「ケン・アナキン」の訃報に寄せて・・・二。 | 流浪の民の囁き

流浪の民の囁き

映画を通した過去・現在・未来について、なぐり書き

戦争映画でもそれなりに名を残す作品のあったケン・アナキンだが、

やはりコメディ的手法で、世界の人種の差異を軽妙に「笑い」に変えた

そしてそこにレースを組み込み、娯楽作品として一級の出来を示したのが

「素晴らしきヒコーキ野郎」であったろう・・・。

この作品も既出であり、再掲載。そしてそれに続くものも・・・。


大空を翔けるヒコーキ、飛行機と漢字で書いてしまうと今ひとつ、

この映画の良さが伝わらなくなる。

やっと飛ぶヒコーキの二十世紀初頭におけるロンドン・パリ間の

競争を募集したところ、世界各地から賞金目当てにヒコーキ野郎が

集い・・・。


hikoki001

http://www.youtube.com/watch?v=s4fVp-hEPOk

「素晴らしきヒコーキ野郎」 六十五年公開作

この映画の監督はケン・アナキン、「バルジ大作戦」とか

戦争ものもなかなか出来のよいものを作ったが、この映画も

それこそ笑いがイギリス人らしく、お決まりの笑いである。

特にドイツ人にとって、こんなやつはいない的、扱われ方で

笑いの中心となっている。

兎に角、性格付けがイギリス人の目からだから、フランス・イタリア

は女たらし、アメリカはいい加減、そしてここに出ている日本人、

石原裕次郎は差別主義的非強調性がと、なかなか敗戦がこんなと

ころにも影を落とした描き方である。

もっともそれに目くじら立てるでなく、コメディとしての人間性から言え

ば融通の利かないマニュアル人間のドイツ人は、ほのぼのとして見て

いて笑いはするが、人間的に好きになるっていう役どころだと思うし、

石原裕次郎も強敵として描かれ、開始前に細工をされるで、開始後す

ぐにヒコーキが壊れて、出番はお仕舞いとなる。


http://www.youtube.com/watch?v=01s74a4Y4TI


お笑いショット 、サラ・マイルズのスカートを剥ぎ取りアメリカ人のおせっ

かいに、切れる演技は面白い。というか、女性をコケにする作りは、コメデ

ィの王道だ。

ここでは人間の描き方なんてどうでも良く、主役はあくまでもヒコーキ、

思い思いのデザインのヒコーキ群は、見ていて大空への憧れが昔から

人間にあり「鳥になりたい」願望の現われ、そして苦闘を茶化すのは、

過ぎた日々への憧憬・・・。

小難しい言語や演技でなく、先人達の思いを笑える映画にする。

これはこれで大変、尊敬が溢れている仕業とも取れる。

「空を飛びたい」、この映画を見るとそう思える。

それもヒコーキで・・・。

音速でなく、景色を楽しみ壊れそうな機械を慈しみ・・・。

笑いながら優しい気持ちにしてくれる。

映画の違った一面も、またありな映画である。


この映画の「おしゃれな批判」には、ジョークの巧みさが光り、

笑いがこみ上げてくる。

特にドイツ人、ゲルト・フレーベのおかしさは「イギリス的ユーモア

の底意地の悪くない笑いの対象としての存在を見せ付ける。

勿論、ここには日本も出るのだが、今一捉えていない感じが

歯がゆいが・・・。


このヒットで、脚本に参加したアナキンは、やはり同じコンセプトで

以下のような作品も撮っている。



流浪の民の囁き-モンテカルロ


http://www.youtube.com/watch?v=McwleLJf258&feature=related

「モンテカルロ・ラリー」 六十九年公開作


これもレースもので、ヒコーキを車に変えただけのスラップスティック・ギャグ

満載の映画。

創生期の車のレースという、ヒコーキ並みの発想は柳の下のドジョウたが、

前作に比べてしまったら、これはもう出来自体は比較にならないものだが、

その笑いのセンスは如何なき発揮され、そして各国の人の性格付けもユーモア

に飛んだものとなって・・・。

