日本はお風呂大国。

入浴の歴史は長く、約6,000年前の縄文時代の遺跡にじゃ、温泉を利用していた痕跡が残る。奈良時代には、銭湯の起源がみられ、江戸時代になると銭湯が増えたという。

2012年の東京都市大学の研究チームが静岡県の6,000人の住民を対象に行った調査では、「毎日お風呂に入る人」は、毎日お風呂に入らない人に比べて幸福度が10ポイント高く、さらにシャワーだけの人との比較では、「湯船に入る人」の幸福度は12ポイント高いという結果。

同年の静岡県在住で、20歳以上の男女3,000人へのアンケート結果をもとに、彼らの入浴習慣と主観的幸福度の相関性について調べた。主観的幸福度とは、自分が日々の生活でどれくらい幸せだと感じているかを、0から10までの11段階評価で回答してもらった。すると、毎日の入浴習慣がある人のほうが、そうでない人に比べて、主観的幸福度が高い結果が出た。

毎日の入浴習慣は心身共によい影響を与える。

日本温泉気候物理医学会が実施した「入浴習慣と要介護認定者数に関する5年間の前向きコホート研究」(2011年)では、65歳以上の高齢者600名ほどを対象に、高齢者を入浴の頻度別にグループに分け、5年後の要介護認定者数を調べた。その結果、週7回以上お風呂に浸かる習慣があるグループは、そうでないグループに比べて、自立度が1.85倍も高いという数値が出た。

毎日の入浴習慣がある人は、要介護になりにくい。

入浴と幸福度の研究を行った早坂信哉氏によると、注意すべきことは、入浴は、シャワーを浴びるだけの「シャワー浴」ではなく、湯船にしっかりと浸かる「浴槽浴」である必要があるということ。

浴槽浴には、シャワーだけでは得られないメリットが多くある。

浴槽浴が心身に与える効果は大きく分けて、「温熱作用」、「静水圧作用」、「浮力」の3つ。

1. 温熱作用
温かいお湯に浸かることで、体の表面が温められ、皮膚の下まで熱が伝わり、血管の拡張が起こることで、血液の流れがよくなる。人間の細胞は、体の隅々まで張り巡らされた血管を流れる血液によって、酸素や栄養分を受け取り、二酸化炭素などの老廃物を回収している。血液の巡りがよくなることは、いわば、体にとって一番大事なライフラインが強化されること。新陳代謝の活発化、免疫力、体力の向上が期待できる。

2. 静水圧作用
お湯の中に浸かると、人間の体には水圧がかかる。この水圧は、肩までお湯に浸かった状態で腹囲を測ると、空気中に比べて数センチ縮んでいることもある。この水圧が皮膚の血管にかかることで、血液が心臓に押し戻される。また、お湯に浸かっている間に水圧で押さえつけられていた血管は、湯船から出た瞬間に開放され、血液が一気に流れ出す。この一連の働きが血液の巡りをよくする。

3. 浮力
お湯に肩まで浸かった場合、その人の体重は浮力によって10分の1になるという。体が軽くなることにより、大きなリラックス効果がある。


正しい入浴法
① お湯の温度は38~40℃
② 肩まで浸かる全身浴
③ 入浴時間は10分間

お湯の温度を設定するときは、42℃よりも少しぬるめで体温よりも高い、38~40℃の範囲に設定。そうすることで体も温まり、副交感神経の働きで十分体を癒すことができる。

42℃以上の熱いお湯に入ると、交感神経が刺激され、体は一種の戦闘状態に突入。血圧が上がり、脈は速くなり、逆に胃腸など内臓の働きは弱まってしまう。

入浴は心身に良い効果をもたらす反面、一歩間違えると死の危険もある。寒い冬に要注意なのは、高齢者の入浴時の死亡事故。入浴中の事故死の数は年間で約1万9000人。交通事故で亡くなられる方は年間4000人前後なので、かなりの数である。

死亡者の症状で多いのは、脳卒中や心臓発作(心筋梗塞、不整脈など)で、「ヒートショック」によって引き起こされることが多い。ヒートショックとは、外部の温度差によって引き起こされる血圧の急激な変化のこと。

ヒートショックを防ぐためには、入浴における温度差を少なくすることが大切。脱衣所に暖房器具を置いて空間を温め、リビングとの温度差を5℃以内にすることで、血圧の急上昇は防げるという。

温度や季節によるが、お風呂で汗をかくことで体内から失われる水分量は800ml。入浴前後で、最低でも合計500mlは水分補給をしておくのが理想。入浴前後における十分な水分補給を忘れないように。


[参考・引用]
早坂信哉:医学的効果のある入浴法は「40度、全身浴、10分」の黄金法則、文春オンライン、2018.2.25