「犬のしつけ」を語るときに、かなりの割合で「犬の祖先はオオカミ」という話が出ます。

「犬の祖先がオオカミであるか否か」というのは、学者さんの間でも意見が分かれていたようですが、どうやら「オオカミである」ということで、今のところ決着を見ている模様です。※1

で、「犬の祖先がオオカミだったとして、それがどの程度しつけに意味を持つか?」という疑問があります。

「オオカミの性質を、犬は受け継いでいます」ということは、よく言われる(ように思う)ことですね。
でも、「じゃあ、どの程度受け継いでいるの?」という疑問が次に出てきます。
で、この疑問は多分「専門家によって、意見が分かれます」という見解になると予想されます。

仮に「かなりの割合で受け継いでいる」としましょう。
「かなりの割合」が、どの程度の割合なのかは別に問題ではないので、ご想像にお任せします。
まあ、とりあえず「ものすごく受け継いでいるんだなぁ」でいいです。

「性質を受け継いでいる」という表現は、イコール「行動様式が似通っている」ということになります。
つまり、「似た行動をすることが多い」ということですね。
だから「オオカミのことを調べる」てな具合になるんだとは思うんです。

思うんですが。
いくら「オオカミに似た行動をしている」としても、それは「今、目の前にいるこの犬がしている行動」であって、「祖先のオオカミがしている行動」ではありません
そうなると、「オオカミと犬の連続性」を調べるというのは、学術的には大きな意味があるのだろうとは思うのですが、「しつけ」ってなるとどんな意味があるのかよくわかりません。
だって、違う人がやってる行動なんですもの。

「犬をしつける、しつけをする」というのは、「その犬の行動を変える」ということに他なりません。
そして「今、目の前で起こっている行動」は、「その個体が置かれている環境との相互の関わりの中で決定される」という立場を取らないと、「行動を変える」ということが難しくなります。

たとえば「○○という行動をするのは、祖先のオオカミの性質を受け継いでいるからです」と言われても、「はあ、そうですか」で終わります。
「しつけをする」のなら、「じゃあ、どうしたらその『オオカミの性質を受け継いでいる行動』を、変えることができるのか?」を、考えないといけません。
でないと、まったく意味がないですから。
そこで、「この行動は、こういうメリットがあるから、何度もやっているんだ」という風に考えるわけです。
そのように考えれば、「メリットを取り除けば、その行動はなくなるだろうな」ってことを思いつきますし、あるいは「そのメリットを、別の適切な行動で得られるようにしていけば良いな」ってことを思いつけます。

これが「環境との相互の関わりの中で、行動派決定されるという立場を取る」ってことです。
そして、この一連の流れに「オオカミの性質」というのは、まるで関係ありません。

こうなるとですね、オオカミのことをどれだけ知ったとしても、それほど大きな意味があるとは思えないんですよね。

大体、「子供をしつけよう」ってときに、両親とか祖父母とか曽祖父母とかのことを、いちいち調べたりしますかね。
まあ、まだ「両親とおじいちゃんおばあちゃん」ぐらいなら、わからなくもないかなぁと思います。
でも、「祖先」ですからね。
何代も前とかそんなレベルじゃないですからね。

両親とか祖父母とかのことを調べる時間があったら、目の前の子供のことをよく知っていった方がいいと思います。
そして、この「目の前の子供のことをよく知っていく」というのは、「この子は、どんな時に、どんな行動をするのかを、調べる」です
その行動を「確かにお父さん似だわ」とか、「ひいおばあちゃんも、こういうところがあったわ。よく似てる」ってわかったところで、その子のしつけにどんだけ役に立つのかなぁと思うんですよね。
「似てる」としても、「違う人」ですからね。
生きた時代も、環境も、何もかもが違うんですよね。※2

今、この環境で、どんな時にどんな行動をするのか?

これが、もっとも知るべきことなんだと思うわけです。※3 ※4


別に祖先がオオカミだろうがジャッカルだろうがコヨーテだろうが他のイヌ科の動物だろうが、「目の前のこの子」のことを、きちんと知っていくことが大事だよなぁというお話でした。



※1
元論文に当たったわけではないので、どの程度確かなのかはある程度線を引いて解釈してください。


※2
たとえば誰かの祖先が豊臣秀吉だったとして、しつけ方が変わるのかしら?とか。
あるいは、誰かの祖先に違う国の人が入ってるとして、しつけ方が変わるのかしら?とか。


※3
これは、いわゆる「犬種特性」にも言えることですね。
僕はよく言うんですが、「図鑑に載っている犬」と、「あなたの目の前にいる犬」は、違う犬です。
図鑑に載っている犬は、あくまで「平均の犬」ですから。


※4
オオカミや犬種特性を「知ろうとすること」そのものを否定するわけではありません。
本文中にも書いていますが、「しつけをする」ということに、どれほど役に立つのか?という疑問です。




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