寮の外観を見ただけで絶望を感じさせられた私たち新入社員。
とりあえず各自部屋にて荷物を整理。
といっても、スーツケースと段ボール1個分くらいの荷物しかないが・・・
夕飯は5時から食べられるようなので、それまでは寮の中や周囲を散策することにした。
まずは水周りのチェックだが、
トイレは各階に和式大便所が2個、小便器が2個。これを10人くらいの住人が使用する。
なぜか天井にデカイ穴があり、蛍光灯もかすれ気味でまるで廃校みたいだ。
大便器には糞がとびちり、木製のドアもカビや経年劣化でくたびれている。
小便器の中はデカい蛾がパタパタしており、異様な雰囲気を醸し出している。
田舎で窓開けっ放しのトイレなので虫は入り放題。
そのアンモニア臭満載のトイレのすぐ横が洗面場兼ランドリーだ。
広さでいえば全部で6畳ほど。
かなり狭い上に驚くほど汚い。
ちなみに洗面場は小学校にある手洗い場に近い作りだ。
なぜか玉ねぎのカスや割りばし、調味料や洗剤が置いてある。
コイン式のコンロもあるが、錆ついていて使用は不可能だろう。
トイレチェックが終わると、浴場へ向う。
大学時代はほぼシャワーのみだったので、大浴場で足を伸ばしながらゆっくりするのがひそかな希望であった。
が、当然のごとく夢は夢で終わった。
まず死体置場のような脱衣所は暗く湿気でジメジメしており、足ふきマットなどボロボロでカビまみれであった。
肝心の浴場にはこれまたカビで真っ黒になった洗面器具やシャワーが5個。
風呂は3人くらいは一緒に入れそうだが、
脂や陰毛が浮遊しており、とても入る気にはなれない。
しずんだ気持ちのまま屋上へ向かう。
今までどんよりした気持ちだったが、目の前には緑が広がりすがすがしい気持ちになれた。
まわりには何もないが、眺めはなかなかのものだ。
最悪の独身寮だと思ったていたけど、この場所だけは気に入ることができた。
ベンチもあり、皆で座って愚痴を言い合った。
皆で屋上で話していると楽しいし、意外とうまくやっていけるかも!と思ってた矢先、
無口なエリートがぽつりと言った・・・
「ここ、タコ部屋と一緒だ。」
やはりここは最低の環境には変わりない。
感覚が麻痺する前に脱出しよう、そう誓った23の春。