「ねえ、ちょっと聞いてよ、サイアク〜」
今日もいつものカフェで愚痴っている。
フカフカの濃紺のベルベット貼りのソファに向かい合い、親友とコーヒーとケーキのセットをシェアし合う。
私はチョコレートケーキ、親友はモンブラン。
お互い、ちょっとずつ味見したいから、丁度いい。
しっかりと重厚なチョコレートの味。
和栗のブラウンが美しい。甘すぎず、しつこくない軽やかなモンブラン。
良心的なお値段の割に、いい材料を使っているのがわかるから、このカフェは私たちのお気に入りだ。
親友のことは大好きだ。
彼女はいつも、そんなに話さない。
話すより、聞く方が好きなのだそう。
私の話をうんうん、と相槌を打って、今日も聞いてくれる。
いつものカフェ、美味しいお茶とケーキ、彼女の眼差しに私はいつも救われている。
窓の外は雨。
しっとりと濡れた静かな街並みは、焦らなくていいんだよ。と言ってくれているような気がする。
ああ、延々とこの時間が続けばいいのに。
この後彼女と別れたら、家に帰らなければならない。
夕飯の支度をして、夫を待つ。
夫はいつものように、黙って出された夕飯を食べ、その後彼の定位置に寝転がるだろう。
スマホタイムだ。
延々と動画を見て、私が沸かした風呂を浴びて、眠るだけ。寝室は別々。いびきがうるさくて、一緒には眠れない。
私から話しかけても、夫はスマホを見ながら返事をする。
よく聞いていないことも多い。
そういう時私はとても、ガッカリする。
ああ、この人は、もう私のことに興味がないんだ。と感じてしまうから。
私は昔のように、ちゃんと目と目を合わせて、会話をしたい。
話している時は、私のことだけ考えて欲しい。
スマホ片手に、私のことを軽く扱わないでほしい。
なんか、寂しい。
そういう全ての言葉を飲み込んで、今日も私は眠る。
ギュッと閉じた目から、ポロッと涙が溢れる。
泣いてる?
自分で自分にギョッとする。
涙脆いのは生理前だからだ、と自分に言い聞かせる。
そうして頭を整理する。
夫も、仕事で疲れているのだ。
私は夫のおかげで、何不自由なく生活できている。
それだけでも、ありがたいことだ。
これ以上、文句を言ってはいけない…。
だけど、心が満たされない。
もう考えるのはやめよう。頭が痛くなりそう。
誰か、助けて…。
気がつくと、白い雲の上に私は立っていた。
目の前に、若い男がいる。
白い服を着た、金髪の。
よく見ると背中に、白い大きな羽が見える。
ん??これって、俗にいう天使ってやつじゃない?
ああ、私は今、夢を見ているんだぁ。
「久しぶりだね!」
ニコッと微笑む若い男の天使。なんて可愛い。
BLの元祖受けみたいな線の細さを感じる。
「その顔だと、僕のこと忘れちゃったんだね。僕は毎日、ずっと君のそばにいて、君の願いを叶え続けている、っていうのにさ」
「どういうこと??」
「君がスッカリ忘れちゃったみたいだから言うけどさ、君の世界は、君が思った通りになっているだけだよ。」
「どういうこと?」
「僕は、君が助けて、って言ったから、やっと出てこれたんだ。僕はいつも君と一緒にいるから、君の痛みも喜びも、全部を知ってる。君のことが大好きだ。だから僕は、君を幸せにしたいのさ。
涙が出る、ってことは、今辛いだろう?僕に何か、できることはある?」
彼の青い瞳が、ジッと私を見つめている。
優しい眼差しに、心が解けていくのを感じる。
「私は本当は、もっと夫とコミュニケーションが取りたい。私は話すのが好きだから、毎日目を見て会話がしたい。
親友との時間は、とても幸せだけど、私は本当は、それを夫にしてほしいと思っているの」
「そうだったんだね!」
話をしていて気づいたことには、彼は多分、私の守護天使、ってやつなのだろう。
ずっとそばにいた。と言っている。
この優しそうで、絶妙に頼りない感じ。
私はこの感じを知っている。そう思った。
「あのね。大事なことを言うよ。僕は天使だから、神さまに君の願いを届けることができる。今君の本音を知ったし、君の裏にある気持ちも、僕なら理解することができるんだ。
ただ、僕を介さない時は、気をつけてね。」
彼の瞳が曇る。
「どういうこと?」
彼は、フーッと溜息をつくと、意を決したようにこう言った。
「あのね」
私の目を覗き込むブルーの瞳が、美しい。
「神さまは、実はADHDなんだよな」
「ええっ!!!」
驚きすぎて、声が大きくなってしまった。
顎が外れる級のオドロキだ。
「なんで?」
「なんでなのかは、僕にもわからないんだ。ただ、僕は君と、神さまの仲介として存在し続けて、互いの話を聞き続けた結果、そう判断したね」
