1980年代半ばになると、西海岸のラップもより激しいサウンドを取り入れ歌詞も徐々に攻撃性を増していき、ゆくゆくは国家権力を巻き込んだ社会問題へと発展していきます。

Gangsta Rapの源流:Ice-TとSchoolly D


80年代の西海岸を牽引したDJ集団、Uncle Jamm's ArmyのMCとして頭角を現していたIce-Tは、フィラデルフィア出身のラッパー、Schoolly Dの「P.S.K. (What Does It Mean?)」をきっかけに、ラッパーとしての大きな分岐点を見出します。

P.S.K.とは、Schoolly Dもメンバーであったとされる、Park Side Killasというギャングの頭文字であり、ギャングの視点からセックス、暴力、ドラッグなどについてラップしており、また、当時はまだ数少なかったNワードを曲中に使用した曲として、後のGangsta Rapの原点として語り継がれています。

「朝の6時…ドアの前に警官が立っていやがった」


サンタモニカのクラブで前述曲を聴いたIce-Tは、激しいサウンドと、Schoolly Dの淡々とした語り口調血と過激な歌詞の対比に衝撃を受け、自身のアパートに戻るとRolandの808を取り出しビートを作り、ストリートでの日常、売春や暴力、L.A.P.D.との一悶着などについて冷静沈着にラップする 、「6 in The Mornin'」をリリースし、これがヒットします。

同シングル収録のデビュー・アルバム、「Rhyme Pays」は高い評価とともに商業的成功も収め、危険な香り漂うGangsta Rapのサウンドは、同時期でのとあるグループの発足とともに更にエスカレートしていきます。

Ruthless Records: N.W.A.の誕生

1987年、盟友であったJerry Hellerとともに、Ruthless Recordsを立ち上げた故Eazy−Eは、当時、西海岸のHipHopシーンで絶大な影響力を持ってた日系アメリカ人、Steve Yanoを通し、World Class Wreckin Cru'のメンバーであったDr.Dreを勧誘し''N*ggaz with Attitude (N.W.A.)''を結成します。

Ruthlessからリリースされたコンピレーションアルバム、「N.W.A. and The Posse」ではEazyとDr.Dreの二人組ユニットとして、他地元アーティストたちとともに11曲中3曲を提供し、Eazy-Eもソロカット「Boyz-n-the-Hood」でレコードデビューを果たします。

「Straight Outta Compton」

1988年、N.W.A.はDreと同じくWorld Class Wreckin Cruの所属だったDJ Yellaに加え、Ice Cube、Arabian PrinceとMC Renをメンバーに迎え、Ruthlessからファースト・アルバム、「Straight Outta Compton」でデビューします。1989年にもなると、Gangsta Rap初のプラチナ・アルバムとなり、商業的大成功、Hip Hopの今後の流れを変えるとともに、音楽と国境を超える大きな社会現象を起こしました。

「Fuck Tha Police」と権力との衝突


暴力やセックス、ストリートでの過酷な日常をつづった過激な曲が多い「Straight Outta Compton」の中でも特筆すべきは、レイシャル・プロファイリングと警察による暴力を痛烈に批判した「Fuck Tha Police」。裁判所にいるという設定で、N.W.A.のメンバーが被告人のロサンゼル市警を相手に、それぞれ陳述という形でラップするというコンセプトの下、切れ味鋭い韻とデリバリーで詰めるという内容となってます。

曲のオチで陪審員は被告人である警官を、「レッドネック、ホワイトブレッド(中産階級の白人を指すスラング)、臆病者のクソ野郎」と認定し、有罪判決を下します。

同曲は1989年には、「ロサンゼルス市警を不当に表現し、名誉を著しく既存していると」、連邦捜査局(FBI)からも警告を受け、同年で開催されたデトロイト市のコンサートではFuck Tha Policeを流した際、N.W.A.はデトロイト州の警察から襲撃を受け、爆竹を投げられるレベルの騒動に発展し、逮捕されるまでにも至ってます。

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当時のPromoterに当てられた連邦捜査局局員Milt Ahlerichの手紙(出典:Reddit)

国外の影響

これは今となってはかなり有名な話ですが、「Fuck Tha Police」はリリース翌年の1989年、オーストラリアでも大ヒットし、国営放送協会傘下のラジオ局、Triple Jは同曲を最長でリスナーの要望もあり、半年以上流しつづけたとのこと。

なお、南オーストラリアの上院議員による政治的圧力によって、放送禁止になった際にはスタッフが反発しストライキが起き、同グループの「Express Yourself」を24時間立て続けて流したそうです。

Hip Hop、ポップカルチャーへの影響


その後のDeath Row RecordsのやG-Funkのサウンドの発展ももちろん、N.W.A.やIce-TのGangsta Rapのサウンド、特に前者はHip Hopにおけるプロテストソングの先駆けともなり、同郷のバンド、Rage Against The Machineや、東海岸のPublic Enemy等にも大きな影響を与えました。「Fuck Tha Police」は2024年現在でも、反権力のフレーズとして政治デモやポップカルチャーでも、国境を超え多く引用されています。