富士通研究所では、人と道路と自動車をICTでつなぎ、安全で走りやすく、地球環境にやさしい道路交通環境を実現するITS(高度道路交通システム)(注1
)の研究開発をおこなっています。その一環として開発している交通シミュレーターは、センサーシステムや通信システム、管制システム、車載システムなどからなる大規模なITSプロジェクトの効果や影響を事前評価する、重要な役割を担う技術です。今回、未来の道路交通の実現に向け、運転体験できる広域道路交通シミュレーターをご紹介します。
ITSの事前評価に欠かせない交通シミュレーター
新しいITSサービスの構築においては、そのサービスが有効であるかどうかを事前検証しておく必要があります。しかし、実際の路上での実験は安全性や費用の面で実施困難な場合が多く、そのため同等の環境を再現できる「交通シミュレーター」の利用が不可欠です。
従来の交通シミュレーターには、一都市のような広域の車両の流れや渋滞状況をマップ上で再現する「広域道路交通シミュレーター」と、人が仮想環境の中で車両の運転を体験できる「ドライビングシミュレーター」があります。しかし、前者は運転体験を伴わないため、運転のしやすさや提供情報のわかりやすさといったドライバーによる主観的な評価ができず、後者は主に決められた範囲を規定のシナリオに沿って運転するのみで、広域の自由な走行を評価できません。ITSサービスの効果や影響を十分に評価するには、これら2つのシミュレーターを組み合わせた、新しい交通シミュレーターが必要となります。
数万台の車両の中の1台として運転体験が可能
新しい交通シミュレーターの実現には、数万台にもおよぶ車両1台1台について、ドライバーによる経路選択などの意思決定や運転操作、車体の物理的な運動、車両間の相互作用などの計算が必要となり、計算量は膨大なものとなります。この計算をリアルタイムでおこなうことが、広域での運転体験を実現するための課題でした。
富士通研究所は、広域道路をエリアに分割して複数サーバで並列計算する技術を開発。これにより、膨大な数の車両の挙動をリアルタイムに再現し、その中の車両1台に仮想的に乗車して運転体験することを可能にしました。
並列計算の実現にあたっては、エリアの境界をまたがる車両の移動や、周囲の車両への影響なども正しくリアルタイム計算するとともに、車両1台当たりの計算負荷を軽減するために車両挙動計算モデルを階層化し、それぞれの計算量を最適化。これらにより、数万台規模の車両挙動のリアルタイム計算を可能にしました。
また、運転体験用の視界映像は、自車両周辺のエリアを担当する複数のサーバから毎秒最大60回の頻度で収集した車両挙動計算結果に基づいて、リアルタイムで生成されます。これにより、ドライバーはエリアの境界を意識することなく、広域道路での自由な運転を体験できます。
未来の道路交通へ
本技術のITSサービス評価への適用例として、東京・銀座の道路交通(約2km四方)を再現し、エコ運転支援サービスのシミュレーションを実施しました。具体的には、信号タイミング情報に基づき、赤信号にかからずに走行できる推奨速度をドライバーに通知する仮想的なサービスを試作し、運転体験により評価しました。その結果、通知方法やタイミングによって、運転のしやすさやCO2排出量の削減効果が大きく変わることがわかりました。こうした結果をサービスの設計段階でフィードバックすることにより、開発期間の短縮や、より良いサービスの提供につなげることができます。

今後、本技術を、交通状況センシングやテレマティクス(注2
)を用いた交通誘導などの様々なITSサービスの評価に適用し、サービスの具体化を支援します。また、シミュレーション範囲の広域化と、評価対象となるサービスの拡大を進め、都道府県やさらに広い地方規模を対象とした広域ITSサービスの検証への適用を目指します。
富士通研究所は、渋滞のない走りやすい道路交通の実現に向けて、ITS分野における「ものをつくらないものづくり」を支えていきます。
転載元 http://jp.fujitsu.com/about/journal/industry/technologies/201102.shtml