ホテルのふかふかのベッドで目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む朝日が柔らかく、心地よい目覚めのはずだったけど、鼻がムズムズしてどうにも調子が悪い。やっぱり花粉症の影響だろうか。それとも、昨日ホテルのテラスで春の風に誘われて、ついビールを飲みすぎたせい? あのテラスは最高だった。冷えたグラスでシュワっと泡立つビール、遠くの街の喧騒、ほのかに漂う花の香り。あまりにも気持ちよくて、時間を忘れて飲み続けてしまった。鼻には堪えたかもしれないけど、あの開放感はまた味わいたい。
朝ごはんは、昨日コンビニで買ったおにぎりとサンドイッチの残り。ホテルのロビーで無料のコーヒーと味噌汁をもらって、簡単な朝食をササっと済ませた。味噌汁の温かさが朝の少し冷えた体に染みて、ほっと一息。コーヒーはちょっと薄めだったけど、無料なら文句はない。シャワーを浴びてサッパリしてから、ホテルの送迎バスで日光へ向かう予定だった。日光の駅から帰るつもりで、頭の中では自然豊かな景色や歴史ある寺社を巡るイメージが膨らんでいた。パートナーと静かな時間を楽しめるかな、なんて期待していた。
ところが、パートナーの突然の提案で予定が一変。「池袋で金原ひとみの新刊トークショーがあるから、絶対行きたい!」と目をキラキラさせて言うもんだから、日光のプランはあっさりキャンセル。彼は金原ひとみの大ファンで、こういうイベントは見逃せないらしい。自分は彼女の小説をまだ読んだことがないから、正直そこまでテンションが上がらない。でも、彼の楽しそうな顔を見ると断れなくて、「じゃあ、行こうか」と渋々了承。日光の駅から帰る予定だったのに、気がつけば池袋行きの電車に乗っていた。
池袋に着いてジュンク堂の会場に入ると、熱気と期待感に満ちた雰囲気に少し引き込まれた。トークショーは思った以上に面白かった。金原ひとみの話し方はユーモラスで、独特の視点で語るエピソードに引き込まれる瞬間もあった。ただ、小説を読んでいないから、作品への思い入れがなく、話の背景がピンとこない部分も。パートナーは目を輝かせて頷きながら聞いて、時折「わかる!」と小声で呟いていた。自分は「ふむふむ、なるほど」くらいの感じ。トークショーが終わると、彼は「絶対読んでみて! ハマるよ!」と熱弁。うん、まずは一冊読んでみるかな。どの作品から入ろうか、ちょっと気になってきた。
トークショーの後は、パートナーが買った本にサインをもらうために長蛇の列に並ぶというので、自分は隣のスターバックスで待つことに。カフェラテを飲みながら、窓際の席で池袋の街をぼんやり眺めた。週末の都会は人が多くて、通りを行き交う人々のエネルギーがガラス越しに伝わってくる。30分くらい経って、ようやくパートナーがサイン本を手に笑顔で戻ってきた。「これ、宝物にする!」と本を大事そうに持つ姿に、付き合ってよかったなと思う。
ところが、ここで次のリクエスト。「せっかく池袋に来たんだから、JRのコナンのスタンプラリーやろうよ!」とパートナー。彼はスタンプラリーが大好きで、こういうイベントがあると絶対参加したがる。自分はそこまで興味ないけど、楽しそうな顔を見ると断れない。それに、ちょうど新宿で買ったものの受け取りがあったから、スタンプラリーのついでに新宿にも寄れる。仕方なく「いいよ、付き合うよ」と参加。池袋の駅でスタンプを押すのも長蛇の列。コナンファンが子供から大人まで集まっていて、ちょっとしたお祭り騒ぎ。パートナーはスタンプを押すたびに「やった! 次はこれ!」と子供のようにはしゃいで、つい笑ってしまう。
新宿に移動してからも、人の多さに圧倒された。週末の大都会って、ほんとすごい。受け取りの店舗も混んでいて、予定より時間がかかった。スタンプラリーと受け取りでクタクタになりながら、ようやく帰路につく。本当なら日光の駅から帰るはずだったのに、なんだかんだで東京のど真ん中を駆けずり回った一日。パートナーに「駅で買い物するから、先に帰ってご飯炊いといて」と言われた瞬間、軽いデジャヴ。今週、似たような展開が二度目だ。まあ、こういう役割分担も悪くない。家に着いて米を研ぎ、炊飯器のスイッチを入れる。キッチンに立つと、あるもので適当に料理するのは嫌いじゃない。冷蔵庫の野菜と鶏肉で簡単な生姜醤油炒めを作った。ご飯が炊けるいい匂いが部屋に広がって、疲れが少し癒される。
夜はポッドキャストの収録。テーマは「ノルウェーから帰国して一年」。二人ともノルウェーでの生活が懐かしくて、話したいことが山ほどあったはずなのに、一日動き回って疲れていたせいか、最初は会話がトゲトゲしかった。ノルウェーのフィヨルドの美しさや、静かな暮らしを思い出す一方で、帰国後の慌ただしい生活とのギャップに愚痴っぽくなる瞬間も。ちょっとした言い合いで空気が重くなり、顔を見合わせて「…これ、ダメなパターンじゃん」と苦笑い。気を取り直してテイク2。残りの力を振り絞って、ノリノリで喋ってみた。ノルウェーで食べたサーモンの美味しさや、極夜の不思議な雰囲気、帰国後に日本のコンビニの便利さに感動した話で盛り上がった。疲れてたはずなのに、懐かしい思い出を語ると不思議とテンションが上がる。なんとか収録を終えて、ほっと一息。
ベッドに倒れ込むようにして、長い一日が終わった。日光の駅から帰る予定が、池袋と新宿を巡る都会の冒険に変わった。パートナーのキラキラした笑顔、スタンプラリーの列、ノルウェーの思い出を語り合ったポッドキャストのテイク2。いろんなことがあったけど、なんだかんだで充実した一日だった。鼻のムズムズはまだ治らないけど、明日も何か面白いことが待ってる気がする。さて、寝よう。