ダヴィンチ・コードならぬクララ・コードと呼ばれる、ローベルト・シューマンが自作の曲のあちらこちらに散りばめた暗号を、意識して聴いてみませんか?
この研究は、NHK交響楽団首席クラリネット奏者・東邦音楽大学特人教授・東京藝術大学講師でいらっしゃいます磯部周平氏によるもので、『レコード芸術』(音楽之友社刊)2006年7月号の記事を参考にしています。
もしかしたらご存知の方もあるのではないでしょうか。
ローベルト・シューマンは、大学では初めは法律を学んでいたことは有名ですが、なんと暗号学も学んでいたそうです。暗号学をいつどこで学んだかは、まだ私の調べが追いついていません。
そんな彼は、あらゆる曲の中に、クララを表すモチーフを散りばめたのです。その代表格がピアノ・ソナタ第3番作品14(1835年)で、第3楽章に「クララ・ヴィークのアンダンティーノ」という主題が提示され、それはクララ自身が作曲したメロディーに基づいています。(ドシラソファ)
その音型は、5つの下降する音で構成されたもので、その音は「Clara」という5つの綴りの数、そして、C=ド・3番目のA=ラからクララを連想されます。
これは他の曲にも見られ、クララのモチーフは「下降する5つの音」からやがて「1回上がって下降する5つ音」に変化していきます。「子どもの情景」作品15(1838年)の1曲目に出てくる「シソファミレ」という主題がそれで、「子どもの情景」全曲に渡って使用されています。
その「シソファミレ」の真ん中に、ローベルト・シューマンの分身と言われるキャラクターであるフロレスタンとオイゼビウスという名前のF=ファ・E=ミが入っていて、クララの名前に自身の名前をサンドしているわけです。(一番下にご参考)
磯部氏は「ロマンチックですね。」と書いておられます。
そして、「トロイメライ」の冒頭、少しイメージして歌ってみてください。
ドファ~~ ミファラドファファ~~
CとAはクララ、FとEはフロスタレンとオイゼビウス、名前をここでも挟んでいたのですね。
その続きのメロディーが、ミレドファ… その手前から「ドファミレド」のクララのモチーフになっています。これは「4度(ド→ファが四つ)がって下降する5音」です。
ここまでは磯部氏も半信半疑だったそうですが、研究が進むにつれ、確信に変わってこられます。先の「トロイメライ」の「ドファミレド」は、1839年の「花の曲」作品19にも出てきます。
シューマンの作品におけるクララのモチーフを年代順に見ていくと、最終的には「4度上がって下降する5音」に落ち着いたそうです。
4は「憧れ」を表し、5は「確信」を意味するのだとか。
さて、この「4度上がって下降する5音」は、J.Sバッハの「マタイ受難曲」BWV244のメロディーであることに気付かれましたでしょうか?
この旋律は、実はレオン・ハスラーという、バッハよりも1世紀程前の人の作曲したものなのだそうです。
「マタイ」の大事な場面に繰り返し出てくる、いわばマタイの象徴のようなメロディーであることを指摘なさっています。そして、何故、突然にここでバッハが出てくるのかと。
それは、クララの強い勧めでシューマンがバッハの研究に取り組んだ時期があり、「マタイ」のメロディーを重ねても全く不思議はないとのことです。(私もクララとバッハについていつか書きたいと思ってきましたので、そのうちに。)
さて、一旦ここでこの話題を切ります。まだ磯部氏の記事には面白い続きがあって、ブラームスも実はクララのモチーフを作品に使っています!それに、まだまだ他にもクララのモチーフはあるのです。長くなりますので、次の機会に譲りますので、興味のある方は、曲中に見つけてみてください(笑)
ちなみにシューマンを含む、多くの作曲家がこのような暗号を散りばめています。シューマンも、実は元カノの出身地など、クララの他にもたくさんの暗号を用いています。(けしからん!)
演奏に合わせて楽譜が表示される「トロイメライ」↓ ご参考に。
シューマンのキャラクターについて
シューマンは評論の仕事もしていましたが、その評論の中に架空の団体『ダヴィッド同盟』を設定し、この団体のメンバーによる架空座談会という形での音楽評論を多用しました。この架空座談会に登場する「フロレスタン」と「オイゼビウス」という人物が最も良くシューマンの意見を表しているとされています。