ジェレスタ68「別 れ の 時 に」
あれから1週間ほど経った。みんなの生活は元に戻り、俺たち大人は破壊されてしまった町のあちこちをアストラルの力を借りつつ直している。
街の人間は記憶を改竄されてあの事を知っているのは俺たち十数人のみだった。
だが――、アレ以来遊矢は笑顔を見せないどころか、遊馬の家に来ることはない。まさか、なにかあったんだろうか・・・・。
「リーン!」
「遊馬、そっちの修理できたのか?」
「あぁ!それより、遊矢の学校ってもう始まってるのか?」
「まぁな。あそこは遊矢たちがすぐ通えるように最初に直したところじゃないか、忘れたのか?」
「あ・・・あはは~」
どうやら遊馬は学校にプロデュエリストとして出向くことになってしまったらしい。幸い、アストラルはリンかシャークが保護してほしいっていうことだったから凌牙に任せておいた。
俺は俺で、まだ別の後始末がある。
グレンという神の、本当の姿を探すという後始末が―――。
~~~
―――キーンコーンカーンコーン
「遊矢~?」
「うー・・・・・」
「遊矢起きなさいッ!」
「あだだだだ!!起きる!起きますぅ!!んだよアミ!」
「今日一日中どうしたのよ、ずっと保健室にいるなんて遊矢らしくないわ」
「普段ならどうどうと寝てるもんな!」
こいつら容赦って言葉知らねえのか!?
「病人が寝ててなにが悪いんだよ!」
「その怒鳴りっぷり見ると仮病に見えるんだけど」
「ち、違う!」
「図星ね。なにかあったなら言ってよね、私これから委員会だから」
「俺も母ちゃんにお使い頼まれてんだ!じゃあな!」
あれから1週間。アルトの姿を見ることはできなかった。
1週間のうちの4日間、真夜中の学校に訪れて、待っていたけど来ることはなかった。しかもそのせいで体調崩すし・・・。アミには仮病って言われるし。
でも、本当に後味が悪かった。悪すぎて吐き気するくらい。
なんでアルトが消えなきゃいけなかったのか、それにグレンも。改心したのなら消えなくても良いじゃないかって思ったのに・・・。
俺は最後の最後まで2人になんにもしてやることができなかったんだなって今更痛感する。
「はぁ・・・・・・・」
「遊矢・・・」
~~~
「よぉし!今日は放課後デュエル教室に九十九遊馬さんが来てるぞ!」
「みんな!元気してるか!」
「「「はーい!」」」
「あれ・・・?遊矢は・・・・・?――アミ、遊矢は?」
「えっと・・・・・遊矢は・・・」
~~~
講習が終わったあと、喫茶店に入って遊矢の話をしていた。
「そっか、遊矢はそういうことだったんだな」
「はい。遊矢、一体なにがあったのかなって・・・」
あの時は思わず仮病だって言ったけど、絶対そんなことない。遊矢がそんなことで嘘つくわけないもん。
きっとまたなにかで悩んでるんだろうなって・・・・。
「どうするかなぁ・・・・悩むよな~」
「遊馬さんもですか?」
「まぁな。俺も悩んで苦しんだ事はいくらでもあるさ。アストラルと離れ離れになった事もあったし、そのたびに互いの大切さを痛感した事だってある。遊矢も今、悩んで悩んで悩みまくってる頃なんだろうぜ」
悩んで悩んで悩みまくってる・・・・か・・・・。遊矢がいつも以上に悩んでるってことよね?それはそれでいいんじゃないかな?
