あと少しで日付が変わる。


明日4月2日は、映画『桜の樹の下』の公開初日である。

公開前夜は落ち着かない。

元来、小心者の私は、朝まで飲んでいたい衝動にかられている。


映画『桜の樹の下』の監督である田中圭は、弱冠28歳の女性である。

彼女とは、まだ(彼女が)学生の頃に出会った。

口数は少なく、舌足らずで朴訥としていた。

どこか頼りなさを感じながら、一体どんな女の子なのだろうと思っていた。


ところが、卒業制作で2度企画が頓挫しても、3度目の正直で作品を作り上げる姿を見て、

物事に対して粘り強く、人への観察眼は鋭いなと感じたことを憶えている。

まだ未知数ではあるけれど、作り手としての性を見た気がした。


そんな彼女が卒業式の翌日、私の家にカメラを取りに来た。3年ほど前の話である。

私はカメラを貸し出し、いつまで続くかなと思っていた。


半年が過ぎた頃だろうか、ラッシュを見て欲しいという電話がかかってきた。

そこから、私は『桜の樹の下』に引きずり込まれていったのだ。

そしてそのラッシュは、卒業制作の時に頓挫した2つめの企画であった。


執念の女である。


完成に向けても紆余曲折あり、公開に向けても紆余曲折が多い作品だった。

それでも、市営団地に暮らす高齢者に寄り添い、粘り強く、そして真摯に向き合い続けた監督は、

見事に映画『桜の樹の下』を完成させた。


やはり、執念の女だった。


私の初監督作品も難産だったが、『桜の樹の下』もなかなかの難産だった。

それが明日公開を迎え、作り手から作品が飛び立とうとする瞬間を思うと感無量である。


素直に、田中圭監督、おめでとう!と伝えたい気持ちでいっぱいだ。


公開に向けて、本当に多くの人にお世話になった。

何よりも撮影時から今日まで、監督の女房役であり、私にとっても大きな支えであった前田大和カメラマンには感謝してもしきれない。


そして、私の無茶振りに応えてくれた整音の川上拓也氏には、どう恩返しをしたら良いか分からない。

映画は音である。編集も音である。

いささか言いすぎの感もあるが、私は映画にとって音とは、それくらい重要だと常々思っている。

その大事な仕事を見事にやり遂げてくれた川上氏には頭が上がらない。


また、公開に向けて本当にお世話になった宣伝の佐々木瑠郁さんには、

お世話になりすぎて、もう何をどう感謝すれば良いのかさえ分からないでいる。

大袈裟ではなく、この作品は佐々木さんが居なければ公開は出来なかったと断言できる。

小柄で華奢な容姿とは裏腹に、本当に頼りになる心強い同志のように勝手に思っている。

宣伝活動において、ここまで全幅の信頼を寄せられたことは、私にとって本当に心強かったです。


映画は人に観て頂けることによって、やっと完成する。

監督が我が子のように育ててきた作品は、成長し巣立っていく瞬間でもある。

監督の手を離れ、観て頂いた方の作品になって欲しい。


そう願って、もうしばらく一人でお酒を飲みながら酔いつぶれて眠ってしまおうと思う。


一人でも多くの方に、映画『桜の樹の下』が届くことを夢見て。