厄介なモノだ。
リコードイミテーションに乗せられて、なにかの拍子に自制しているその力が発動してしまった場合誰にも責任はとれない。だからこそ狩也を前に出せないのだ。
なにしろ狩也は煽るとすぐキレる。

「…じゃあ、まぁ…」
「てわけで、さぁ!やるのか!やらねーのか!」

「ふんっ!順番が変わっただけのこと。良いだろう!受けて立つッ!!」

男…アダムのデュエルディスクが禍々しい光を放ち、デュエルモードに変化した。
なんにせよ互いにやる気は満々だったというわけだ。

「「デュエル!!」」

《LP:4000》

未知数の敵と戦うのは慣れている。だが戦術には慣れちゃいない。
慎重に、かつ大胆に、一撃で決めるつもりで戦わなければ一撃で葬られてしまうかもしれない。
綱渡りをするつもりがあってここに来たわけじゃないともちろん思ってはいる。
しかし現在遊矢は5枚の手札を見ながら少し焦っていた。

「先攻は貴様にくれてやろう」

「じゃあありがたく!!」 

先攻は1ターン目にドローできず、バトルも行えない。
全く正面の奴は余計な真似をしてくれた。

「俺は《Ss-俊足のアキレス》を召喚!」
《ATK:1700/Level:4》

「アキレスの効果、手札の魔法カード1枚を墓地に送り、カードを2枚ドロー!その中にレベル4のモンスターカードがあれば特殊召喚し、それ以外は墓地に送る」

「遊矢、なんでわざわざ運試しを…まさか!」

…そう、遊矢の手札にモンスターがいないのだ。
このアキレスが初手に存在しなければかなりマズイ状況だった。いや、このドローで引けなければそれはそれでマズイ。

「俺は《エア・カームの魔方陣》を墓地に送り、2枚ドロー!!」

一瞬の合間から見えたモンスターカード。それがレベル4なら特殊召喚、それ以外なら墓地。
無論、見えたのなら答えはひとつ。

「来いッ!!《Ss-疾風のカーツ》!!」
《ATK:1400/Level:4》

「よしっ!!」

「たかが運試し…」

「運も実力の内だッ!!まぁ見てろよ!!」

残る一枚はレベルが4ではないモンスターカード、アキレスの効果により墓地行きだ。
フィールドにレベル4のモンスターが二体、間違いなくフェイバリットが来るはず。

「レベル4の俊足のアキレス、疾風のカーツでオーバーレイッ!エクシーズ召喚!!現れろッ!《Ss-エア・ストリームソード》!!」
《ATK:2100/Rank:4/ORU:2》

「まずは一体…」

「…?」

遊矢が気付かないところでアダムの右手にあるなにかが光った気がした。

気のせいか、または電灯が照ってなにかに反射しただけか。

「カードを1枚伏せてターンエンド!」
《Hand:2》

「私のターン!!」

「あの男の手、なにかがある…」
「勘づいたか。さすがだ」
「!トラヴィス?」

いつの間にか長身の銀髪揺らめく男が隣に立っていた。
そう、彼こそトラヴィス・ハーツ。教団を束ねC.C事件を引き起こし、世界に恐怖を撒いた存在。
そんな人間が何故ここにいるかの説明は長くなるため割愛するが、━━どうやら狩也が見たものは見間違えや錯覚ではなかったらしい。

「原罪のアダムと言ったか。…全く、なにが起きている…?」
「知ってるのか?」
「クロノスクライシスを起こすため、我々の後ろ楯として支援していた組織…それこそがリコードイミテーション」
「なんだって!?」

資金、人の目、異能の力。あらゆる方面から黒き教団を支援した協力者が彼だ。
しかし、彼らリコードイミテーションは直接は現れず必ず手紙や通達人を通してやり取りをしていた。だからこそ今更ここに出張ってきたのには違和感がある。
今までのように裏で暗躍する必要がなくなったのか、または彼ら自身に狙うものがあるのか。
そうトラヴィスは言った。

「未完の聖杯…」

遊矢曰く未完の聖杯を狙っている、は本当のことなのだろうか。
別に遊矢を疑うわけではない。ただ少なくともここでの目的が違うのではないだろうかと思うのだ。
"順番が変わっただけ"。そうアダムは言った。
つまり狩也の未完の聖杯を狙って現れたわけではないのではないか?

