俺はその後、3、4回ほどあいつの命日、5月31日に墓参りに行った。
一人で・・・・
あいつの好きだったタバコとビールを買い、墓前でタバコに火をつけてあいつに吸ってもらった・・・・
線香代わりだ・・・・
俺もビールをあけ、あいつと乾杯。
飲んでいる間あいつに語りかけていた・・・・
しかし30歳の足音が近づき、俺の日記を読んでくれた人はわかっていてくれると思うが・・・・俺も色々と大変な時期があった。
徐々に・・・足が遠のいていった・・・・
ただ、決して忘れることはなく、いい思い出として心の片隅にしまってあった・・・・
その片隅にあった記憶を鮮明によみがえらせる出来事が昨年末にあった。
話はやっと第1話にもどる・・・・・
この日記を書こうと思った出来事・・・・・
それは、1通の葉書からはじまった。
俺宛てに届いたその葉書・・・・・
それはあいつのお父さんからだった・・・・・・
そしてそこには・・・・・・
「妻 永眠」
の文字が・・・・・
そうか・・・・あいつのお母さんがついに・・・・・
あいつに会いに行ったんだな・・・・
あいつはお母さんと再会できたのかな・・・・・
きっと会えたんだろう。。。。それでもって、あの頃のようにちゃきちゃきと世話をしてもらっているに違いない・・・・・・
俺はその葉書を手に、二人の姿を思い起こした・・・・・・
あいつ絡みの涙は、あの日全て流し尽くした。。。
決して涙が出るわけではない・・・・
むしろ・・・・なんとなく俺の顔は・・・・・・その時微笑んでいたと思う。
きっと二人は再会できただろうから・・・・
俺の家の床の間には、あいつの遺影にもなった俺とあいつの写真が飾ってある。
俺はその額を手にとり、リビングの窓際のソファに腰かけた。
夕方・・・・・
結露した窓を拭き外を眺める。
折しもその日は俺の住む街にも雪がちらついていた。
俺とあいつが出会ったあの街も、冬はいつもこんな空色だった。
ベランダにはヒラヒラと雪が舞い込んでいる・・・・・
季節は違うが春に降る雪は「忘れ雪」とか「なごり雪」、「淡雪」という・・・・
これらの雪には言い伝えがある・・・・
温かい地面に落ちた雪はすぐに溶けてしまい、再びまた空に戻る。
その時、お願い事をするとその願いを天国に持って行ってくれる・・・・というものだ。
だから3月、4月に雪が降った時、お願い事をする人が稀にいる。
俺はそんなことを思い出した・・・・・
この雪は忘れ雪ではないが・・・・・できたらあいつに届けてほしい言葉がある。
俺は雪に語りかけた・・・・・・
なあ・・・・・・・・
お前が死んでからもう20年・・・・・・・・
俺もあの頃に比べたら歳をとった・・・・・・・少し老けたよ。
もしお前が生きていたら、俺たちの関係はどんな感じだったんだろうな・・・・・・・・・・
お前は頭が薄くなったとか、腹が出てきたとか言ってるのかな・・・・・・・・・
なあ・・・・・・・・・・・・・
もしお前が生きていたら、きっとTと結婚していたんだろうな・・・・・・・・・・・
知ってるか?・・・・・・・・・・・・・
T、言ってたぞ・・・・・・・・・・・
お前の病院に見舞いに行く車の中で・・・・・・・・
やっぱりお前が好きだって・・・・・・・・・・
もしお前が回復したら一緒になりたいって・・・・・・・・
きっといい家庭築いてたと思うぞ・・・・・・・・・
それでもって、俺はお前たちの家に今でも逃げ込んでるんだろうな・・・・・・・・・
愚痴を言いに・・・・・・・・・
なあ・・・・・・・・・・・
この20年、お前から見て俺はどううつった?・・・・・・・・・・・
俺はまっすぐ生きてきたと胸を張れるだろうか・・・・・・・・・・・
