1. はじめに
山陰新幹線は、日本海側の主要都市を結ぶ高速鉄道計画であり、長年にわたりその実現が議論されてきました。本レポートでは、山陰新幹線の現在の計画状況、関連する政治的・経済的背景、および具体的な整備案を多角的に分析し、その実現可能性について考察します。
2. 計画の現状と背景
山陰新幹線は、1973年に全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画路線として決定されました。しかし、現在に至るまで、建設に向けた具体的な整備計画路線への格上げは実現していません [1]。
近年、山陰地方の自治体や関係団体は、山陰新幹線を含む基本計画路線の早期整備を求める活動を活発化させています。2026年1月には、山陰、東九州、四国などの基本計画路線の「整備計画」への格上げを求める総決起大会が開催され、決議が採択されました [2]。
2.1. 政治的動向と「骨太の方針2025」
石破茂首相(鳥取県選出)の就任は、山陰新幹線計画に新たな視点をもたらしています。石破首相は、かつてフル規格新幹線に対して費用対効果の観点から懐疑的な見方を示していましたが、首相就任後は「地方創生2.0」の旗印のもと、新時代のインフラ整備として、より柔軟なアプローチを模索する姿勢を見せています [3]。
2025年の「骨太の方針」では、「基本計画路線を含む幹線鉄道ネットワーク」の高機能化が明記されました。これは、従来のフル規格新幹線一辺倒の整備方針から転換し、在来線の高機能化や中速新幹線といった多様な選択肢を検討する方向性を示唆しています [4]。
3. 具体的な整備案と課題
山陰新幹線の整備には、主に「フル規格新幹線」と「中速新幹線(在来線高機能化)」の二つのアプローチが考えられます。
3.1. フル規格新幹線案
フル規格新幹線は、最高速度250km/h以上での運行を想定し、新幹線専用の線路を建設するものです。しかし、その建設には莫大な費用がかかります。例えば、新大阪〜綾部間(約100km)の建設費は1.2兆円を超えるとの試算もあり、費用対効果(B/C)の確保が極めて困難であるとされています [5]。
3.2. 中速新幹線(在来線高機能化)案
「中速新幹線」は、最高速度150〜180km/h程度での運行を目指し、既存の在来線を活用しつつ、線形改良や部分的な新線建設(ショートカット)を組み合わせるハイブリッド方式です。この方式であれば、建設費をフル規格の約半分に抑えられる可能性が指摘されています。例えば、新線区間が56kmの場合、工費は約5600億円程度と試算されています [5]。
この中速新幹線案は、「骨太の方針2025」で示された「幹線鉄道の高機能化」の考え方と合致しており、地方創生の観点からも現実的な選択肢として注目されています。
3.3. 費用便益比(B/C)と財源
新幹線整備の可否を判断する上で重要な指標となるのが費用便益比(B/C)です。人口減少が進む現代において、1.0を超えるB/Cを確保するための需要予測は厳しい状況にあります。また、整備新幹線の予算枠は限られており、リニア中央新幹線や北陸新幹線延伸など、他の大規模プロジェクトとの競合も課題となっています [6]。
3.4. 並行在来線の問題
新幹線開業に伴う並行在来線の第三セクター化は、地域の交通網維持や住民の利便性確保の観点から、常に大きな懸念事項となります。山陰新幹線の場合も、この問題は避けて通れない課題となるでしょう。
4. 実現可能性の展望
現状を鑑みると、山陰新幹線がフル規格新幹線として短期・中期的に実現する可能性は極めて低いと言わざるを得ません。莫大な建設費用と厳しい費用対効果の課題がその障壁となっています。
一方で、中速新幹線(在来線高機能化)としての実現可能性は、石破政権の「地方創生」政策と「骨太の方針2025」の方向性から見て、高まっていると言えます。2026年度以降、具体的な「高機能化調査」の対象となるかどうかが、今後の焦点となるでしょう。在来線の高速化や部分的な新線建設による時間短縮効果と、建設費抑制の両立が鍵となります。
5. 結論
山陰新幹線は、フル規格での実現は困難であるものの、中速新幹線という新たなアプローチを通じて、その実現可能性が高まっています。政治的な後押しと、費用対効果を考慮した現実的な整備計画の策定が、今後の進展を左右する重要な要素となるでしょう。地域経済の活性化に資するインフラ整備として、今後の動向が注目されます。
参考文献
[1] 山陰新幹線 | 山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議. https://sanin-shinkansen.jp/
[2] 半世紀も進展ない新幹線の基本計画、地元が「整備計画」格上げへと総決起…「東九州」「四国」など11路線. 読売新聞オンライン. https://www.yomiuri.co.jp/national/20260119-GYT1T00225/
[3] 石破茂氏がJ-CASTニュースに語った「リニア&山陰新幹線懐疑論」 首相就任でも「変節」ないのか. J-CASTニュース. https://www.j-cast.com/2024/09/27494370.html?p=all
[4] 政策を大転換。「中速新幹線」推進、フル規格は棚上げも. 旅行総合研究所タビリス. https://tabiris.com/archives/honebuto2025/
[5] 山陰新幹線、ついに現実路線へ? 中速鉄道の夜明け! 新大阪~舞鶴1時間短縮、在来線活用と新線建設のハイブリッド、この鉄道でなぜ地域は活性化するのか?. Merkmal(メルクマール). https://merkmal-biz.jp/post/89810/7
[6] 整備新幹線(未着工区間)の 整備効果等について. 国土交通省. https://www.mlit.go.jp/common/000204608.pdf