「もしかして!」
「狙いは他にある。そう、例えばあちらの金━━」
「マズイッ!!センパイが…!!」

トラヴィスの話を最後まで聞かないまま狩也は端末でヒカルに繋いだ。
だが繋がらない、先程は彼から通信が来たというのに。

「ッ!!くそっ!!」
「ふむ……聞こえるか、俺だ」

━━━━━、

「私は永続魔法《幽獄塔 バベル》を発動!まず、貴様のエア・ストリームソードのオーバーレイユニットを全てデッキに戻してもらおうか」

「デッキに…?あっ!」

風の剣士にまとわりつくよう漂っていた二つの淡いエメラルドの光が吸い込まれるようにデッキの中に消えていく。
エア・ストリームソードの効果はオーバーレイユニットを使うことによる破壊の無効とダメージ半減。敵の手を伺うにはちょうどよかったが、そのオーバーレイユニットがなければ効果は使用できない。ある意味モンスターエクシーズの弱点を突いてきた。

「そしてバベルが発動している時、デッキから《七異の怪 ベルゼブブ》を特殊召喚できる!現れよ、《七異の怪 ベルゼブブ》!!」
《ATK:3000/Level:10》

「攻撃力3000のモンスターをコスト無しでデッキから!?卑怯だぞッ!!」

「なんとでも言うがいい」

《幽獄塔 バベル》の効果により、1ターンに1度だけ「七異の怪」と名のつくモンスターを呼び出すことができる。
それはとてつもなく強力だ。ほぼ無条件で最上級のモンスターを呼び出し、相手の手数を潰すこともできるのだから。
遊矢が一撃必殺を疑ったのは間違っていなかった。やはり敵は"このターンで決める"つもりだ。

「ベルゼブブの効果!相手フィールドに存在する、このモンスターより攻撃力の低いモンスター1体を選択。そのモンスターを喰らう!」

「なにっ!?」

「エア・ストリームソードを、食ってるのか…!?」

悪魔は素早くエア・ストリームソードの頭上に現れ、なにか粘液を垂らしながら二重の巨大な口を開き、身体を頭から食らってゆく。
その姿は紛れもなく、七つの大罪「暴食」を司る悪魔であることを示していた。
あまりにも衝撃的でグロテスクな光景に思わず言葉を失いかける。

こんなことが、あってよいものなのかと。

「この効果により、ベルゼブブが喰らったモンスターの攻撃力、守備力を加える」
《ATK:5100》

ベルゼブブの効果はモンスター破壊と装備、その攻撃力と守備力をベルゼブブに加え、更には破壊される時装備モンスターを除外する凶悪な効果だ。
オーバーレイユニットを潰されたことで破壊耐性もなく丸裸同然のところを狙い撃たれたようだ。

「さて、防ぐ手がなければ此処で仕舞いだ。どうする?」

「もちろん!罷り通るぜッ!!」

「貫けるものならなッ!!ベルゼブブ、ダイレクトアタック!!グラトグランッ!!」

ダメージは5100、半減させても2550の大ダメージ。直撃はなんとしても避けなければならない。

ベルゼブブの二重の口からはみ出した牙が今にも遊矢を食い千切らんと迫り来る。
外野で見ていることしかできない狩也とトラヴィスにも思わず緊張が走る。それでも遊矢なら無理を貫き道理など壊してしまえる、それを信じている。

「速攻魔法!《スカイエスケープ》発動ッ!墓地の風属性モンスターをゲームから除外し、バトルを無効にして終了させる!」

「墓地のモンスター…!そうか、俊足のアキレスの効果であの時すでに…!」

アキレスの効果で墓地にカードは送られている。
その送った《Ss-香蘭のカオリ》を除外したことで、アダムのバトルフェイズは強制終了した。
ベルゼブブは何事もなかったかのようにアダムのフィールドへと帰還し、遊矢はホッと一息ついた。
さすがの遊矢も目の前にエア・ストリームソードを喰らったあの牙が迫ってきたのは肝を冷やしたようだ。

このデュエル、普通に見えて遊矢は全く普通に感じてはいない。
なにがいつ起きてもおかしくない、リアルダメージを受ける可能性だって捨てられない。気を抜いたら敵に呑まれる。
大ピンチを切り抜け落ち着くのも無理はない。