お前が知ってる俺は、まだ俺の中にいるのかな・・・・・・・・・・
いや、お前はきっとこう言うだろうな・・・・・・・・・・
(何ばかなことやってんだ)・・・・・・・・・・・・・
って・・・・・・・・・・・・・
でもそういうお前の顔は、優しく笑っているんだろうな・・・・・・・・・・・・
俺は・・・・・・・・・・・・・・・・
お前といた俺は・・・・・・・・・・・・
とても幸せな時間連鎖の中にいたような気がする。
雪よ、伝えてほしい・・・・・・・・・・
あいつに・・・・・・・・・
友に・・・・・・・・・・
お前は永久(とわ)に俺の中にいると・・・・・・・・・
完
葬儀の間、俺はずっと泣き続けた。
人間はこんなにも涙が出るものなんだと・・・・
それほど泣いた・・・
おそらく、俺の人生の中で・・・・あれほど泣き続けたことはない。
葬儀が終わり、導師が退室する。
その頃には俺の顔はくちゃくちゃになっていた・・と思う。
横に座るTも。
ひどい顔だった。
抜け殻のように座る俺たちに、お母さんが声をかけてきた。
これから食事があるので一緒に来てほしいと。
無論俺たちは了承した。
食事の席で、あいつの想い出話を聞く。
お母さんはその席でもてきぱきと動き、ちゃきちゃきと話した。
ものすごく強い女性だと思った。
食事の後、あいつの実家に連れて行ってもらった。
「ここです」
あいつが過ごした、あいつの部屋に案内される。
「ずっと、あの子が使っていた部屋です。あの子が一人暮らしを始める直前まで。その時のままにしてあります。」
俺はお母さんに無言でうなずき、部屋を見渡す。
あいつらしい、朴訥とした簡素な部屋だったが、きれいに片づけられていた。
几帳面なあいつの性格が偲ばれる。
ふと見ると写真が飾ってあった。
小学時代のあいつの写真。
剣道着を着て手には賞状を持っていた。
剣道もやってたんだ。
写真を手に取る。
背筋を伸ばし凛とした表情のあいつ。
少しヤンチャな雰囲気も漂わせていた。
しばらくすると、お母さんが俺にあるものを手渡した・・・・・
『建築史・・・美術史・・・』
あいつがこれから目指そうとした建築士。
その第一歩として勉強しようと購入した本だった。
「これはあなたが持っていてください」
あいつの形見。
一歩を踏み出そうとした男の無念、その本を手に取りまた俺は涙した。
そして、お母さんに切り出した・・・・
「あいつが死んだのは俺のせいかもしれないんです」
俺はお母さんに全て話した。
情けない自分を励まそうと、あいつがあの日、遊園地に行くことを計画してくれたこと・・・・
その日は既に調子が悪そうだったこと・・・・
夜帰ってきて、39度の熱があるのに強く引き止めなかったこと・・・・
「僕があいつを泊めていればこんなことには・・・」
それ以上言葉が続かなかった。
ただ、顔をあげ、しっかりとお母さんを見た。
そうじゃないと申し訳ない気持ちは伝わらない。
お母さんは俺をみて優しく笑った。
そして大きく、ゆっくり首を横に振り、それから大きくうなずいた。
気にしないでほしい。
そういわんばかりに。
俺は深くお母さんに頭を下げた・・・・・・・・・
あいつのご家族との別れ際・・・・・お父さん、お母さん、お兄さんと強く握手した。
お母さんは俺とTを見ながら言った。
いつかあいつの遺影も一緒に俺たちと旅行に行きたいと。
晴れやかに笑うお母さんの顔で俺とTは救われた。
そして・・・・・いつかまたと言い残しTと一緒に家路についた・・・・・・
帰りの高速・・・・
俺とTはあいつの想い出話をしていた。
そしてふと俺はあることを思い出した。
「そういえばお前、なんであいつが死んだと思ったんだ?」
