B層の思考を停止させるには、ショック・ドクトリンがよく効く。
大惨事は、企業に大儲けする機会を与えて、政府が惨事便乗型資本主義を推進する契機となる。
ショック・ドクトリンは、綿密な計画のもとに民衆を怯えさせて、急進的な自由市場改革をゴリ押しするのに利用される。
これまでの自由市場の歴史は、大惨事のショックが塗り替えてきた。
戦争やクーデター、自然災害、テロ攻撃など集団的トラウマでショック状態に陥らせて、ショックから回復させないことで、個人や社会が従順で忠告に応じやすくなるからだ。
ナオミ・クライン『ショックドクトリンー参事便乗型資本主義の正体を暴く』岩波新書2011
カナダのジャーナリストのナオミ・クラインが1973年のチリのクーデター、天安門事件、ソ連崩壊、米国同時多発テロ事件、イラク戦争、アジアの津波被害、ハリケーン・カトリーナなど、暴力的な衝撃で世の中を変えたこれらの事件に一すじの糸を通し、従来にない視点から過去35年の歴史を語り直す。
原作:ナオミ・クライン
監督:マイケル・ウインターボトム/マット・ホワイトクロス
監督:マイケル・ウインターボトム/マット・ホワイトクロス
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かつてケインズ主義に反対した自由市場主義を主張するシカゴ学派の経済学者ミルトン・フリードマンは述べた。
真の変革は、危機状況によってのみ可能となる。
この主張をナオミ・クラインは「ショック・ドクトリン」と呼び、現代の最も危険な思想とみなす。
近年の酷い人権侵害は、いっけん反民主主義的な体制による残虐行為に見られがちだが、実は民衆を震え上がらせて抵抗力を奪うために綿密に計画されたものであり、急進的な市場主義改革を強行するために利用されてきた。
投資家の利益を代弁するシカゴ大学経済学部は、大きな政府や福祉国家を攻撃し、国家の役割は警察と契約強制以外はすべて民営化し、市場の決定に委ねよと説く。
しかし、そのような政策は有権者の大多数から拒絶され、アメリカ国内で推進することはできなかった。
民主主義の下では実現できない大胆な自由市場改革を断行したのが、ピノチェト独裁下のチリで、無実の一般市民の処刑や拷問が行われた。
それと同時にシカゴ学派による経済改革が推進されて、これがショック・ドクトリンの、最初の応用例だった。
カナダのマッギル大学もショックの効用を研究し、精神医学科では、CIAの資金で拷問手法としてマインドコントロールや洗脳の実験を行った。
囚人に幻覚剤を投与し、刺激を奪って長期の孤立状態に置くことで、精神を幼児まで退行させて、人の言いなりにさせる手法は、現在グアンタナモやアブグレイブで使われている拷問マニュアルに酷似する。
戦後イラクで連合軍暫定当局(CPA)のブレマー代表は、意図的に無政府状態と恐怖の蔓延を助長する一方で、急激な民営化を進めており、これを国民レベルのショック療法とみることもできる。
人類最古の文明におけるゼロからの再出発、既存体制の完全な抹消という発想には、個人の精神を幼児に戻して言いなりにさせるCIAの拷問手法が重なる。
これは、ハリケーン被害においても踏襲され、長年の放置により劣化したインフラが必然的に災害を招くと、それを口実に、まるごと民間に売り飛ばせという主張に拍車がかった。
しかも、これらを公然と認める経済学者たちの発言が、たくさんの文献に残されていた。
自由市場経済を提唱する高名な経済学者たちが、急進的な市場経済改革を実現させるには、大災害が不可欠であると書いている。
民主主義と資本主義が矛盾することなく、手を携えて進んでいくというのは、現代社会における最大の神話であるが、それを唱導したその当人達が、それは嘘だと告白している。
この事実をふまえて、数十年の歴史を振り返ることは、私たちがいま、どうしてここまできてしまったのかを理解する大きな手がかりとなる。
ナオミ・クラインとアルフォンソ・キュアロン監督が製作した約7分の短編。
クラインの『ショック・ドクトリン』を視覚的にまとめている(英語)。
映画『ショック・ドクトリン』は、そのまま3.11後の日本と重なる。