前回のエントリ では、「愛犬と主従関係(信頼関係)を築きましょう」というアドバイスが、実は非常にトートロジー(同語反復)的であり、少し考えてみると「しつけや問題行動の改善にあまり役に立たない」か、下手をすると「まったく役に立たない」ということについて書きました。※1
そして、エントリの最後に「何故にTaKaYaMaはそこまでこれらの言葉にこだわるのか?別に人それぞれの考え方、やり方でいいじゃないか」という疑問を投げかけたところで、次回へ続くとしました。
もし、まだお読みでない方は、前回のエントリを読んだ上で、このエントリをお読みくださいませ。
またもやものすごく長くなってしまいましたが、これまた最後まで読んでいただけると嬉しいです。


まず、前回のエントリを読んでいただければわかるように、「主従関係」や「信頼関係」、あるいは「リーダーシップ」なんていうのは、ただの「言葉」です。
ただの「言葉」ということは、「何か」を表現したものになります。

たとえば、「4本足があって、その足の上に大きめの板が乗っていて、その上に何か物を置いたりすることができるもの」を、私たちは「机」とか「テーブル」なんていう「言葉」で、表現するわけですね。
あるいは、「4本足で、全身に毛が生えていて、『ワン!ワン!』と鳴く動物」のことを、「イヌ」という「言葉」で表現するわけです。
つまり、「主従関係」や「信頼関係」、「リーダーシップ」という言葉も、このように「何か」を表現しているということになります。

ただ、それが「具体的には何なのか?」が、いまいちはっきりとしません
どうも、人によって違いがあるようです。
何故こんな「違い」があるのかというと、それは「はっきりと目に見えるもの」ではないからです。
↑に挙げた「机」や「イヌ」のように、「はっきりと目に見えるもの」であれば、人によって中身が違うということはまずありません。
目の前に持ってきて「これが机です」とか、「これがイヌです」と見せれば終わりですから。
しかし、「主従関係」「信頼関係」なんてものは、持ってくることができません。
だから、人によって中身が違うし、前回のエントリで書いたように「一見、何かを説明しているように見えて、実は何も説明していないトートロジー(同語反復)」になってしまうわけですね。
この「トートロジー(同語反復)的な説明」は、一瞬「なるほど、そうか」と納得してしまいそうになります。
なりますが、「実は何も説明していない」ので、まったく意味がありません

しかし、「何か」を表現した「言葉」であることは、きっと間違いありません。

「だったら、別にいいじゃないか。結局は、その『何か』をどういう言葉で説明するか?って差だけでしょう?そんな細かい言葉の意味とか、こだわらなくてもいいんじゃない?」

こんな意見もあるかもしれません。
でも僕は、そうではないと考えます。

ドッグトレーナーという仕事は、お金を頂戴して、飼い主さんに専門的な知識や技術を伝える、いわば「専門職」です。
そして、どうやって伝えるか?といえば、その多くは「言葉」でもって伝えます。
中には、「ひたすら私の真似をしなさい」と言うだけで、言葉では何も説明せずに、延々と真似をさせるだけというやり方の人もいるかもしれませんが、そういう人はごく少数か、まずいないでしょう。
となると、この「言葉」というのは、実は一番大事にしなくてはいけない道具です。
飼い主さんが「いや、そんな細かいところまではいいわ」とおっしゃるのは何の問題もないと思います。
ですが、プロのトレーナーは別です。
このブログは、「これからトレーナーになりたい」という人や、「トレーナーになりたて」という方もご覧になっているようなので、是非覚えておいていただきたいと思います。
言葉っていうのは、すごく大事です。
もしもプロのトレーナーとしてやっていくなら「細かい意味とかどうでもいいじゃん」とは、言ってはいけません。
言葉っていうのは、トレーナーが仕事をする上で、一番大事な「道具」ですから。
自分が使う道具をきちんと管理できない人は、プロではありませんね。

そして、これからのエントリは、この「言葉」にまつわるエトセトラな感じのお話でもあります。


「プロのトレーナーに依頼しよう」と飼い主さんがなる場合、「何か困ったことがあって、依頼する」ということがほとんどだと思います。
「しつけは、将来困らないようにするためにやるもの」だとは思うのですが、現実は「今、ちょっと困っていることがあって…」とか、「ものすごく困っていることがあって、それを解決したい」から、プロに依頼されるんですね。

 「子犬の甘噛みにちょっと困ってる」
 「トイレのしつけがうまくいかなくて困ってる」
 「全然落ち着きがなくて困ってる」
 「すごく吠えるので困ってる」
 「同居犬と仲が悪くて困ってる」
 「本気で噛まれるので困ってる」などなど

プロのトレーナーに依頼するということは、「ちょっと困ってるんで、なんとかしてもらえないでしょうか?」あるいは、「なんとかする方法を教えてもらえないでしょうか?」ということになるわけです。
中には「いや、困っていることは特にない。ダンスやフリスビーやアジリティーを教えたい」という方もいらっしゃると思いますが、そういう方であっても、見方を変えれば「教え方がわからなくて、困ってる」とも言えます。

以前のエントリ 「問題行動をどう捉えるか」に書いた「『行動を修正する』ことを考え、それが飼い主さんだけでは困難になったときに、トレーナーの出番となる」ということですね。

これを、「飼い主と犬との関係性」という点から視ると、こういう風に考えることができます。


プロのトレーナーに依頼するということは、飼い主が「飼い主⇔犬」という
「閉じられた関係性」の中で対応できなくなっているので、
外からのサポートを要求するという行動である。



もうちょっと噛み砕いて言うならば、「飼い主さんだけではにっちもさっちもいかないので、誰か手伝ってもらえませんかねぇ?というヘルプを出してる」ってことです。

こう考えるとですね、プロのトレーナーの仕事っていうのは、「飼い主さんからのヘルプのサインを受け取り、そこをなんとかサポートするお仕事」ということになります。
つまり…


ドッグトレーナーのお仕事とは?

「飼い主さんが、犬をしつけるのをサポートする、支える仕事」


こういう風に言って良いと思います。※2

「飼い主を教える」「飼い主をトレーニングする」という考えもあろうかとは思うのですが、僕は「教える」でもなく「トレーニングする」でもなく、「サポートする」「支える」だと考えています。

ここまでは、良いでしょうか?

では、この視点から「主従関係(信頼関係)を築きましょう」というアドバイス(言葉)をすることは、果たしてどうなんや?ということを考えてみましょう。


てなわけで、また次回に。





※1
何度も言ってることですが、そもそも「主従関係を築く」というアドバイスの基になっていると考えられる、いわゆる「リーダー論」とか「パック(群れ)理論」には根拠がありませんし、矛盾も多いです。
もしも「リーダー論」が確かなものなら、「ボスになりなさい」という意味であったはずの「主従関係を築く」というアドバイスが、いつの間にか「信頼されるリーダーになる」→「リーダーシップを取って、犬から信頼される飼い主になる」→「犬と信頼関係を築く」という風に、ころころと変わるはずもないでしょう。
結局は、「リーダーになっているって考えたら、割とすんなりつじつまがあう」程度のもので、「後づけの解釈」でしかないということです。
「後づけの解釈」でしかないので、ころころと変えてもつじつまを合わせることができるわけです。



※2
いわゆる「家庭犬のしつけ・問題行動の改善」を生業とするドッグトレーナーという職業についての話です。
警察犬や盲導犬といった「使役犬」の訓練士は、その仕事だけで生計を立てているのであれば、この範疇には入らないかと思います。