そう、お母さんからあいつの死を告げられる直前の電話だ。
Tは言った・・・・
「あの日、寝ていたらね、声が聞こえたの。(おい)って。
あれ?って思って、●●君の声に似てるなって思ったんだけど、気のせいだなって思ってまた寝ようとしたの・・・・
そしたら今度ははっきりと聞こえたの・・・・(おい)って。
●●君だってわかった。
ああ、いっっちゃったんだなって。
でも●●君だってわかってても、なんか怖くなっちゃって・・・そのまま目をギュって閉じたの・・・
ごめんねって・・・・
そしたらしばらくしてね、またはっきり聞こえたの・・・・・・
(元気でな)って。」
そうか・・・
あいつは最後、Tに逢えたのか。
本当は話したかったろうが・・・
でもきっとあいつはそんなことで怒ったりはしない。
最後のあいつの言葉が物語っている。
あいつらしい・・・・
最後の言葉。
俺はその話を聞き、少し気持ちが楽になった。
あいつはきっと、違う世界で生きている。
傾きかけた夕日を見ながら、俺はあいつの笑顔を思い起こした。
さて、Tとはそれっきり。
一度も連絡を取っていない。
今どこで、何をしているやら。
このブログをもし目にすることがあればすぐに自分だと気付くだろう。
でもきっとあいつは普通に結婚し、普通に子供を産み、普通に家庭を築いているに違いない・・・・・・
そして・・・
幸せに生きているに違いない・・・・・
だって・・・・・
あいつがきっと・・・・・ずっと見守っているだろうから。
次回最終話に・・・・続く
人間はこんなにも涙が出るものなんだと・・・・
それほど泣いた・・・
おそらく、俺の人生の中で・・・・あれほど泣き続けたことはない。
葬儀が終わり、導師が退室する。
その頃には俺の顔はくちゃくちゃになっていた・・と思う。
横に座るTも。
ひどい顔だった。
抜け殻のように座る俺たちに、お母さんが声をかけてきた。
これから食事があるので一緒に来てほしいと。
無論俺たちは了承した。
食事の席で、あいつの想い出話を聞く。
お母さんはその席でもてきぱきと動き、ちゃきちゃきと話した。
ものすごく強い女性だと思った。
食事の後、あいつの実家に連れて行ってもらった。
「ここです」
あいつが過ごした、あいつの部屋に案内される。
「ずっと、あの子が使っていた部屋です。あの子が一人暮らしを始める直前まで。その時のままにしてあります。」
俺はお母さんに無言でうなずき、部屋を見渡す。
あいつらしい、朴訥とした簡素な部屋だったが、きれいに片づけられていた。
几帳面なあいつの性格が偲ばれる。
ふと見ると写真が飾ってあった。
小学時代のあいつの写真。
剣道着を着て手には賞状を持っていた。
剣道もやってたんだ。
写真を手に取る。
背筋を伸ばし凛とした表情のあいつ。
少しヤンチャな雰囲気も漂わせていた。
しばらくすると、お母さんが俺にあるものを手渡した・・・・・
『建築史・・・美術史・・・』
あいつがこれから目指そうとした建築士。
その第一歩として勉強しようと購入した本だった。
「これはあなたが持っていてください」
あいつの形見。
一歩を踏み出そうとした男の無念、その本を手に取りまた俺は涙した。
そして、お母さんに切り出した・・・・
「あいつが死んだのは俺のせいかもしれないんです」
俺はお母さんに全て話した。
情けない自分を励まそうと、あいつがあの日、遊園地に行くことを計画してくれたこと・・・・
その日は既に調子が悪そうだったこと・・・・
夜帰ってきて、39度の熱があるのに強く引き止めなかったこと・・・・
「僕があいつを泊めていればこんなことには・・・」
それ以上言葉が続かなかった。