だが状況は依然変わっていない。切り札へ繋がる道は断たれたまま、手札にはモンスターもいない。

「苦し紛れに…ッカードを2枚伏せ、ターンエンド!」
《Hand:3》

「俺のターン、ドロー!!」

モンスターカードではない。だが十分、奴を倒すのには十分すぎるカードだ。

「魔法カード《同調展開》を発動!デッキから決められたレベルのモンスターをゲームから除外し、エクストラデッキからシンクロモンスター1体を特殊召喚するッ!」

「アイツ、シンクロ召喚を!!」
「禁異の召喚法…やるではないか」

シンクロ召喚とは、チューナーモンスターと呼ばれる特殊なモンスターカードを使用する召喚法だ。
例えば、レベル7のシンクロモンスターを召喚する場合、チューナーモンスター1体とチューナーモンスター以外のモンスター1体以上を素材にする。この時、レベル数は合計で7にならなければならない。
儀式召喚と似たような召喚法ではあるが違いを説明するのなら、合計でピッタリにしなければならないか合計でそれ以上にしなければならないかだ。
特殊なシンクロ召喚として、チューナーモンスターを2体使用したり、シンクロチューナーを利用したりあるが、例外中の例外のため説明は割愛する。

「デッキから《Ss-ウィンド・アーマー》、《Ss-残光のビリーブ》をゲームから除外!」

要は足し算。どちらもレベルは4、合計すれば8になる。
これで遊矢はレベル8のシンクロモンスターを呼び出すことが可能となった。

「シンクロ召喚ッ!現れろ、銀河に舞う奇跡の竜《銀河眼の星屑竜(ギャラクシーアイズスターダストドラゴン)》ッ!!」
《ATK:4000/Level:8》

「攻撃力4000のシンクロモンスターだとッ!?」

神々しく、眩き星の光を放つ竜は銀河の眼で目の前の異形を睨む。
遊矢が手にした奇跡の一端。禁異と呼ばれたシンクロモンスターを現在に蘇らせた。そして、絶体絶命の状況下で呼び出した。
これこそ、奇跡を成す者の力だ。

「星屑竜の効果で召喚成功時、カードを1枚ドロー!!更にデッキからカードを1枚墓地に送ることで、相手のモンスター1体を除外する!」

「なんだと…ッ!!」

星の竜が放った波動によって異形の悪魔は溶け落ち消えて行く。
いくら破壊を無効にできたとしても、それはあくまでも破壊のみ。除外に対してその効果は発動できない。

そして星屑竜の攻撃力は4000、ジャストキルが可能だ。

「食らえ!《銀河眼の星屑竜》で、ダイレクトアタックッ!これで決まりだぁぁッ!!」

空高く昇る竜が銀河そのものを内包したかのような激しい星の閃光を放ち、それは真っ直ぐにアダムに降り注いだ。
間違いなく直撃。これは遊矢の勝ちだろう。

「よしっ!」
「…ん?なんだと…?」
「トラヴィス?」

勝ちを確信したのは狩也も同じだ。
ただ、隣のトラヴィスがまた何処かへ通信中らしい。どこか様子がおかしい、冷静さを若干欠いているようにも見える。

土煙が晴れる。本来なら倒れたアダムが煙から見えるはず、だが…、

「!」

人のシルエット。
つまりまだアダムは立っている。ライフは残ったままだ。

《Adam LP:2000》
「ふんっ…たかが屑程度が」

「ははっやーっぱりな」

フィールドには罠カード。
遊矢は決まったと思いながらも敵がこうして防いでくるのを読んでいた。

しかもアダムが発動した《ディバイン・フォール》は、ライフを半分減らすことでこのターンの攻撃の無効化、更には相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与え、自分はカードを2枚ドローする強力な効果を持つ強力な罠カードだ。
星屑竜は戦闘時に効果の対象にはならないが、これは星屑竜を対象にして発動したカードではない。

「っ!」
《Yuya LP:2000》

ライフは削られたが星屑竜の効果を使わなかったところは正解だった。
星屑竜は、自分の墓地からモンスターエクシーズ1体を除外することで除外したモンスター攻撃力を星屑竜に加える効果がある。
もしもこの効果を使用していたのなら攻撃力は6100まで跳ね上がり、受けるダメージは3050となっていた。受けるダメージは最小限が好ましい。

