僕は残念ながら一度も見られていないのですが、NHKで「優木まおみの犬学」という番組がありました(5月2日午前11時30分~、第1回目がNHK教育で再放送されるようです)。
その中で、どうもいわゆる「リーダー論」が出てきたそうで、何人かの飼い主さんから「改めてリーダー論について、ちょっとブログに書いて欲しい」と言われました故、どうしても批判的にならざるを得ないんですが、もう大概言い尽くした感はあるんですが、ちょっと書いてみますです。
今書いてる「正しさ」とも、実はとっても関連のあるお話でもありますし。

まずは、「リーダー論」に対するギモンや批判から~。


1.なんで「祖先」が出てくるのか

いわゆる「リーダー論」の根拠となっているのは、「イヌの祖先はオオカミで、オオカミの群れにはリーダーがいて~」という説です。
でまあ、それが「だから飼い主であるヒトが、イヌのリーダーにならなきゃいけません」という話になります。
んが、しかし。
「イヌの祖先がオオカミ」だったとして、なぜ「イヌもリーダーを求める」ということになるのかはわかりません
イヌとオオカミが、同じ社会性を持つというのは誰が、いつ、どのようにして証明したんでしょうか

また、なぜ「オオカミ」で切るのか?という疑問もあります。
進化論的に考えれば、当然「オオカミ」にも祖先はいるわけです。
その祖先の祖先もいるわけです。
更に、その祖先の祖先の祖先の…と、いくらでも辿っていけるわけですね。
ところが、なぜか「オオカミ」で切る。
これは、なぜなんでしょうか。

そして、「動物の調教や訓練」という文脈において、「祖先」が出てくるのはイヌだけです。
これもまた、よくわかりません。


2.「群れにいないヒト」の言うこともよく聞く

プロのトレーナーに、しつけやトレーニング、訓練を依頼されたことのある方なら、大体経験があると思いますが、イヌはプロのトレーナーの言うことをよく聞きます。
というか、プロのトレーナーなら、大抵はどんなイヌであっても、「自分の言うことを聞くイヌに訓練する」ことはできるはずです(だから、プロなんだし)。
では、ここで問題。
その「トレーナー」は、そのイヌが属しているはずの群れの中にいるんでしょうか?

預かり訓練で、仮に「寝食をともにしている」とかならまだしも、一般的にトレーナーとイヌは、多くても週に数回程度しか会わないでしょう。
場合によっては、月に数回程度しか会わないこともあります。
実際、僕も月に1回か2回ぐらいしか会わない子もいます。

リーダー論の根拠は、1.にも書いたように「群れにはリーダーがいて」というものです。
ところが、トレーナーはその「群れ」にはいません
つまり、「イヌが従う/従わない」ということに、「群れ」は関係ないということになります。
しかし、そもそもの「リーダー論の根拠」は、その「群れ」です。
「リーダー論の屋台骨」ともいえる「群れ」が、実は関係ないとはどういうことなんでしょう?


3.お約束を無視しても言うことをよく聞く

「リーダー論」の中には、「イヌとの生活のお約束」が結構あります。
ざっと挙げてみますと…

 「一緒に寝てはいけない」
 「ソファやベッドにあげてはいけない」
 「人間より先に食事を与えてはいけない」
 「無闇に抱っこしてはいけない」
 「ドアや公園などの出入りで先に行かせてはいけない」
 「オモチャは必ず飼い主が最後に取る」
 「イヌを過度に注目してはいけない」

一般的にはこんな感じでしょうか?
他にも実際に見たことがある中で、僕が爆笑したものとしては…

 「イヌからキスをしてくるのはいいが、飼い主からキスをするとイヌが偉くなる」
 「コマンドは命令形でなくてはいけない」(オスワリはダメでスワレならよい)

ああ、あとはあれですね。
「訓練で食べ物を使うのはご法度」
これもありますかね。

で。
こういったお約束をすべて無視しても、「飼い主の言うことをよく聞くイヌ」は、山ほどいます
まず、僕が見ている子達は全員そうです。

つまり、こうした「お約束」は、「関係ない」ということになります。


4.方法論的なギモン

たとえばこんな光景、見たことないでしょうか?


Q.散歩中の引っ張り癖について

うちのイヌは、散歩中すごく引っ張ります。
とても大変です。
どうすればなおりますか?

A.イヌがリーダーになっています

イヌが飼い主を引っ張って歩くのは、イヌがリーダーになっている証拠です。
飼い主さんがリーダーであることを教える必要があります。
具体的には、「一緒に寝ない」「食事は後で与える」「無闇に抱かない」など、生活を改めてください。

また、ホールドスチール(ホールドスティール、ホールディングとも)や、マズルコントロールも飼い主がリーダーと示すのに有効です。
やり方は…

(中略)

引っ張り癖には、「リーダーウォーク」がとても有効です。
イヌが前に出たらUターンをして、側にきたときにしっかりと褒めてあげます。
そうすれば、「引っ張っても前に進めない」「飼い主の側を歩くといいことがある」ということを学習し、じきに引っ張らなくなります。


「引っ張り癖をなおす」のに必要なのは、最後の3行だけであることに注目。
なんなんでしょうねこれは。



ひとまずは、一旦ここまで。
そんなわけで続きますー。