ただ、顔をあげ、しっかりとお母さんを見た。
そうじゃないと申し訳ない気持ちは伝わらない。
お母さんは俺をみて優しく笑った。
そして大きく、ゆっくり首を横に振り、それから大きくうなずいた。
気にしないでほしい。
そういわんばかりに。
俺は深くお母さんに頭を下げた・・・・・・・・・
あいつのご家族との別れ際・・・・・お父さん、お母さん、お兄さんと強く握手した。
お母さんは俺とTを見ながら言った。
いつかあいつの遺影も一緒に俺たちと旅行に行きたいと。
晴れやかに笑うお母さんの顔で俺とTは救われた。
そして・・・・・いつかまたと言い残しTと一緒に家路についた・・・・・・
帰りの高速・・・・
俺とTはあいつの想い出話をしていた。
そしてふと俺はあることを思い出した。
「そういえばお前、なんであいつが死んだと思ったんだ?」
そう、お母さんからあいつの死を告げられる直前の電話だ。
Tは言った・・・・
「あの日、寝ていたらね、声が聞こえたの。(おい)って。
あれ?って思って、●●君の声に似てるなって思ったんだけど、気のせいだなって思ってまた寝ようとしたの・・・・
そしたら今度ははっきりと聞こえたの・・・・(おい)って。
●●君だってわかった。
ああ、いっっちゃったんだなって。
でも●●君だってわかってても、なんか怖くなっちゃって・・・そのまま目をギュって閉じたの・・・
ごめんねって・・・・
そしたらしばらくしてね、またはっきり聞こえたの・・・・・・
(元気でな)って。」
そうか・・・
あいつは最後、Tに逢えたのか。
本当は話したかったろうが・・・
でもきっとあいつはそんなことで怒ったりはしない。
最後のあいつの言葉が物語っている。
あいつらしい・・・・
最後の言葉。
俺はその話を聞き、少し気持ちが楽になった。
あいつはきっと、違う世界で生きている。
傾きかけた夕日を見ながら、俺はあいつの笑顔を思い起こした。
さて、Tとはそれっきり。
一度も連絡を取っていない。
今どこで、何をしているやら。
このブログをもし目にすることがあればすぐに自分だと気付くだろう。
でもきっとあいつは普通に結婚し、普通に子供を産み、普通に家庭を築いているに違いない・・・・・・
そして・・・
幸せに生きているに違いない・・・・・
だって・・・・・
あいつがきっと・・・・・ずっと見守っているだろうから。
次回最終話に・・・・続く
お母さんからあいつの死を伝えられた・・・
その時お母さんからあいつの葬儀の日取りについて教えてもらった。
「あなたとTさんには是非来てもらいたいんです」
もちろん行くに決まっている・・・・
何があっても行く。
そう伝えた。
俺は受話器をおき、そのままTに連絡をしようと再び受話器をとる。
が、躊躇した・・・・
今さっき大丈夫に決まってると言ったばかりで・・・・・・なんて言おう。
言葉を選ぶ。
が、その時の俺にそんな気の利いた言葉が浮かぶはずもなかった。
素直に言うしかない・・・
ダイヤルする。
と、ほとんど呼び出し音のないままTが出た。
「俺だ」
その続きの言葉が出てこない・・・・・・
しばらく沈黙の後、Tが言った。
「死んじゃったんだね」
「・・・・・うん」
それ以上俺たちに会話の必要はなかった。
ただ、葬儀の日取りだけは伝えた。
もちろん彼女も来ると即答した・・・・・・
葬儀当日、やはり名古屋駅で待ち合わせた俺たちはあいつの住む町へと高速で向かった。
が、運悪く途中、事故渋滞に巻き込まれてしまい、結果的に葬儀予定の時間に少し遅れてしまった。
車を降り、急いで葬儀場へと急ぐ。
すると、遠くから一人の男性が走ってきた。
お兄さんだ。