「…カードを1枚セット!ターンエンド!」
《Hand:2》

「私のターン!私は永続魔法《幽獄塔 バベル》の効果を発動ッ!!《七異の怪 ベルフェゴール》を特殊召喚ッ!」
《ATK:0/Level:10》

またもやバベルの効果で呼び出されたのはレベル10のモンスター、だが今度は攻撃力が0だ。
星屑竜に勝る可能性があるとするのなら未知の効果だろう。

「ベルフェゴールの効果、召喚時相手フィールドのモンスター全ての攻撃力を0にする!」

「また対象にならない効果を…!!」
「なにも知らん素振りをして、実際は最初から全て見抜いていたようだな」

《ATK:0》

相手フィールド全てに適用されるなら対象にはならない。
トラヴィスの言う通り、分からないフリをして実際は遊矢の持っている手を知っていたのだろう。

「そしてベルフェゴールの攻撃力は、変化した攻撃力の合計分アップする!」
《ATK:4000》

「形勢逆転ッ…!?」

「残念だがここまでだ、ベルフェゴールはバトルフェイズ中、相手の魔法・罠の発動を無効化する!」

まさに怠惰の獣と言うべきか、遊矢のフィールドのカードはすべてがすべて力を失い星の竜は倒れてしまった。
このまま攻撃を受けたなら本当に遊矢の負けだ。そんなことになればこの先、次は狩也に狙いを付けるだろう。

「往けッ!ベルフェゴール、《銀河眼の星屑竜》を攻撃!!スロウスグラビティ!!」

「手札から《エクストラチェンジャー》をゲームから除外して、効果発動ッ!!」

《エクストラチェンジャー》はバトルする相手モンスターの攻撃力が自分のモンスターより二倍以上差があった時、ゲームから除外することで対象となったモンスターをエクストラデッキに戻し、エクストラデッキからモンスター1体を選択して攻撃表示で特殊召喚できる。
しかもこのターンはバトルで破壊されないオマケ付き。遊矢も大概卑怯な手を持っているわけだ。

「戻ってこい!星屑竜!!」

「よし!これなら…!」
「だがダメージを受けるのは避けられない」

「現れろ、希望照らす風の剣士ッ!!《希望騎士 ホープ・オブ・ソード》!!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:0》

星屑に照らされた黄金は形を変えて遊矢を守り戦う剣として顕現した。
これこそ遊矢のエースモンスター、絶体絶命を救うナイトとしては申し分ない登場だ。

「ホープ・オブ・ソードはこのターン、バトルじゃ破壊できない!さぁどうするか!」

「無駄なことだ!バトルを続行!食らえッ!」

「っ!!ぅう…ッ!!」
《Yuya LP:500》

耐えた。なんともギリギリだが、逆転できるチャンスを得たままバトルフェイズを乗り切ることができた。
しかし次はもう耐えられそうにはない。次がラストターンになるだろう。

「ターンエンドだ」
《Hand:4》

「ッこれが最後のチャンス…!」

これを逃せば間違いなくターンは回ってこない。
だがアダムは遊矢が賭けたトラップに引っ掛かった、必ず勝つ、それだけだ。

「俺のターン!」

━━━来た!!

布陣は整った。勝てる、このデュエルは勝てる━━!!

「俺は罠カード《希望のバトン》を発動!」

「ッ!ブラフだったのか!!」

自分フィールドに「ホープ」と名のつくモンスターエクシーズが存在する時、エクストラデッキから同じランクのモンスターとフィールドのモンスターを素材に、エクシーズ召喚を行う!」

本来ならモンスターエクシーズにレベルはない、よってモンスターエクシーズ同士によるエクシーズ召喚は行えない。
だがそれは一般の話。遊矢たちにはそんな常識をもブチ抜ける力がある。

そして遊矢が選択するのはもちろんもうひとつの希望の戦士、二つが合わさった時奇跡は更に強く光輝く。

「ホープ・オブ・ソードと《No.39 希望皇ホープ》で、オーバーレイッ!!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚ッ!!」

「ぐっ…!!この輝きは!?」

希望は絶えず揺るがない、剣士の刃をその手に宿し、希望皇は生まれ変わる!羽ばたけ未来!限界突破だッ!!現れろ!《No.39 希望剣皇ホープ・ブレード》!!」
《ATK:2500/Rank:4/ORU:2》

レギオンエクシーズ。遊矢が手繰った奇跡の形。
まさに限界を越え、その身に宿る希望の光を臨界にまで煌めかせる剣皇は、かつてあの九十九遊馬から受け継いだ「かっとビング」の証だ。

「今さらホープ・ブレードなど!コチラの攻撃力は4000だ、どう切り崩せる?」

「慌てるなよ!勝負はここからだぜ!!ホープ・ブレード、効果発動!!オーバーレイユニットを一つ使い、ホープ・オブ・ソードの効果を発動する!」

レギオンエクシーズは指定素材を使用することで、素材となったモンスターの効果を発動できる強力モンスター。
遊矢が選んだのは攻撃力上昇系の効果を持つホープ・オブ・ソードだ。

