監督:ロマン・ポランスキー
主演:ピーター・コヨーテ、エマニュエル・セニエ、ヒュー・グラント、クリスティン・スコット・トーマス
どこか重心を欠いて気持ちをふらふら不安定にさせられるのは、それは舞台が航海途中の揺れる客船の中であり、登場人物の設定が多岐にわたっている(イギリス人夫婦、アメリカ人とフランス人の夫婦、同乗するインド人やラテン系など)からであり、ヴァンゲリスの担当する音楽がどこか偽善的で嘘臭いからであり、作品の大半を占めるある男の回送シーンが嘘か本当かわからないような不気味な語り口だからであり…
ただそれだけではなかった。
なによりもまず、エマニュエル・セニエの演技、というよりも存在そのものが 、物語の整合性を内側から食い破ってしまっているように感じたから。
特に彼女の、空虚としか言いようのない、しかし美しすぎる魅力的な眼差しが、話の筋、論理をすべて裏切っているように見えて、ますますこの映画に不思議な拠り所のなさを与えているように感じたのだった。
筋道上、彼女は彼を愛していなくてはならないのに。その冷たく虚ろで遠くを透かし見ているような超越的な眼差しは、観ている自分にどこか疑念や不安を催させる。だから、常にミステリーの感覚もついてまわるのだった。
だからこそというべきか、無邪気に男とはしゃいで遊ぶシーンになると、恋の儚さが一気に溢れ出してきて、勝手に切なくなる。不確かだけど本当であってほしいと。
テーマがあるといえばあるような気がするし、どこかの解説に「男と女の極限下のエロティシズムを描いた文芸作品の映画化」とあるので、男女の愛と性と絆の残酷さが描かれているといえばそうなのかもしれない。喜劇と悲劇の両方として。
映画日記
(2012年5月2日)
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