黒い礼服に身を包んだ彼は、依然見かけたときよりやつれて見えた・・・・
俺たちの前までやってきて声を発する。
「間に・・・あいませんでした・・」
そう言い終えると、膝に手をあてて崩れ落ち、その場で嗚咽を漏らした。
何をおっしゃっているんだろう・・・・
まさか葬儀が終わったのか。
立ち尽くす俺たちにお兄さんはやっとのことで続ける・・・・
「ある事情で先に荼毘(だび)に付されることになって・・・もう・・・お別れは終わってしまいました・・・・・」
そんな・・・・・
あいつに最後の花を手向けることができなかった・・・・・
お兄さんのこの憔悴は、あいつの最期をみとったばかりだからだったから。
悲しみを上塗りされたが、それ以上にお兄さんの様子が不憫で・・・・・
俺は彼の脇を抱え、Tも彼の腕をつかみ、3人で火葬の待機所へと向かった。
待機所に案内され、ふと見ると若い人たちが数人いた。
どれも見覚えのある顔だ。
俺は彼らに近づき声をかけた。
「君たちは・・・・・・・」
彼らは全員立ち上がってこちらにお辞儀をする。
「●●さんの後輩です」
そう、見覚えがあったのは当然かもしれない。
あいつは大学で水泳をやっていた。
その後輩たちだ。
何度か一緒に飲んだことがある。
そうか・・・・・あいつのために来てくれたのか。
「ありがとう」
俺がお礼を言う立場ではないが・・・・なぜか自然と出た言葉だった。
彼らとは、当然あいつの話になった。
彼らなりのあいつの思い出を聞く。
やはり・・・・・出てくる言葉はいい先輩だったと・・・・・
いつも自分たちのことをかわいがってくれたと・・・・・
聞くたびに流れ落ちそうな涙をこらえ、でも彼らの話は俺を清々しい気持ちにしてくれた。
少し・・俺もTも気持ちが落ち着いた。
しかし、しばらくして火葬が終わったと告げられる。
火葬ドックの前に行き、扉が開いた。
今までこの光景は親戚とか祖父母で何度も経験している。
しかし・・・・
出てきたのは変わり果てたあいつの姿。
涙は出なかった。
出なかったが思わず目をつぶった。
順番に遺骨を骨壺に詰める。
俺とTは腕のあたりの骨を二人でつかみ、そっと骨壺にしまった。
もう、涙は出尽くしたのだろうか。
空虚感だけが俺を支配していた。
呆然とするなか・・・・・葬儀場へと向かう。
Tの前を歩く俺。
そして葬儀場の中へ・・・入った俺は立ち止まった。
Tが俺の背中にぶつかる。
俺が見たのは・・・・・
あいつの遺影。
それは・・・・・・・・
俺とあいつが最後に行った遊園地で二人で撮った写真だった。
あの遺影の横には俺が笑っている。
その時の幸せな時間が一瞬で思い出された。
と同時に、落ち着いていた気持ちが一気に崩れ落ちた。
まさか・・・
あの時撮った写真があいつの遺影になるなんて・・・・
その時は思いもしなかった。
柔和に微笑んだあいつの優しい表情。
あれが・・・・・
あの日が・・・・
俺の見たあいつの最後の姿。
それを改めて思い出した。
気が付いたら俺は・・・・・・・・・・・
その場で嗚咽を漏らして立ち尽くしていた・・・・・
続く
その時お母さんからあいつの葬儀の日取りについて教えてもらった。
「あなたとTさんには是非来てもらいたいんです」
もちろん行くに決まっている・・・・
何があっても行く。
そう伝えた。
俺は受話器をおき、そのままTに連絡をしようと再び受話器をとる。
が、躊躇した・・・・
今さっき大丈夫に決まってると言ったばかりで・・・・・・なんて言おう。
言葉を選ぶ。
が、その時の俺にそんな気の利いた言葉が浮かぶはずもなかった。
素直に言うしかない・・・
ダイヤルする。
と、ほとんど呼び出し音のないままTが出た。
「俺だ」
