時節柄、ここで社交ダンスを少しだけ離れ、全てのジャンルを超えた「最高のダンス」について話をしてみたくなりました。

 

 シンプルに、「貴方にとって最高のダンス」とは何でしょうか?それは、ダンスのジャンルなのか、はたまた個人の固有のダンスなのか。このブログを読んでいる方は社交ダンスに限らずダンスが好きな方々が多いでしょうから、様々な場面、ダンサーを思い浮かべることでしょう。もちろん、一つのダンス、個人に絞ることはできないのではないでしょうか。

 

 もちろん、私もひとつに絞ることなどできないのですが、英語風に、「この世界で最も素晴らしいダンスの一つ」、という表現が許されるならば、それは、ラグビーのニュージーランド代表、通称オールブラックスが試合前に踊る「ハカ」ではないでしょうか。(ご存じのように、現在、ラグビーのワールドカップが開催中)。ラグビーファンの中には、この「ハカ」の熱狂的なファンも多いようです。

 

 「ハカ」は、ニュージーランドのマオリ族が躍る民族舞踊で、元々はマオリ族の戦士が戦いの前に自らの力を誇示し、相手を威嚇するために踊られたものです。オールブラックスが1905年のイギリス遠征で初めて披露して以来、現在でもその伝統が受け継がれています。ハカには様々なバリエーションがあって、それらを総称してウォー・クライ(戦いの叫び)と呼ばれることもあるようです。ニュージーランド以外にも、環太平洋の島々にはこの類の舞踊があるようで、トンガ代表はシピタウ、サモア代表はシヴァタウ、フィジー代表はシビ、という試合前の舞踊があるようです。いちおう、現代では、相手を威嚇・威圧するためではなく、相手に対する敬意を表すものなのだ、ということになっているようです。

 

 これらのダンスに対しては、「かっこいい」という言葉が陳腐に思えるほどの「別格のかっこよさ」があるように思います。私は、このダンスを表現すべき適切な言葉が思い浮かびません。鳥肌が立つような、魂が揺さぶられるような、荘厳さ、力強さ、そして、決戦のその地に立つ誇りが、伝わってきます。

 

 「人間の声こそが最高の楽器だ」、といった人がいますが、声が最高の管楽器であるなら、人間の手や足は最高の打楽器であることを示しているのがこの「ハカ」ではないでしょうか。鍛え抜かれた美しい肉体から放たれる力強い音。大地を踏み鳴らす力強さ、己の力を誇示する手を叩くしぐさ、そして雄叫び。

 

 これは、究極に進化したダンスの一つの形ではないでしょうか。優雅さ、ロマンチックさ等がダンスの「柔」の魅力なら、ハカの持つ力強さもその反対側に位置する磨き抜かれたダンスの「剛」の魅力でしょう。

 

 ハカの魅力は、踊りそのものだけではなく、ハカを取り巻く環境にもあるように思います。ハカを目の前で見せつけられる対戦チームの表情、態度がまたいいですよね。敬意をはらいつつ相手を睨みつけ、闘志を内に秘めてその儀式に応える姿に、グッときます。これもまた究極に「カッコいい」。そして、観客席の最高潮の盛り上がり。これらを見るに、ダンスをとりまく人たち、観客もまた、素晴らしいダンスの一部なのだ、この壮大なショーの一部なのだ、ということを痛感させられます。

 

 社交ダンスの試合が真っ盛りのこの時期ですが、たまにはラグビーを見てみるのもいいかもしれません。試合前のセレモニーだけでも。