私たちの共通点、原因も根本的な治療法も分かっていない、そんな、心臓の病気。    

 

「範野さん、大丈夫ですかね?」と、いつもの看護師Kちゃんの声。 

 

「はい。大丈夫です。」と言って腕に巻かれツナがれている血圧計、脈拍計をはずされる。なぜか、私の病室にだけ設置されている監視カメラを 「今朝も生きてるぞ!」と、ニラみつける。  いつもの行動。 

 

前に聞いた時、 「あぁ、看護師が足りない時に、まず、範野さんを確認してから詰所を出るのよ!。」  「じゃぁ、いつも見ている訳じゃないんだ。」と、聞くと 

 

「うん、確認だけ、範野さんに何かあった時 たぶん、こうゆう、対応をしています。という言い分を作っているんだと思う。」と、Kちゃんは言っていた。 

 

正直者だ。 ただ、ぶつけて欲しくなかった、「正直な言葉」。   

 

Kちゃんに車イスを押され、テレビが置かれている広いスペースへ。

 

テレビ体操がながれている。 体操をしてもいい。ただ、見ているだけでもいい。 そんな感じでみんな集まってくる。

 

「範ちゃん! 泣いたの?」  みずき(彼女のあだな)の、ぶしつけな言い方と、ヘラヘラした笑顔が、私をイラつかせる。 

 

こいつは、なぜか、人にいつも怒られたいと言っていた。   怒られるのが、うれしいとも言っていた。  

 

みずきと言う、あだなも、友人の知り合いが、「みずき」と言う名前で自分と顔が似ているので、いつからか「みずき」と周りから呼ばれるようになったらしい。 

 

そういう、つかみどころのない娘だった。

 

「ねぇ、範ちゃん、アイス食べたい!」  「買ってくれば?」  「アイスはガマンするから、下の喫茶でパフェ大盛りおごって!」  「あそこに、大盛りサイズは無いよ!あと、パフェはおごらない!」

 

「なんで?」  「ナポリタンならおごってもいい!」  「なんでよ?」  「ここのところ、ヤセ方がヒドイよ。自分でもわかるだろ!」  

 

「範ちゃんだって、ヤセてきてるじゃん!」  

 

「これは、症状的なものだよ。おまえも、わかるだろ。」  

 

「おまえだってー ! !  みずきって呼んでよ!」  

 

「バカか!ちゃんとしたモノを食え!メシならおごってやる!」

 

「もういいよ! つまんない!」 行こうNさん!車イスを押す看護師に、みずきが急き立てた。

 

私の後ろにいるKちゃんが「謝ろうよ」と車イスを押し始める。 [Kちゃん、いいよ。夕方にでも話しにゆくから。」  

 

ため息をつく私の視線には、いつものピンクと白の柄のパジャマの、きゃしゃな肩が映っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すみません。今回は個人的なことを書かせてください。

 

最近、はっきりと昔の、ある場面や、その時の感情が

 

わきあがり、とめどなくなり、その当時の場面に連れていかれ

 

てしまう。 完膚なきまでに打ちのめされ、自分の無力さを

 

思い知らされる。必ず最後は同じ場面で

 

「何もできずに、ただ、生き残ってしまっている、そして、

 

どうしようもなく、ひとりであるという絶望感。」 

 

もう、30年も経っているのに。  

 

その日、確か15時過ぎだった。 「やせすぎだよ!今度、いちばんウマイ寿司おごってやるよ!」

 

「うん!忘れないでよ!本当におごりね!」 2つの看護師の押す車いすが、すれ違って

 

その10時間後に片方に乗っていた彼女は、自ら命を絶った。 

 

「関谷さん!関谷さん!(仮名)」 3メートル離れている病室から看護師の悲鳴と

 

叫び声の混ざった声が聞こえた。 初めて聞いたような声だったので、私は

 

「あいつ、どうしたんだ!」と思いながらも、胸から喉元までザラザラする

 

感じがして得体のしれない不安がつのった。  「なぁ!頼む!何もないでくれ!」

 

私たち2人は心臓がおかしいらしく、いつ、何が起きてもおかしくないと言われている患者同士だった。

 

原因不明なのも同じ、治療法や病名も分からないのも同じ。 ただ、起きる症状に

 

対処するだけの日々。  当時、私が23歳、彼女が19歳だった。

 

「範野くん、最近入った患者さんで君と症状が似ている娘がいてね。

 

友達というか、話しかけてあげてほしいんだけど、いいかな。」

 

「なんでです?」   「いや、食欲があまり無い娘でね。話相手でも、できれば

 

少しは元気も出るかなと思ってね。」  戸川先生はやさしい人なのだが

 

先生自体、私の話相手をするしかない担当医だった。

 

 また、書きます。 いまは、もうダメです。