行方3 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

この間私がどんな想いでいたか想像がつくだろう。ばかみたいにはしゃいでいた自分がひたすら惨めだった。やっぱりと言う思いと、もしかしたらまだと期待する気持ちと、未練たらしくそんな期待をする自分が哀れで情けなかった。買ってきた浴衣も恨めしかった。当日までそのままにしておけば返品も出来たのに、一人で盛り上がって何回も着る練習をしていたからもはや返せる状態ではなかった。こんなものもう着る機会もないのに。
考えてみればハッキリ自分の年令を言っておけば良かったのだ。たかしの笑い声が耳に蘇る。あの声をもう一度聞きたい。彼が好き。

だから改めて電話があった時は妙な言い方だが、助かったと思った。でももう一度たかしの気持ちを確認したい。花火大会の夜、華やかな場所でごめんとかそんな悲しいことを言われるのは真っ平だった。
「Fさん、これからちょっと会えないかしら」電話でできる話ではなかった。
「えっ、これから逢ってくれるの?嬉しいな~」
「 わたし車で出かけるからFさんの家の近くのファミレスかなんかで良いかしら」
S通りにあるファミレスに着くとたかしは壁際の席にもたれて私を見つけると手を挙げて合図した。
夜11時を回ったファミレスはもうそんなに混んではいないと思ったのだけれど、ティーンエイジャーがバカ話で盛り上がっていてうるさかった。ヘビースモーカーのたかしと一緒だと喫煙席のど真ん中で騒いでいる彼らから逃れることは出来なかった。
「ここうるさいから他行こう」
2人で車に乗り込みあてもなく発進させた。
「俺さ~doorさんって、俺より3つか4つくらい上なだけだと思っていたんだ」たかしは自分から口火を切った。彼は、私が言いたかったことを完全に理解して、しかも切り出しづらいことを自分から言ってくれる。そういうところに、彼の優しさを感じるのだ。
「うん」
「だからこの間は正直ショックだった」
「うん、別に隠していたわけじゃないんだけどね」
「ところでどこへ行くの、この車」
「どこか…ちょっとドライブってことで」郊外に向かって走らせていた。運転しながらだと目を合わさずにすむし、2人の間の距離感がちょうど良かった。
「俺も30過ぎだからいい加減な付き合いはしたくないんだよね、もう」
「うん」
「あれからdoorさんとのことずっと考えていたんだ」
「うん」
「3つか4つ上が、6つや7つ上でもあんまり変わらないような気がしてきた」
「それは違うよ」
「違ってもなんでもdoorさんが好きなんだ」
なんと応えて良いのか分からなかった。
「……普通に考えてあなたみたいによりどりみどり女の子が放っておかなそうな人が、どうしてわたしなんかとつき合いたいと思っているのか理解できないわ」
「でもなんていうかあなた自身が好きなんだ。なんて言うんだろ、う~ん……生き方って言うか、魂の色って言うか…」
「魂の色…」そんな日本語は初めて聞いた。それは私の中でとても美しく新鮮に響いた。私の魂の色は何色なのだろう。


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