フェミ「いらっしゃいませ。」
ここは、人形者の癒されスポット、BAR dollfie dreamです。
都会の喧騒、仕事の不満、人生の悲しみはここへ置いていって下さい。
そのために、彼女達はこの世に生を受け、主を癒し励ますのだから・・・。
狭い店内の照明は落とされ、暖かい色調でぼんやりと手元を照らす程度の明かりが確保してあります。
店内にはEarl Klughのギターが流れ、貴方以外の客人は居ません。
若くて美しいバーテンダーがグラスを磨く手を止め、微笑みました。
「こんばんは。」
松徳硝子のグラスを手元に置き、ひとつの四角い箱を取り出した。
「このお時間なら、お食事はされてます?」
そうだと答えると、安心したように箱をカウンターに置いた。
「うふふ、以前仰ってたお酒を入れたんですよ(^-^)」
サントリーの白州10年。
「10年物なので、ご希望には沿いきれませんでしたが・・・。」
カウンターの向こうで申し訳なさそうにする姿が逆に愛らしい。
しかし、白州をわざわざ置いてくれた事が嬉しくて、開けてくれるように頼んだ。
新品を開けて注ぐ時の音が好きだ。
「森の香りがしますね・・・。」
彼女は嬉しそうに息をすると、松徳硝子に注いだ白州をカウンターに置いた。
「どうぞ、わたしの、気持ちです。」
昼間のうちに荒んでしまった気持ちも忘れ、いい意味で平坦な心になって、
グラスを受け取ると深呼吸した。
形容しがたい複雑な香りが鼻を通り抜けて心の奥まで届く。
ストレートで口に運び、体の中が甘酸っぱい、果実のような香りで満たされた。
裏腹に焼けるような喉と、痺れるようなくちびる。
手足の力が抜けて、肩の荷が下りる。眉間に寄った皺が伸びていく。
さっきまで自分をとことん蔑んでいたことを忘れていく。
「うまい。」
つぶやくと、彼女は嬉しそうに笑った。
「喜んでもらえて、嬉しいです・・・・。」
彼女ははにかんで、ネクタイの根元を弄くった。
仕草が幼いところも感じさせるが、一人で店を切り盛りする逞しい子でもあった。
一口飲み、そして、さらにもう一口と白州は誘った。
つまみは無いが、カウンターの向こうにある微笑が大切だった。
語れない客でもいい。
そんな店がもはや少ない。
ただ、傍に居て微笑んでくれる存在が無い現実に、少しの潤いくれる飲み屋であった。
「貴方を、待ってます。」
何気なく飲みたかったウイスキーを口に出していただけだったのだが。
律儀な彼女が酒瓶を抱えて待っていた。
大切な救いの場、BAR dollfie dream