「ホープ・オブ・ソードの効果は…!!」

相手モンスター1体を選択し、そのモンスターの攻撃力1000ポイントにつき攻撃力を800ポイントアップする。
ベルフェゴールの攻撃力は4000、合計は3600で攻撃力は6100になった。

「ホープ・ブレード、ベルフェゴールを攻撃!!シャイニングホープソードッ!!」

「その錆びた剣で、傷を付けられるなどと!!バベルが発動している今、罠カード《天上の怒り》を発動できる!バトルするモンスターのオーバーレイユニットを全て墓地に送り、攻撃を無効にする!」

《ORU:0》

「ホープ・ブレードの効果を封じてきた!?」

ホープ・ブレードが持つ真の効果。
バトルを無効にされた、またはバトルでダメージを与えられなかった時、オーバーレイユニットを1つ使うことで、攻撃力を二倍にしてもう一度バトルを行うという効果だ。
もしも攻撃が無効にされたとしてもこの効果で遊矢はもう一度バトルできた、それをアダムは事前に封じたのだ。

このままターンが終わればベルフェゴールの効果で攻撃力を下げられてしまう、そうなれば勝ち目はない。

「終わったな、所詮貴様はその程度ッ!これでは奇跡を代行した守護者などとは呼べやしないッ!!」

「それはどうかな!!」

「なん、だと…!?」

「速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》発動ッ!!」

《ダブル・アップ・チャンス》。
モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスターを選択して発動できる速攻魔法。
そのモンスターの攻撃力を二倍にし、もう一度バトルを行う。

カードの存在はアダムだろうと誰だろうと周知だ。
だがアダムは知らなかった。

このカードを"遊矢が"持っているということを。

《ATK:12200》

「ホープ・ブレードの攻撃を無効にしてくれて、ありがとな!剣は錆びても俺の魂はいつまでもピカピカだぜ!ってな!」

「おのれ…ッ!!」

「いくぜホープ・ブレード!!シャイニングホープブレイドッ!!」

真っ赤な火炎に包まれた二つの剣が夜の闇を裂き天に昇って往く。

アダムのライフポイントは2000、オーバーキルは確実━━━━!!

『目的は達したわ。アダム、帰投を』
「…!」


《ERROR!!ERROR!!》


「なっ!?」

デュエルディスクから発せられる警告音とARによるエラー表示。頭上のホープ・ブレードは形を失い、剣の先から消えていく。

《致命的ナERRORガ発生シマシタ。デュエルヲ強制終了シマス》
「はぁ!?なんで!?」

「フッ…ハハハハッ!!"お前の負けだ"!!風雅遊矢!」

「なっ…俺は負けてねえ!!」

「私の相手をした時点でお前はすでに敗北していたのだ。その結果、我々は手にすべきものを手に入れたッ!!」

「手に…まさか!!」

思い付く限りの最悪のシナリオが遊矢の脳内を駆け巡る。
もしアダムが囮だとして、そこまでは読めていた。それ以降、"あの二人が敵わない敵が現れたとしたら"、"デュエルをしている間に向こうがデュエルしているとは限らないこと"を考えていなかったのだ。

とすれば、なにがあったかを想像するのは難しくはない。

「なにをしようとももう遅いッ!さらばだ!!」

身体を紫の粒子に溶かしアダムは消滅、その痕跡は跡形もなく、ただそこにはデュエルした形跡だけが残されていた。

「待て!あの野郎!!」
「いや、待つのは我々の方だ」
「なんでだ!!」

「トラヴィス!!」

「分かっている」

遊矢に呼ばれたトラヴィスがまたどこかに連絡を取り始めた。
なんだか納得のいかない表情で何度も問い掛ける姿は、かつて目的を遂行すべくひたすらに疾走していたあの大ボス感はない。

「間に合ったのか?」
「?」
「…そういうことにしよう。あぁ、急げよ」

やはりどこかなにかを納得していない、首をかしげて難しい顔をしている。

「…未完の…いや、朽祈ヒカルの無事を確認した」
「先輩の!?」
「!そっか!よかった…!!」
「だが…」

トラヴィスが言いかけて引っ込めたが、やはりまずはヒカルのことだ。これで敵は未完の聖杯にはなんの手出しもしていないことになる。
しかし狩也が驚いているように、本題はそうではない。むしろトラヴィスが納得いかないのはこれが理由だった。

「堰櫂托都。失踪したのは奴の方だ」
「…嘘、だろ…!?」

遊矢たちからすれば衝撃的な展開だった。

何故、どうして、托都が…?

