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温泉は苦手と自認する画家が、月に1度、夫婦で全国をめぐり、名湯を画題とする絵を描くことになった。本書は、その道中を語る画文集である。
 一連の作品には、湯のまち独特の情緒、歴史や文芸、キッチュな博物館や名所風景、ご当地ゆかりの著名人の肖像など、思い浮かんだイメージが描きこまれていく。「なんだか子供の発想に近づいている」と自己分析するほど、古希を迎えてその表現はいっそう奔放だ。
  画家は温泉地への旅を、能の舞台と重ねあわす。見知らぬ人物や亡霊と遭遇する状況が似ているというのだ。実際、異界にも足を踏みこむこともあったようだ。 秋保温泉では騎乗した伊達政宗が川面を疾走する霊夢に驚き、石和温泉では食べ物のアレルギーで病院に担ぎこまれる。その経験が画題となる点が面白い。鎧兜 (よろいかぶと)の武者の姿や自身が乗った救急車までもが絵画に登場するのだ。
 他人の支配 を受けず、やりたいことだけに時間を費やす、自分なり の「隠居」を画家は実践している。湯に身を癒やし、自由に絵を描く「温泉主義」の日々などは、その神髄なのだろう。「一日が未完で終わるように、人間の一 生にも完成なんてないじゃないですか」という言葉に、その人生観が集約されている。