今月発売の文芸誌を読んで、新年早々、驚かされることが三つあった。
第一に、『文藝』に一挙掲載された中原清一郎の長編「カノン」。聞き慣れない作家の名前だが、これは表紙にも謳(うた)ってあるように、一九七六 年に『北帰行』で鮮烈なデビューを飾りながらも、その後新聞記者として活躍し、作家としての筆を折ったかと思われていた外岡秀俊のペンネームである。
外岡
はじつはこの筆名
で『未だ王化に染(したが)はず』(八六年)という長編を一度発表していた。これは日本民族とは何か、国家とは何かを問い直す
ような野心 作だったが、その後ほとんど忘れられ、いま突如、この筆名が甦(よみがえ)ったことになる。
「カノン」の舞台となる近未来の東京では、脳の中で記憶
をつかさどる海馬という部分を二人の人間の間で交換する「脳間移植」の技術が実用化
してい る。そして、末期癌(がん)で余命一年を宣告された五十八歳の男性、北斗と、脳に異変が起き近い将来すべての記憶と判断力を失うことが避けられなくなった 三十二歳の女性、歌音(カノン)の二人が
、赤の他人でありながら、合意のもとに海馬を交換する。