こないだの知人 とは、また別の知人から聞いたお話です。


知人の同僚の方が、仕事でミスをしてしまいました。
そのミスの内容というのは、「本来、まだ始業していない時間に、お客様のアポを入れてしまった」ということ。
この会社は、平日11時始業、休・祝日は9時始業と、それぞれで始業時間が2時間変わるんですね。
その同僚の方は、何故か平日に10時からのアポを入れてしまったと。
平日は11時始業ですから、お客様が来られても会社は動いていません。
そのことに当日の朝になって上司が気づき、こっぴどく叱られ、非常に慌てたと。

この時、上司の方は「仕事に対する意識が低いから、こんなミスをしてしまうのだ。もっと意識を高くもって、仕事に取り組んでもらいたい」というお話をされたそうです。

では、僕なりに勝手にこの問題について色々と分析してみましょう。


よく言われることに「人間は、誰しもミスをする」というのがあります。
どれだけ注意を払っていても、ミスは出てしまいます
現に、この同僚の方は「自分で何度も確認したんだけれど、見落としてしまっていた」とおっしゃっていたそうです。
各個人が「気をつけて」いても、どうしてもミスは出るんですね。
ですから、ミスを「個人の問題」としてしまうのでは、改善はなかなかされないんです。
そこで、そのミスをカバーするための、システムが必要になります。
それが「組織」です。

しかし、このお話では、その「組織」が機能していなかったように思います。

当日の朝になって、上司の方が「始業時間前に、アポが入っていることに気づいた」わけですから、おそらく「何時からアポが入っているのか?」を、職場の誰もが見られるようなシステムがあるんでしょう。
しかし、この上司の方も、当日の朝になるまで「気づけなかった」わけです。
アポを入れたその時に、「その時間に入れちゃダメじゃないか」と一言注意すれば、このトラブルは未然に防げたのに、それができなかったわけです。
上司の方の言葉を借りれば、この上司自身も「部下のミスに気づく意識が低かった」ということになりますね。
自分が言ったことが、そのまま自分に返ってくる、まさにブーメラン。

でも、これはちょっと意地悪な感じですね。
別に、この上司の方をいじめたいわけではありません。

ここで言いたいことは何か?というと、「意識の高い低いで考えても、ミスは防げない」ということです。
もしもそれで防げるのなら、上司は「部下のミス」に「気づかないといけない」ということになります。
でも、「意識を高く持て」と言った上司でさえ、気づけなかったわけですから、これは最早「意識の高い、低い」という問題、すなわち「個人の問題」ではないわけですね。
ところが、この上司の方は「意識を高く持て」と、「個人の問題」にしてしまいました。
これでは、きっと解決には繋がらず、またいずれどこかで、同じようなミスを誰かがしてしまうのではないでしょうか。
そして、この上司の方は、その度に「意識を高く持て」と言うだけなのでしょうか。
そのアドバイスは、自分自身にもブーメランのように返ってくることも知らずに。

そこで、大事なのは「システム=組織」になります。

このトラブルの要因は、いくつかに分けられます。

 ・始業時間前にアポを入れてしまった
 ・始業時間前のアポに、当日まで誰も気づかなかった
 ・この問題を「意識の問題」=「個人の問題」としてしまった


では、どうすれば解決できるんでしょうか?

先ほどの「アポが入っている時間を、誰もが見られるシステム」が、使えそうです。

そのシステムがどんな形状の物なのかはわかりませんが、たとえば「始業時間」に赤いラインが引かれていたらどうでしょう?
平日は11時に赤いラインが引いてあり、休・祝日は9時に赤いラインが引いてあるわけです。
つまり、その線より上側(もしくは下?あるいは左右?)にアポを入れたら、見ただけで「始業時間前にアポが入っている」ことに気づきます
あるいは、そもそも始業時間前の時間は、黒とか赤とかで塗りつぶされていてもいいかもしれません。
そうすれば、そんな時間にアポを入れても書き込めませんから、すぐに気づくことができますね。

もしもパソコンで時間管理をしているのなら、「始業時間前にアポを入れる」という作業をしたら、「始業時間前です。アポイントを入れますか? YES/NO」というダイアログが出るようなプログラムを組むのも、良い方法かもしれません。

あるいは、個人の自助努力として、自分が使っている手帳にラインを引いておくのもアリでしょうね。
会社のシステムをいじることができないらしいので、「手帳にラインを引いてみたら?」と、アドバイスしておきました。
「それは良い」と、早速取り入れてくださったそうです。


行動分析は、「行動」を「環境との相互の関わりの中で決定される」という立場を取ります。
一般的には「意識の問題」とか、「やる気の問題」という風に語られることが多いですが、それではなかなか解決しません
そこで、「環境に原因がある」とする立場を取るわけです。
そうすれば、こういうアイディアも出てくると。※1

アイディア自体は大したことありません。
ただ「ラインを引いたらどう?」というだけですから。
でも、そのアイディアは「個人の意識や能力、やる気」ではなく、「環境、組織、システム」に目を向けることで、具体的に考えることができるわけです。

最近は「見える化」とか、「視覚支援」なんていうことがよく言われるようになっていますが、それはつまりこういうことなんでしょうね。

行動分析は、こういうところにも使えるんですよーというお話でした。




※1
僕がしょっちゅう言う「飼い主に責任はない」という考えも、この「行動分析の哲学」から来ています。
しつけがうまくいかなかったりするのを、「飼い主の意識が低い」としても、なんの解決にもならんわけです。
だからこそ、主従関係だの信頼関係だのという、「飼い主が頑張れ」てなアドバイスは云々。