その続きの言葉が出てこない・・・・・・
しばらく沈黙の後、Tが言った。
「死んじゃったんだね」
「・・・・・うん」
それ以上俺たちに会話の必要はなかった。
ただ、葬儀の日取りだけは伝えた。
もちろん彼女も来ると即答した・・・・・・
葬儀当日、やはり名古屋駅で待ち合わせた俺たちはあいつの住む町へと高速で向かった。
が、運悪く途中、事故渋滞に巻き込まれてしまい、結果的に葬儀予定の時間に少し遅れてしまった。
車を降り、急いで葬儀場へと急ぐ。
すると、遠くから一人の男性が走ってきた。
お兄さんだ。
黒い礼服に身を包んだ彼は、依然見かけたときよりやつれて見えた・・・・
俺たちの前までやってきて声を発する。
「間に・・・あいませんでした・・」
そう言い終えると、膝に手をあてて崩れ落ち、その場で嗚咽を漏らした。
何をおっしゃっているんだろう・・・・
まさか葬儀が終わったのか。
立ち尽くす俺たちにお兄さんはやっとのことで続ける・・・・
「ある事情で先に荼毘(だび)に付されることになって・・・もう・・・お別れは終わってしまいました・・・・・」
そんな・・・・・
あいつに最後の花を手向けることができなかった・・・・・
お兄さんのこの憔悴は、あいつの最期をみとったばかりだからだったから。
悲しみを上塗りされたが、それ以上にお兄さんの様子が不憫で・・・・・
俺は彼の脇を抱え、Tも彼の腕をつかみ、3人で火葬の待機所へと向かった。
待機所に案内され、ふと見ると若い人たちが数人いた。
どれも見覚えのある顔だ。
俺は彼らに近づき声をかけた。
「君たちは・・・・・・・」
彼らは全員立ち上がってこちらにお辞儀をする。
「●●さんの後輩です」
そう、見覚えがあったのは当然かもしれない。
あいつは大学で水泳をやっていた。
その後輩たちだ。
何度か一緒に飲んだことがある。
そうか・・・・・あいつのために来てくれたのか。
「ありがとう」
俺がお礼を言う立場ではないが・・・・なぜか自然と出た言葉だった。
彼らとは、当然あいつの話になった。
彼らなりのあいつの思い出を聞く。
やはり・・・・・出てくる言葉はいい先輩だったと・・・・・
いつも自分たちのことをかわいがってくれたと・・・・・
聞くたびに流れ落ちそうな涙をこらえ、でも彼らの話は俺を清々しい気持ちにしてくれた。
少し・・俺もTも気持ちが落ち着いた。
しかし、しばらくして火葬が終わったと告げられる。
火葬ドックの前に行き、扉が開いた。
今までこの光景は親戚とか祖父母で何度も経験している。
しかし・・・・
出てきたのは変わり果てたあいつの姿。
涙は出なかった。
出なかったが思わず目をつぶった。
順番に遺骨を骨壺に詰める。
俺とTは腕のあたりの骨を二人でつかみ、そっと骨壺にしまった。
もう、涙は出尽くしたのだろうか。
空虚感だけが俺を支配していた。
呆然とするなか・・・・・葬儀場へと向かう。
Tの前を歩く俺。
そして葬儀場の中へ・・・入った俺は立ち止まった。
Tが俺の背中にぶつかる。
俺が見たのは・・・・・
あいつの遺影。
それは・・・・・・・・
俺とあいつが最後に行った遊園地で二人で撮った写真だった。
あの遺影の横には俺が笑っている。
その時の幸せな時間が一瞬で思い出された。
と同時に、落ち着いていた気持ちが一気に崩れ落ちた。
まさか・・・
あの時撮った写真があいつの遺影になるなんて・・・・
その時は思いもしなかった。
柔和に微笑んだあいつの優しい表情。
あれが・・・・・
あの日が・・・・
俺の見たあいつの最後の姿。
それを改めて思い出した。
気が付いたら俺は・・・・・・・・・・・
その場で嗚咽を漏らして立ち尽くしていた・・・・・
続く