君の事が好きでした。
けれどお互いそれは恋ではなかったのでしょう。
奥様の過去も知った。
どれだけ辛い過去を繋いで、やっと手に入れた位置だって事も知った。
アタシには、一緒に過ごしていた時の彼との辛い思い出なんて、無い。
只楽しくて、眠れない夜なんてなくて。
当たり前のように傍に居て。
待つ孤独も、他の女性の影に怯える事も知らなかった。
けれどそれは、きっとままごとだったから。
奥さんが長い年月をかけて手に入れたもの。
それは長い時間をかけていっぱい泣いたから価値があるもの。
何の苦労もせずに手に入れたアタシの恋は、きっと簡単に失えるイミテーション。
彼は優しかった。
今までの過去を知った今でも、それが信じられない位優しかった。
彼が今まで女の子にしてきた酷い事も、アタシはされたことが無い。
愛されていた。
でもそれは恋じゃなく、きっとペットの様に。
ちょっと疲れてる時期に、偶々目に付いて構って。
構ってるうちに可愛くなって、情がわいて。
癒されたくて、お家で飼って世話をして。
けれど、世話をし切れなくなってしまった。
捨てなきゃいけない。
けれど、捨て犬にする勇気はない。
それで、ここまで来ちゃったんだね。
それでもアタシは幸せだった。
楽だった。居心地が良かった。手をかけて貰えるのが嬉しかった。
恋じゃなかったとしても。
今、手放さなきゃいけなくなって初めて思う。
アタシ、今やっと、恋をしてる。
叶わない、届かない、辛い恋。
それはとても痛くて、だけどもう夢は見ない。
捨てられて手にしたのは、生きてく力と恋心。
そして一生の、アタシだけの宝物でした。