朝食ビジネス~秘かにブーム~ | Meta☆。lic2ch

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・終日提供の人気専門店続々

・縮小続く外食チェーンも拡充


 少子高齢化やコンビニエンスストアの台頭で需要減少に苦しむ外食産業が、数年前から朝食時間帯の集客増を狙い、同時間帯への新規参入や新メニュー開発など、モーニング需要獲得に力を入れている。また、「朝食」を売りにする飲食店も増えており、外食業界では朝食ビジネスが熱気を帯びている。

 日本マクドナルドホールディングスの原田泳幸会長兼社長(当時)は、今年1月半ばの会見で、朝食メニュー「朝マック」を強化し、300円の新しい低料金メニューを増やす計画であると発表した。その上で「昨年比約6倍の広告宣伝費を投入して周知を徹底、朝食時間帯の売り上げを10%以上伸ばす」と語った。この“6倍”という数字に多くの広告関係者が「“6割増し”の言い間違えではないか」と驚いたのだが、ともかく同社の朝食強化戦略が明らかになった。同社はその戦略の一環で、月曜朝(9時まで)にバリューセットを注文すると、週替わりでガムや絆創膏、文房具などのグッズがもらえるキャンペーンを展開している。

 これに対し、「モスバーガー」を展開するモスフードサービスがマクドナルドに対抗するかたちで、「おはよう朝モス」を開始したのは2009年10月。同社では今年初めは約400店だった朝食メニューの提供店舗を、年内に約1400店へ拡大するとしている。すかいらーくは「ガスト」で、年金生活の高齢者を対象に、トーストやピザと飲み物などを組み合わせた300~400円の低価格セットを販売中だ。

 一方、朝食利用者の多いカフェやサンドイッチチェーンも対抗策を練っている。プロントコーポレーションは男性サラリーマンを対象に、5月からフレンチトースト風のパンにカツを挟んだ「朝カツ」(230円)の販売を開始。サブウェイは低カロリーメニューで差別化を図るべく、食物繊維が豊富な小麦ブランを使用したパンに野菜を挟んだセット(290円)を投入した。

 外食産業の朝食といえば、昔から喫茶店、牛丼チェーン、ファストフードが定番だった。特に牛丼チェーンの朝食は400円程度で生卵や納豆、漬物、味付け海苔など栄養価的にも十分で、満足度の高いものだった。また、名古屋地方の喫茶店ではもともと、朝はコーヒーに追加料金なしでトーストや茹で卵を付けたり、朝限定の低価格メニューを出したりするモーニングサービスがあり、メディアで紹介されるにつれ、そのサービスが他の地域にも波及していった。

 朝食を提供する業態ジャンルも今では居酒屋、ラーメン店、タイ料理店など広がりを見せつつあり、朝食スタイルの多様化とともに、朝食ビジネスは多彩に進化している。例えば、「朝カレー」を提供する飲食店も増えていて、朝からカレーを食べる習慣など、一昔前の日本にはなかったものだ。



●朝以外も「朝食」、人気専門店も登場

 そしてここ数年、「朝食」を朝以外に食べるという動きが広がるのに加え、人気の朝食専門店も続々と増えてきている。「朝というリアルな時間」ではなく、「朝という時間が持っている価値」を前面に出すということだ。

 その先駆けとなったのは、鎌倉の七里ケ浜に08年3月オープンした「bills(ビルズ)」だろう。もともとオーストラリアのシドニー発祥のレストランだが、この店の売りは「世界一の朝食」だ。「スクランブルエッグ」や「リコッタパンケーキ」など、朝食の王道メニューを一日中提供している。もちろん、それ以外のメニューもあるが、来店客のほとんどが、ランチタイムでも午後でも、そのスクランブルエッグやパンケーキを注文している。

 ちなみに、スクランブルエッグは1200円、リコッタパンケーキは1400円と決して安くはないが、オープン以来の人気で、横浜赤レンガ倉庫に2号店、東京・お台場に3号店、東京・表参道に4号店を出店している。

 次に、10年3月、東京・原宿にオープンした「Eggs’n Things(エッグスンシングス)」も人気だ。店のコンセプトはズバリ「All day Breakfast」。Webサイトにも「朝に限らず、昼でも夜でも美味しくてボリューム感のあるブレックファーストメニューを楽しんでいただけます」とある。ハワイにある超人気店で、オムレツやハムエッグなどの豊富な卵料理のほか、パンケーキやクレープなどがメニューの柱になっている。現在は、横浜山下公園店と湘南江の島店もあり、今年6月には大阪・心斎橋にも出店した。