でも、そろそろ目覚ましてあげないとまた部屋に引きこもるし・・・。
「放っておくかはアミの自由だぜ、でも友達なら選択肢は1つだろ?」
「えっ?」
「1つ良い場所教えてやる。そこに遊矢を夜、連れて行ってみれば分かるさ」
「夜・・・そこに遊矢を・・・」
~~~
「ヒカリ!」
「お兄ちゃん!久しぶり!急にどうしたの?来なくなっちゃって」
「悪いな、俺もあと数ヶ月で3年なんだ、受験や未来について考えないとダメだからな」
「そっか!ねえ聞いて!僕退院できるんだよ!」
「本当にか!?」
「うん!お医者さんがね、後半月くらいで退院だって!」
「良かったな!」
「やったー!」
下手するとかなりの時間、ヒカリの病室に来ていなかったかもしれない。ヒカリには心細い思いをさせてしまった。
それにきっとあの影の被害にもあったんだろう・・・今は元通りになって誰もあのことを覚えていない、俺たちを除いて。だからこそ・・・ヒカリはこのまま平和に育ってほしい。
だけど俺はこのままでは終わらない、きっとまだトルテのことや、父さんや母さんのことで決着がつかないことは全て片付けなければいけないだろう。
そして俺は決着をつけるべき相手がいる、その相手を倒すまでは・・・・!まだ、平和になんてならないよな。遊矢。
「へえ、まぁ平穏はもうすぐ終わりますわ。それは貴方次第ですけど」
「それでね、お兄ちゃん――!」
「・・・・!」
今一瞬なにかの声が聞こえた。今はきっと知らなくて良いだろう。もしかしたらトルテかもしれない。
だけど、今だったら諦めないかもしれない。・・・・・・・トキが来るまでは。
――ピルルピルル
「・・・?お兄ちゃん、Dゲイザー鳴ってるよ?」
「あ、あぁ・・・・アミ・・・・?」
~~~
――ピーンポーン
「はーい!あ、アミちゃんどうも!」
「お世話になってます!小鳥さん!」
アミが来たらしい、小鳥姉さんは被害がなく、俺たちのように記憶が残っているからある程度の事情は分かってる。
「ええ、遊矢ー!アミちゃん呼んでるよー!」
「あーはいはい」
ここまで姉さんにドライになる俺って初めてじゃないか?つかなんでこんな寝る時間なんかに呼び出したんだ・・・?アミのヤツ・・・・。
「遊矢!早く着替えて!出発するわよ!」
「出発・・・・?」
アミがどこに出発するのかは分からなかったが、その威圧感に圧倒されて着替えざるを得なかった。
着替えてリビングで優雅に紅茶を飲むアミに対してこちらから逆に威圧感を放つと気づいたようにさっさと連れ出された。
進む道は町を外れた更に先の道、川が広がる河川敷の道をしばらく進むとデュエルシティの廃墟にたどり着いた。
ここは今じゃ不良たちが巣くう場所だ。子供だけで行くのはやめろって言われていて、しかもそういうことに厳しいアミがここに来たのは珍しい事だった。
「アミ、どういうつもりなんだよ!」
「良いから!着いて来て!」
アミは手を引っ張って走ると一気にデュエルシティの街中廃墟を駆け抜ける。そして駆け抜けた先には1つの山があった。
山と言っても決闘庵のあるあの場所なんかより小さく、上りやすい場所だ。
アミが俺の手を引いて山の中を歩き出す。
なんだかちょっぴり懐かしく思えてきた。あの時は逆だった。
夏祭りの夜、アミの手を引いて丘の上で花火を見に行った事、今でも忘れない。その時のアミはもうすぐ帰らなきゃと言ってごねてたからどうしようもなくて、俺にできることを探していたらいつの間にかそんな行動に出ていた。
今度はアミが手を引いてる。それがなんだか悔しいんだか嬉しいんだか分からないような難しい気持ちを見つけ出してくれた。
山の森を潜り抜けると丘にたどり着いた、そこにはヒカルも托都もいる。まさかアミが呼んだのか!?
