近所に贔屓にしているイタリアンのお店があった。
たった5席ほどの小さなお店だったけど
私も夫も花子もとてもお気に入りだった。
店主は
行くたびにいろんな話をしてくれた。
「ネットの良い口コミは参考にならないから気をつけて。ああいうのは業者を雇ってるから。」
‥‥へぇ、そんなんだ。
「同業の先輩が雑誌に取り上げられて忙しくなったって天狗になってた。急にお客さんが増えて常連客が入れなくて離れていったって。だから僕は取材は一切断ってる。」
‥‥なるほど。
「結局新規のお客さんのリピートはなく、常連さんにも見限られて最近閉店したらしい。お客さんは大事にしなきゃ。馬鹿だよね。」
‥‥確かに。
やがてこのお店は立ち退きで少し遠くに移転した。
「前よりも広くなったけど常連さんが遠くなったせいか来なくなったし、大通りから外れてるから新規のお客さんが来てくれないのが悩みなんだ。」
お店がなくなったら困るから
何度も友達を連れて行ったし
夫も会社の若い子達を連れていったりした。
都度インスタから予約を入れ
何往復もやり取りした。
そんなこんなで
夫が単身赴任になり
花子は結婚して遠くに行った。
若干疎遠になりつつあった。
私が最後に行ったのは
4月に買い物帰りにふらっと立ち寄った時だ。
普通におしゃべりして楽しく過ごした。
‥‥ここまでが前置き。
先週夫が帰省していた。
太郎もいないし
久しぶりに2人でイタリアンに行こうとなった。
夜なら予約必須だけど
ランチなら大丈夫だろうと高を括った。
「こんにちは。」
扉を開けると大盛況。
お客さんで溢れていた。
今まで見たことがない光景だ。
店主が面倒臭そうにこう言った。
「えっと‥‥予約してる？」
「‥‥いえ。」
「あー、なら無理無理。」
「分かりました。」
ふと
壁に飾ってある色紙が目に入った。
番組名と芸人さんのサイン。
【美味しかったです】のメッセージと
先月の日付入り。
なるほど
これのお陰で客が増えたってことね。
悪魔に魂売りやがったな💢
歩きながら沸々と怒りが込み上げる。
どのツラ下げて予約は？なんて言葉が出たのか。
1人でお店を切り盛りしているのだから
予約なんか入ってないことくらい瞬時に理解したよね？
私の顔忘れた？
記憶喪失？？？？
ごめんなさいまたお待ちしてますと何故言えない？
無理無理ってなんやねんっ‼️
あれだけ先輩のことを小馬鹿にしていたくせに
何も学んでないよね。
灼熱の中
フレンチレストランに移動。
ここは
20年くらい通ってるお店で
いつも通り歓迎してくれた。
安定の美味しさに安堵した。
料理を待つ間
イタリアンのお店のインスタをブロック。
何度も何度もやり取りしたメッセージも削除した。
私1人にブロックされたくらいでは
なんの影響もないだろうけど
もう二度と行くつもりはないから。
また新規開拓しなきゃね
