日本では畳の部屋にちゃぶ台を出して、おひつからホカホカのご飯をよそって、焼き魚、お味噌汁、おしんこ。今日一日の話をしながら楽しむ夕食。不機嫌なお父さんがちゃぶ台をひっくり返すことも多々…。なんてありませんが。イタリアの普段の食卓ってどうなんでしょ?
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私がイタリアに住んでいた頃は、一人暮らしをずっとしていたので、
イタリアの家族の食卓に関しては、何も知りません。
おしまい。
と言うわけにはいきませんね(笑)
そんな一人暮らしの私でしたが、
お隣に住んでいたアパートの大家さんにはいつも大変お世話になっていて、
同じぐらいの年齢の娘たちもいたので、私も本当の息子のように慕ってくれていました。
「今日パパがドルチェ作るって言ってるから、夕飯食べにいらっしゃい。」
そんなありがたいお誘いが月に2~3回はありました。
だいたい食べ始めるのは7時ぐらいからだったでしょうか。
特別なパーティーとか、食事会とかでもないので、
まったくもって「フツーの食卓」に呼ばれるわけです。
特におめかしするでもなく手に付いた絵の具をきれいにおとしてから、
ワインを一本持ってそれではおよばれに向かうことにしましょう。
と言ってもドアを出たらすぐ隣の家なんですけどね。
ピンポ~ン
チャイムを押すと愛犬のフォックステリアがけたたましく吠えます。
シッポは模型飛行機のプロペラのように高速回転です。
まぁ、私としては一応「およばれ」なんで、
若干の緊張感(?)をもって食卓に招き入れられるわけですけど、
あちらの家族はいたってフツー。
そらそうですよね、だってフツーの夕食なんだから。
とにかくいつも座らせてもらっている席に着くと、
特に盛大でもなくシンプルに夕食が始まります。
「イタリア人の夕食だから、さぞかしたくさん盛大に食べるんでしょう」
という皆様のご期待は、ことごとく裏切られます(笑)
まずは生ハムや温野菜などの前菜…ではなく、大きなボールに無造作に作られたパスタ。
これがテーブルに運ばれてくるので、みんなで順番に回してお皿に盛ってゆきます。
全員が注目している中で自分のお皿に盛るんです。
配分が難しいです…。
この後何人いて、一人どれくらい食べるんだろう…?
その前にこれって全員分?
でもここでたくさん取らなければ「美味くなさそう」と思っていると思われるかも?
なんて考えながらほぼ無意識のうちに(笑)、自分のお皿に「それなりの量」を盛り付けて、
隣の席に回します。
そんな全員大注目の「取り分けショー」が無事に終わったところで、
さぁ、いただきますですね。
といっても「乾杯」とかはありません。
敬虔なクリスチャンの家族だとまずお祈りを始めるんでしょうけど、
そういうのもない場合がたくさんありました。
ここで日本人の私の発する「いただきます」という言葉に、
ますます食べ始める時間が遅くなるレクチャーも始まったりします。
さぁ、パスタがノビデンテにならないうちに食べちゃいましょう。
パスタは日本の家庭では考えられないぐらい美味いです。
フツーの夕食ですが、フツーに日本のレストランで出てきてもおかしくないレベルです。
で、次はオーブンに入れておいたローストチキンが出来上がったので、
お手製のローズマリーオイルをかけていただき…ません。
フツーの日にそんなもんは食べません。
「サラダ」です。
ルッコラやその他のグリーンサラダがミックスになったものが、
これまた大きなボールでまわってきますので、
またまた同じような自問自答を繰り返しつつお皿に盛って、
オリーブオイルと信じられないぐらいすっぱいワインビネガーをかけてモサモサ食べます。
食事中もちろんBGMなんてありませんし、
ダイニングにテレビがあるわけでもないので、
それぞれが好きなことしゃべってます。
私が招かれたときは基本的に私に質問ばっかり来るので、
およばれが始まった当初は「まったく食べた気がしなかった」ぐらいです。
それはそうですよね、はじめはイタリア語なんてほとんどできなかったんだから。
なんていっているうちにそろそろみんなが食べ終わったころに、
「私友達とディスコに行くからじゃ~ね~」
といって軽いキッスを頬に残して長女が出て行きます。
しばらくしてピンポ~ンと次女の彼氏が迎えに来て、
スクーターにブイブイーッと乗って次女も夜の街に繰り出して行きます。
食卓に残されたのは、大家さん夫婦と私の3人。
「…(涙)」←私
とりあえず、パスタと一緒に出てきたパンとかをモソモソ食べながら、
サラダを食べて一応「お食事の部」はおしまいです。
「もっとワイン飲むかい?」
そんな会話をしていると果物がどさっとテーブルに置かれます。
りんご、オレンジ、ぶどう、洋ナシ。
面白いのはここからですかね、日本と大いに違う部分。
そうしてテーブルに置かれたフルーツをおのおのが好きに取って、
自分のテーブルナイフでお皿の上でザクザク切って食べるんです。
「うさぎの形のりんご」とか、一切ありません。
これは、本当に慣れるまで時間がかかりました。
いかんせんテーブルナイフでフルーツを切るという離れ業が、
なかなかできませんでした。
よく考えてみたら、イタリア人ってまな板使わないんですよね。
野菜は器用に持ったナイフでザクザク空中で切って鍋に入れていく感じで。
そんなこんなでりんごや洋ナシは、手がビチョビチョになりながら私は食べるんです(笑)
「それなら無難にぶどうに逃げればいいじゃないか」
と思われるでしょうけど、イタリア人のぶどうの食べ方もすごい。
だって「種は出さずにガリガリ食べる」んですから。
お上品に皮も種も口から出していたら、みんなに笑われちゃいます。
たぶん「お味噌汁からお豆腐を出しながら食べる」のと同じぐらいの感覚なんでしょう。
いや、それは言い過ぎかもしれませんけど。
「じゃ、私たちはテレビでも観るわ」
ご夫婦仲良くリビングに行くので、
まぁ仕方なく私もついて行くと、
政治家なんかのテレビ討論をやっています。
ご夫婦は仲良く肩を組んでソファーに。
私ははっきり言って居場所が無いわけです。。
なかなか「そろそろ帰りますね」という一言を言うタイミングがつかめないまま、
夫婦のどちらかがトイレに立つ時を見計らって、
「じゃぁ、ご馳走様でした。今日は楽しかったです。」
と言ったら、
「あんなフツーの夕食でも、君はいつも楽しかったって、いいヤツだよね~!」
だって。
家に帰ってからもしばらく「なぜ今日呼ばれたのか」がわからないまま、
私もフツーに「パパが作ったドルチェはっ!?」と思いつつ眠り始めるのでした。
ちなみにこの夕食は大体平日で、
それでも娘たちはいつも夜の街に繰り出していました。