2018年4月に日本の多様な品種を守ってきた種子法(主要農作物種子法)」が廃止。日本の農業は、大きな転換点に差しかかっているという。

日本の種子を守る会の元農林水産大臣・山田正彦氏は、警笛を鳴らす。

このままでは、日本の農産物の多様な品種が店先から消える。

これまで米、大豆、麦類の品種を、各都道府県が責任を持って種子を開発・増殖してきました。それが今後は義務ではなくなるのです。つまり、種子を守るための予算がつかなくなる。一つの品種が開発されるまでには10年、増殖には4年かかる。各地域の銘柄米を手ごろな値段で口にできたのは、膨大な歳月と労力をかけ、その予算を税金で賄ってきたからです。

日本の多様な品種を大企業の寡占から守っていかなければならない。農業競争力の強化が国の方針。生産規模の小さい銘柄は集約されるので、国内の品種はいずれこういった大企業の品種に置き換わっていく。従来の品種を作り続けたいと思っても、各都道府県が生産をやめれば種子が手に入らない。やがて外国の多国籍企業の種子を一般農家は買わざるをえなくなっていく。

日本では、「みつひかり」(三井化学)、「つくばSD」(住友化学)、「とねのめぐみ」(日本モンサント)などの籾米が流通し、多収量の業務用米として用いられている。

種子ビジネス企業は、莫大な開発費を回収する必要があり、「F1種」という一世代に限って作物ができる品種を販売。自家採取できないので、農家は毎年企業から種を買わなければならない。

 種子ビジネスに乗り出してきているのは化学企業が中心。農薬と化学肥料もセットで売り、契約によって作り方も指定されます。


種子法廃止の背景にあるのは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)だといわれている。

種子法が制定されたのは、1952年5月で、前年に制定されたサンフランシスコ講和条約が発行された1952年4月の翌月。食料の安定供給が目的で、米・麦・大豆などの主要な農産物に関しての優良な種子の安定的な生産と普及は、国がその役割を果たすべきであると定めた。8つの条文のみで、対象は「稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆」だった。

まだ米国がTPPから離脱するとは、全く思われていなかった頃の資料には、「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」とあり、「TPP反対」の公約で当選したわが国の総理大臣も、ダボス会議で「政権政策の一番はTPP」と宣言。

TPPでは、同じ産業において民間企業の競争を妨げる国等の関与が認められた場合、国を相手に提訴することができるISD条項があり同業種における競争条件をフラットにする(イコールフッティング)必要がある。

民間が主体となっている野菜などでは、圧倒的な技術力と資本を持つ数社の多国籍企業が、中小の種苗会社を次々に買収し、世界中にシェアを拡大中。西川芳昭龍谷大学経済学部教授も、米の自由化を懸念。

今、スーパーなどで販売されている野菜の多くも、そうした多国籍企業の種子によるものなのです。種子法がなくなることで、公的に支えられてきた米や麦などの主要作物の開発についても、効率や経済性の追求に傾いていかないか心配。


「日本の種子を守る会」事務局アドバイザーの印鑰智哉氏は、危惧する。

(種子の輸入が途絶えれば)日本ではほとんど野菜が作れないのが現状です。

農水省は「知的財産権の保護」という点から、これまで原則OKだった自家採種を原則禁止に転換する方針。種子を自家採種したり共有したりすれば、犯罪となり重い罰則が科せられる(家庭菜園は除く)ようになるという。

長野県安曇野市で自然農の菜園を持つゲストハウスを経営者の臼井健二氏は、大企業の種に頼らない農業を行うために、2012年に在来種の種を保全するシードバンク「種センター」を開設。現在、200種以上の在来種の種子が保存。

種が落ちて芽が出て、実がなるというのが自然界です。自家採種禁止なんて常識では考えられない。大企業の品種が席巻して多様な品種が滅ぼされる前に、自家採取可能な品種を保存しておかなければ。


ブログ管理人は、一昨年、長野で夏野菜を作ったときには、その前の年に植えられたF1のプチトマトの芽が自然に生えて育ち、豊かな実をつけたので、F1といえども生命の力に感動した。

今は、マイ・シードバンクのために、食べた固定種のお野菜の種から、芽が出るか実験中。




[参考・引用]
「4月に迫る『種子法廃止』は、なぜ異例のスピードで成立したのか」MONEY VOICE、2018.3.22
宗像充・横田一:5分でわかる種子法廃止の問題点。日本人の食を揺るがしかねない事態って知ってた?、HARBOR BUSINESS ONLINE、2018.7.7