もう、父が亡くなって12年経ちますかね。
そのまだ5年ほど前のことです。
どうも父が、以前より腰が痛いというので病院に連れて行きました。
診察の結果、かなり進んだ前立腺がんだったんです。
「一年ぐらいでしょう」と医師から言われました。
父にはその事を、ずっと言えませんでした。
病気のことは父には言いませんでしたが、父は全てわかっていたと思います。
そりゃ、それなりの治療をするんですからね。
しかし、それから治療方法が良かったのと素晴らしい医師に出会えたという事もあって1年と言われていた命を5年間、長らえることができたんです。
でも、それにはもう一つの要因があったと思います。
宣告を受けてすぐ位だったと思いますが、このような事がありました。
父や私が住んでいる町の歴史がわかる写真集というのが、たまたま立ち寄った本屋にあったんですね。
見ると、町の昔懐かしい自然や街並みが画像でたくさん載っています。
これは、父に見せれば懐かしく思ってくれると、買ってすぐに父に見せました。
すごく喜んでもらえると思っていたんです。
しかし、父はこう、私に言いました。「こんなもの見て昔を懐かしんでどうする?昔じゃなく、これからというものが大事だ。だから、この本はいらない。」
と。
私と母は驚きで目を合わせました。
人は悩みや哀しいことがあればどうしても昔を懐かしがります。
父は、それをしなかった。
病気であっても今を生きるという強い思いがあったんです。
その思いも5年の命に長らえたんです。
私は父にいろいろと教わりました。
しかし、その「本」を渡した時の言葉が一番脳裏に焼き付いています。
でも、今、再度よくよく考えてみると、父はその「本」を見たかったんだと思います。
しかし、それをすると自分の弱さを家族に見せることになる、きっとそう思ったに違いありません。