「僕はこれまでも、何度も君のこと、神さまに伝えたんだよ。
君が親友との時間を望むのは、旦那さんとの時間が欲しいことの裏返しだって。
そうしたら、神さまはこう言うんだ。
「オマエはバカだな。彼女は、親友との時間がずっと続けばいいのに。って言ってるじゃないか。
それに、彼女はこうも言っている。夫のお陰で生活できるんだから、文句を言ってはいけないと。
それが、彼女の望みだ、間違いない!」って。
こう言っちゃなんだけど、バカなのは神さまのほうだと、俺は思うんだ。
人の気持ちが、何もわかっちゃいないのさ。言葉の裏に隠された本音、ってものを知らないんだ」
突然一人称が、僕から俺に変わった感じから、彼のスイッチが入ったのを感じる。
「マジで疲れるんだよなぁ!裏を読んで演出してくれないと、君は幸せになれないだろう?俺はあなたの幸せだけを願っているというのに、アイツったらさぁ」
一気に言い上げた彼の、息が荒い。
「あ、ゴメン。今のは神さまにはオフレコにしといてね」
キュンとウインクがハマる金髪イケメン天使。
「そうだったんだ…。」
そう考えると、全てのことに合点がいくのであった。
私が、心で言った通りに全てなっている。
つまり、私の言葉そのものを神さまは聞いて、その通りにしてくれていただけだったのだ。
天使は言った。
「ADHDが悪いわけじゃないけどさ、たまに言葉が通じなくて、イライラする時ない?それに、後先考えないでその時自分が思った通りにやっちゃうから、危なっかしいし。あれと神さま、そっくりなんだよなぁ」
ほへー。神さまのイメージ崩壊。
勝手に自分の理想を押し付けていたことに気づいた。
もっと、寄り添ってくれる感じだと思っていた。
そう、守護天使の彼みたいに。
なんだか、色々悩んでいたことがバカバカしくなり、笑ってしまった。
「わかった。これからは、望む通りに言葉を使うね」
「うん。そうしてくれると、僕の仕事が減って、君も幸せになれるし、一石二鳥だと思うよ」
「僕は永遠に君のことを愛しているよ。心配しないで。僕がそばにいるから、ちゃんと神さまに直談判するんだよ〜」
気がつくと彼の腕に抱きしめられていた。
虹色の光に包まれている。
「愛こそが、全てなんだよ。神は馬鹿正直な愛だ」
そっと耳元で囁かれて、体の力が抜ける。
「ありがとう、守護天使」
目が覚めると、私は布団の中にいた。
やっぱり、夢だったんだ。守護天使の虹色の光。
綺麗だった…。
「おはよ〜」
家族が起きてくる。誰が1番に洗面所を使うのか、戦いが始まる。
ギリギリにならないと起きない、それを毎日繰り返している平和な家族たち。
また新しい1日が始まる。
朝の光、平和の光。
「神さま。私は今日から、あなたと直に話します。
何が私にとっての幸せなのか、あなたに全部教えてあげます」
「ほう。それはそれは」
ハートの奥の方で、声が聞こえた。
ええっ!!いきなり、神さまの声が聞こえ始めた。
「やっと私と、話す気になったか。ずっとここにおったぞ。言っておくけどな、天使のアイツより、私の方がずっとカッコいいぞ。そして、ずっと力が強いぞ。後はあなたに、私を扱えるかだけだな」
「どういうことですか?」
「おいおいわかる。さあ、朝ごはんを食べようじゃないか」
私はいつものように、炊き立てのご飯をよそい、TKGにして食べた。
「ん〜、美味しい」
(もっと美味しい卵でやってみたいな)
「よかろう!!!」
その時シューン!!と凄い速さで何かが駆け抜けていったのを感じた。
あ、神さまだ。
そう思った。
きっと、最高の卵を探しに行ったのだろう。
「な〜んだ。単純」
これまで、人生を深く考えていたのが可笑しくなるくらい、神さまは子供だった。
言われたら、言われた通り。
率直というか、素直というか、バカというか…。
「バカは余計だ」
ウワッ、もう帰ってきてたんだ。ビックリ。
神さまは、今ここにいる。
目に見えないけれど、今ここにいるんだ。
神様と話すのはカンタンだし、神さまの力を扱うのも、実はカンタンなのだった。
「バレたら、格が下がる」
ええー、思っている以上に神さまって…。
「まあとにかく、これからも共にいるからよろしく頼む」
自分が感じて味わっていること、それそのものが神さまも体験していることだったのだ。
これから私、どうなっちゃうんだろう?
全く新しい世界が始まる。
つづく。
あなたの神と末永くお幸せに😃
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