その疑問だけが不穏な夜の終わりに残った。


~~~


「アダム、ご苦労様」
「首尾はどうだ」
「最高よ、おかげさまで。ただし、宝箱はまだまだ鍵が開かないのだけど」
「問題ない。人という概念は"壊せばいい"。最後に残るのは、全く異なるモノなのだから」

遥か彼方の昔、人が神と同じ地に立っていた時代。
アダムとイブは知恵の果実を食らい、神々の楽園から追放されたという。
それは「原罪」と呼ばれた。

「我々が楽園を追放され、人類は罪を得た。しかし、何故か、人間はその罪を享受し世を生きている」
「だが私は許さない。私達の幾億年過ぎようとも変わらない燃ゆる復讐は、ここに、結実する…ッ!!」

亜空間の白き城塞。その地下の紅く輝く魔性の結界。
その中心には、神の出来損ないが伏している。


「さぁ!!開幕だッ!!この復讐は、誰にも止められない━━━ッ!!」





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【あとがき】

今回の一言、「トラヴィス有能リン無能」
トラヴィス…お前……!!
過度なネタバレは今シリーズには含まれません、というかトラヴィスの出番は序盤だけだぞ君たち。有能はすぐ消される、LSだからシカタナイネ。

第2話から本格参戦ッ!!主人公・風雅遊矢でしたッ!やっぱり遊矢ってデュエルしてる姿が一番それっぽい、今回とかはちょくちょく鏡的なやらしい部分を垣間見せたりとか。
どんどんメンタル的な強さが上がってる気がするのは気のせいじゃない。今回はデュエル後の反応的にかなり強靭な気がする。
そして狩也!!煽るとキレるは公式、多分この作品で煽ってもへいき、へっちゃらなのは慶太くらい。まぁ一部煽り返した人もいたけど。通称・ドッグファイト。
新たな敵、ということでリコードイミテーションです。今回名前が全く出てこなかったけど。
冒頭のやり取りだけで遊矢は敵に察しがついたからなぁ…白髪の子?知らない子ですね…?そのあとの遊矢の行動がおかしいとか言っちゃダメ。
ヒカルさん散々ヤバイヤバイ言われてたけど2話はずっと山の中で倒れたままだったの?って言われたら違います。
遊矢とアダムがデュエルしていた裏が一話の終盤だった、という感じです。つまり、遊矢がトドメを刺した直前くらいであっちの方は終わってます。托都が不憫すぎる…。
遊矢はいつになったら最初のデュエルを最後までやらせてもらえるんだろう…、きっと最後までないんだろうな。

次回ッ!!リコードイミテーションとの一戦を乗り越えた遊矢たちが知るヒカルが見たすべて。
一夜明け、目を覚ましたヒカルは遊矢たちに夜なにが起きたかを話し始める。
一方、慶太と狩也の前には、白髪の少女が現れ…?

【予告】
星流れ墜ちた夜、消えた闇を追い星はまた墜ちて往く。
朝の陽を浴びる二色の眼は夢の中。
眠った真実の中に隠されているのは贋作の影。
その裏、少女は軽やかに、物語へと介入を始める。
はじめまして、紅の堕天使。
第3話「堕天使の舞踏会(マスカレード)」


===


チックショーッ!!またデュエル中断かよッ!!何度目だこれッ!!

全く、繋ぎのためとはいえいい加減に勝利を知りたいモンだぜ。

大体ッ!主人公なのに1話に出番が無さすぎだろ!?

えっ、今回の主役は托都?遊矢はおまけ?

…マジで主人公交代の危機?


===

【界の空から帰還後…2】


「……」
「ど、どうだ…!」

なにか…違う気がする…。

「これでいいのか?」
「いいんだよ、ほら、白も似合うだろ」
「なにか違和感が」
「うるせえ。肌は白いのに服は真っ黒ってなんのギャップ狙いだよ」
「衣服は着れればいい、そこに新たな要素を介在させるのはそういった職の人間だけだろう」
「わりとぐぅの音もでない正論を…」
「ひとつ付け足すとするなら、俺は黒が好きだ。地味すぎず派手すぎない。一般的だ」
「本音のところは」
「黒歴史を忘れないためにだな…」
「ダークサイドだ…」


END