ただ前作を見てしまった後だけにあざとさも感じるし、主演のトニー・カーティスの

「ちょいワル・親父」には、辟易させられる。

ただ単に笑いに「夢」をは、流石に用いるものがヒコーキと車では違ってしまって

優雅に大空を泳ぐけったいなヒコーキにはどうしても及ばないものがあって、そこ

らが「ドタバタ」なギャグだけにとなってしまい、少々惜しまれるところである。




http://www.youtube.com/watch?v=f2AFBk337IA

「長い長い決闘」 六十八年公開作


インドにおけるイギリスの横専に対して、部族をまとめる男が敢然と立ちはだかり

権利を認めさせる・・・。といっても未見の作品。

と、まぁ、ガンジーのような人のビューマン・ドラマらしい、主演はユル・ブリナー

でその眼光鋭い表情は一見の価値ありなのではないのか・・・。

もっとも日本では販売はされていないようで、少し残念・・・。

で、残念ついででは以下の作品も・・・。



流浪の民の囁き-太陽にける橋


「太陽にかける橋」 七十五年公開作品


こちらは投稿されていないものだが、デビット・ニーブン・・・。

そうそうこの前の「八十日間世界一周」では、「戦場に架ける橋」でとか

間違って書いてしまっていたが、あっちはアレックス・ギネスだった。

良く間違えるんだよね、この二人・・・、って、言い訳を少しで訂正をしない

で、邦題はチョット紛らわしい同じ題でグエン・テラサキって人も書いていて、

後に柳田邦男がその娘「マリコ」ってな小説を書いたが、戦中の物語があっ

て勘違いしそう・・・。

原題は「張子の虎」であり、この物語の主題をそこに込めたものとなっている。

某東南アジアの国の日本国大使に三船敏郎が扮して、反政府テロ組織に誘拐

される三船の息子、その家庭教師役がデビット・ニーブンで、小児麻痺で足が不

自由なのに、大戦での負傷として「大法螺」を吹きまくり、息子にとってはヒーロー

となっているところに、息子もろとも誘拐され・・・。

ここで原題の「張子の虎」が試される結果となってくる。

ここでは「大法螺」を吹きながら、内心罪悪感一杯の役をニーブンが良く演じている。

イギリス紳士とは打って変わって、這い蹲りほら吹きながら、幼い子の命を守るため、

貧弱な身体でも懸命に守り通そうと・・・。

そしてラストで自分のほらを打ち明ける場面では、三船の肩に力が篭った演技から、

救われる一言が出て・・・。

と、このイギリス紳士は、やはり紳士であったで終わる物語だが、ここで日本の大使

を登場させている点が・・・。ここらにはやはり「戦場に架ける橋」でもそうだが、敵対した

相手であっても、過ぎれば「友好」な関係を保てる・・・。を体現している。

シネラマで公開された作品の割りに、ディスク販売もないようで、何とも・・・。



流浪の民の囁き-長靴下


http://www.youtube.com/watch?v=ucbcfmxEN5c

「長くつ下ピッピの冒険」 八十八年公開作


児童文学ものをミュージカル仕立てにした作品・・・。未見なので・・・

これがアナキンの最後の作品となったみたいである。

戦争からミュージカルと幅広くなっているが、そこには一貫してヒューマン

なドラマが埋め込まれ、どれもとても人間臭さが感じられるものが多い。

特に戦争で敵方だったドイツ・日本に付いての考察も丁寧であり、一方的な

見方をとることはなかったではないか・・・。

イギリス人気質の現われが、あのゲルト・フレーベを笑いながらも愛着を持た

せる「堅物」として描くあたりに、情愛を感じるのだが・・・。


                                ご冥福を祈ります。

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Amazon.co.jp                       といったところで、またのお越しを・・・。