 朝食は和食や洋食ばかりではない。今年5月に東京・外苑前にオープンした「WORLD BREAKFAST ALLDAY(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)」のコンセプトは、「朝ごはんを通して世界を知る」である。メニューは2カ月ごとに変わるシステムとなっており、5月はヨルダン、7月のメキシコに続き、9月と10月はベトナムの伝統的な朝食を提供している。伝統的な朝食には、その土地の歴史や文化、栄養、そして生きるヒントが凝縮しているという。ちなみに、ベトナムは長く支配されていた中国文化の影響を強く受けているが、近代において植民地支配されていたフランス文化も都市部では色濃く見られる。そんなベトナムの伝統的な朝食は「ブン・ボー・サオ」。炒めた牛肉を絡めた丸麺ということだが、朝食ということでどんな味付けになっているのか気になるところではある。

 飲食店コンサルティング会社・FBAの石田義昭社長が成功例として挙げたのは、東京・千駄ヶ谷の「GOOD MORNING CAFE(グッドモーニングカフェ)」だ。ここは「朝一生活」という東京の朝型ライフスタイルを提案している。メニューは朝昼晩で変わるが、「朝」を前面に出したコンセプトが受けて、現在は池袋と中野にも店舗がある。



●市場縮小続く外食産業は、新規需要の取り込み図る

 では、なぜ今「朝食」なのか?

 まず、農水省の外郭団体「食の安全・安心財団」が毎年発表している外食産業の市場規模動向を見てみると、1997年の約29兆円をピークに年々減少し、11年には23兆475億円にまで落ち込んでいる。外食産業の市場規模縮小だ。なお、この統計における「外食」には、「国内線機内食等」「宿泊施設」「集団給食(学校・事業所・病院・保育所)」「バー・キャバレー・ナイトクラブ」が含まれており、これらを除いた市場こそメディアがふだん注目している外食産業であり、言い方を変えれば「レジャー産業としての外食」だ。

 その市場規模の推移を見てみると、ピークはやはり1997年で、16兆7500億円。2004年の14兆6500億円まで下降し、08年まで4年連続増加した後、リーマンショック後は再び減少に転じている。11年は前年からマイナス1.9%の14兆5600億円となっている。

 前出の石田氏は、外食産業は新しいマーケットの開拓に迫られていると次のように解説する。

「例えば、居酒屋はもともと中年男性がお酒を飲む場所でした。それを女性だけでも入ることができる店に変えることで、市場規模が拡大しました。しかし、今はまた若い男性のアルコール離れが顕著となっています。このように外食産業は人口動態やトレンドなどで常に変革を迫られますが、レジャー産業としての外食は、少子高齢化の影響で市場全体が縮小しています。今後も劇的な回復は望めません。朝食重視も、そんな中から出てきた戦略です」

 社会全体の“朝型化”も、朝食ビジネスに拍車をかけている。

 伊藤忠商事は今月から、夜8時以降の残業を原則禁止にして、その代わりに午前5~9時の時間外手当の割増率を引き上げる制度を導入した。残業を夜から朝に切り替えようというわけだ。さすがにこういう働き方を制度化している会社は少ないが、省エネ推進の観点から残業削減を打ち出している会社は増えている。そして、日本人の“早起き化”も、じわじわ進んでいる。総務省が5年おきに発表している「社会生活基本調査」によれば、日本人の平均起床時刻は01年が6時42分で、それが06年には6時39分となり、11年には6時37分となった。

 朝食時間帯の充実化には、このほかにもいくつか理由がある。まず、大手チェーン店は駅前や繁華街などで、ほとんどがテナントとして営業しているが、稼働率の問題だ。

「繁華街は一般的に家賃が高いです。営業してもしなくても、24時間分の家賃は取られている。売り上げがなかなか伸びない時代にあっては、朝の時間帯に店を閉めているのはもったいないわけです。経営的にいえば、家賃比率の理想は売り上げに対して7~8%。たとえ客単価が低くても、家賃分くらいは朝の時間帯で稼ごうという考え方ですね。また、大手で上場しているところは、株主に対して売り上げアップのための方策を提示しなければなりません。朝食時間帯のサービス充実化は、その1つでもあります」(石田氏)

 一方で、石田氏は朝食ビジネスが外食産業全体のトレンドとして扱われるのは、やや違和感があるとも語る。外食産業は、ほとんどが中小や個人経営の飲食店であるため、売り上げ全体に占める大手の比率は20%程度だからだ。

「個人の店がどこまで朝食に魅力を感じているかといえば、『採算が合わないよ』というところが多いです。実際、参入してもやめたところもある。例えば、埼玉を中心に居酒屋『いちげん』を展開している一源は、もともと24時間営業なので朝食も提供してみたところ、人件費も出ないのがわかったといいます。朝食をとって会社に行くという生活習慣を考えた場合、朝食ビジネスに甘みがあるのは大商圏のある都市部ですね」(石田氏)

 もう10年以上前になるが、アサヒ飲料は「ワンダ モーニングショット」という赤い缶コーヒーを発売して大ヒットさせ、今では定番となった。「朝専用」というキャッチフレーズのために、時間帯を限定した狭い商品になる恐れもあったが、結果は逆だった。朝の持つイメージや「価値」を上手に活用した外食産業の新しい展開は、まだまだ続くのかもしれない。(Business Journal:横山渉/ジャーナリスト)