「遅いぞ、主催者」
「すいません先輩・・・こんな時間なのに」
確かに時間は11時過ぎだ、なんで呼び出されたのかも全く分からない。
「遊矢!今日ね、遊馬さんから聞いたんだけどこの丘から流星が見えるんだって!」
「り・・・流星!?」
「ええ!」
遊馬さんって博学じゃないらしいけど、こういうことはやっぱりお父さんが冒険家だから詳しいのかな?
でもそんなこと聞いてたなんて驚きだぜ。
「だからね!4人でこれからについてお願い事したいと思ったの!」
「なんで俺まで・・・」
「気にするな、弟の幼馴染からのお願いだぞ」
「そう言われても困るものは困る」
「ねっ!遊矢、お願い事しようよ!」
「う、うーん・・・」
「し よ う よ ? ねっ?」
「あ・・・はい・・・・」
アミさん威圧しないで下さい超怖いですやめてください。
そっか、でも考えてみれば心配してやってくれてるのかもしれないし、ちょっとノッてみるか・・・。
「えっと確か、流れ星に3回同じお願い事を唱えるんだよね!」
「懐かしいな。ヒカリもそんなことしてたっけ?」
「お前の弟も好きなのか?こういうのが」
「失礼な、お前の弟も楽しそうだけどな?」
「お前・・・・」
「勝負なら後日受けてたつぜ」
後ろで喧嘩されてるんですけど・・・・。ま、とにかくやってみるだけやってみるか。
「遊矢!来るよ!」
「よし!それじゃあ俺は―――「私たちが戻ってきてほしい」
俺のお願い事タイムを一瞬で邪魔した声。しかも聞き覚えは完全にある。というか忘れもしない。
振り返ると―――。
「久しぶりね、遊矢」
「・・・・・アルト・・・!それに・・・・」
「この虎のこと?」
「そりゃそうだろ・・・・・」
「この子はグレンが生まれ変わった姿よ」
「生まれ変わった姿って!?」
アルト曰く、あの後絶望の大穴の扉は閉ざされ2人は閉じ込められたらしいんだけど、何者かの力によって善の力を持つアルトは蘇生して、悪の力を持つグレンはその力を再び善に戻し転生したらしい。
そして気づいたらここにいた・・・・らしい。
「な、なるほど・・・・分からん」
「だけど、こうして再び私が私と出会えたのは貴方のおかげよ、遊矢」
虎になったグレンは嬉しそうに鳴く。ちょっと怖いけどアミが頭をなでるととても喜んでいた。
そしてアルトが口を開く。
「貴方のおかげで、バイオデュエリストたちは普通の人間として再びこの世界に蘇り、悪意を持たぬドリーミストの人々も蘇ったわ」
「それじゃあお前は・・・」
「これからグレンと一緒に、サーカス団ドリーミストとして人々を沸かせて見せるわ」
「そうなのね、アルトさん、頑張って!」
「あぁ!アルトならきっとできる!」
「ありがとう」
アルトが急に近づいてきたかと思ったら「お礼」と言いながらなにか頬っぺたに当たった気がする。気づくとアミも托都まで真っ赤な顔していた。・・・・・なにがあったんだ?
「きっともうすぐ、貴方の親友もやってくるわ。その日まで、そしてまた会いましょう。遊矢」
アルトはグレンに乗ると山を下りていく。姿が見えなくなるまでその姿を見届けた。
「し、・・・・仕切りなおしね」
「あ、あぁ・・・・」
「そうだな・・・・」
「だからなんでお前らそんなに俺を見ないようにすんだよ!しかも俺がなにしたんだよ!」
「もー!デリカシーないわね!だから遊矢なんて嫌いなのよ!」
「んだと!?」
「ベーッだ!」
その後は流星が流れていくのもすっかり忘れてアミとの喧嘩デュエルに発展していた。
そして数日が経過した。
~~~
あの後体調を崩した俺は3日間ぐらい高熱で休んでいた。そして現在は絶好調!!
