器の小さい人間。
いつも利用するとある駅のエレベーターでのこと。
いつものように機材の入ったスーツケースを持って、エレベーターに最後に乗り込んだ。
右隣のお姉さんが「閉」ボタンを押しても扉が閉まらない。
すると左隣のおっさん(推定55歳、推定趣味・競馬予想)が、
「おい、スーツケースが邪魔なんだよ。引っ張れよ」と語尾強めに言ってきた。
気持ちスーツケースを引いた。
まず皆さんに説明しておこう。
私とスーツケースの関係は、例えるならF1ドライバーとフォーミュラカーのようなものだ。言うなれば一心同体。
スーツケースを1mm単位で操り、ここは通れる通れないは即座に判断がつく。時速300キロでも同じこと。
それは何度か電柱にぶつかって磨き上げた腕だ。
その私がスーツケースの幅を見誤るなんてことはない。どの角度から見てもエレベーター内にINしている。
私は知っていた。
このエレベーターは扉閉まるのがえらい遅いのだ。
私がスーツケースを引いたのにも関わらず・・・まだ閉まらない。
更に追い討ちをかけるかのように、エレベーター内で「ブー」という小さいブザー音が鳴った。
そのおっさん(推定年齢・55歳、推定好きな食べ物・鯖)がまた私に言ってきた。
「降りなさいよ。急いでるし、みんな迷惑してるんだよ。」
周りもおっさんの言い分が正しいと思っているのだろうか。背中にみんなの視線が突き刺さる。
私は知っていた。
このエレベーターは、閉まる前に安全の為かなんか知らないが、ブザーが鳴ることを。
たまにいるのだ。このブザーに負けて、抗わずに白旗を揚げ、重量オーバーだと思い降りてしまう心優しき戦士達が。
(私もここまでか・・・)と、周囲の空気に押され降りようと決めた時、扉が静かに閉まった。
・・・・・・・・・・・・・・。
なんとも言えぬ混沌とした空気の中に私が佇んでいるのを背中で感じていた。
私はイライラしてるし、周りは我関せずの空気を作り出すことに意識を向けてるし、若い女性のイヤホンからシャカシャカと音漏れしている。おっさん(推定年齢・55歳、推定職業・集金)は納得いってないのか鼻息を荒くしている。
私は知っていた。
このエレベーターは速度がえらいゆっくりなことを。
それが更に私のイライラを募らせる。
そして、扉が開いた。
予想通り、おっさん(推定年齢55歳。推定特技・魚の解体)が我先に出て行く。
かと思いきや、
扉が閉まらないように、スッと手を扉に添えた。
「どうぞ」
私に向かい言葉を発した。
「ぁ、ありがとうございます」と私が先に降りた。
器の差が出た瞬間だった。おっさん(推定年齢・48歳、推定好きな言葉・日々精進)は、エレベーター内で気持ちを静め、私はイライラしっぱなし。
完全に私の負けだ。
やっとここで白旗を揚げるよ。心から。
それに振り返ってみると、おっさんの言葉「スーツケースが邪魔なんだよ。引っ張れよ」は、すぐに私に降りろと言わなかった優しさがある。
「降りなさい。みんな迷惑してるんだよ」は、みんなの代弁者として言ったのかもしれない。
それに私・・・本当はスーツケースも未だに距離感誤って、壁にぶつけたりします。大口叩いてすみません。
今から、もうちょっと器のでかい人間になるよう努力したいと思います。