デュエルも普段どおりやってるしこれからは幸せな――。
「今日は転入生がいる、紹介するぞ」
ドロワ先生の唐突な言葉に驚いた。噂すら流れていないのに転入生なんて思わなかったからだ。
「入って来い」という声で扉が開く。
紫と青のメッシュのショートヘアに赤色の釣り目はしっかり覚えていた幼き頃の「アイツ」にソックリだった。
「転入生の、岸岬狩也です。このクラスの・・・遊矢と雪那とは幼馴染だったんだ。よろしく」
そう、アルトの言っていた蘇る魂。狩也の姿だった。
休み時間になると隣で急にアミが手紙を読み出した。ちょっと覗いて見たが酷い言われようだ。これはまさか・・・・・。
「ラフェーナから手紙が来たのよ」
文面には「豚子ちゃん、今度来日する時はもっと可愛くなっていなさい!そうしなければ許しませんわ!」と怒りと罵声の手紙だった。この人も相変わらず素直じゃないというか・・・。
「へえー、お前のカノジョも同じクラス?」
「か、狩也!!」
「私と遊矢はただの友達よ!」
「そう見えないよなー?なぁ雪那!」
「そうね、狩也くん!」
どうやら、狩也は突然自分の家で目覚めたらしく、両親が涙を流して出迎えてくれたらしい。
それから俺のいる街に行きたいとごねてごねて引っ越してきたそうだ。
こうしてまた俺たち3人が揃うなんて夢にも思わなかった。
平和が戻っていく。そして幸せも、みんながそれぞれ勝ち取っていく。
そして物語は1人1人のものとして始まっていくんだろう。
この平和がいつまでも続くよう、俺はあの日の流星に願いたくてしょうがなかった。
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『・・・・・・・風雅遊矢・・・・愚かな人間よ・・・今度は、我らが直接、裁きを下そう』
69話へ続く
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【あとがき】
2期終わったあああああああああああ!!!長かったああああああ!!
というわけで今回の一言「次にお前は、「アルトたちが戻ってきますように」と3回言う!」です。
やっと終わったよおおおおお!!!長かったよおおおおお!!なんで2期こんなに長いんだああああああ!!!
つーことで2期がついに終わってしまいました。次はこれよりもっと長い第3期に突入するんですよね・・・・俺の体力持つかな・・・・。多分3期中に1周年迎えそうな気がする。
狩也くんとラフェーナに関しては今後も登場予定。特に狩也くんは友人として準レギュラー登場です。ラフェーナは特定の所で再び登場予定。番外の文化祭にもアイドルとして登場しますよwwwww豚子ちゃんは自分でもワラタwwww
遊馬がそろそろ怪しい行動に出始めます。リンのあのことについては3期のラスト辺りでちゃんと回収されるのでご安心を。ちなみに3期は天城一家電脳系最強説が・・・。特にカイトとミナト姉さんパネエッス!!
次回は第3期「イグランジア編」突入!!
神と名乗る謎の男「イグランジア」そしてその組織に遊矢たちが立ち向かう!新たな個性的なキャラクターも登場し、学園生活もデュエルも更にパワーアップ!!RDM(ランクダウンマジック)も登場したり、影のデュエリストも登場したり!?
そして遊矢とヒカルが覚醒!ZEXALでお馴染みのあのキャラクターたちもついに登場で大活躍!!あの男達が人間界のために立ち上がる!
そして次回はマイナスエクシーズ!?そんなの聞いた事ない!神とは一体何者なのか?!
【予告】
全てに決着がつき、学園生活を送る遊矢たち。ある日、遊矢たちの前に謎の男「イグランジア」から「制裁」という言葉が届く。そして遊矢たちの日常を一気に壊すような謎の組織の襲来に遊矢とヒカルが立ち上がる!
新たな脅威「マイナスエクシーズ」に遊矢は対抗する事ができるのだろうか!?
次回!第69話「神からの警告!神帝王イグランジア」