明治二十六年発行の『新撰小學讀本巻五』を紹介します。なお、読み易くするため、地の文は平仮名に統一し、文字化けを防ぐため、漢字は所々新字体に改めます。
第十一課 圖。
物の形は、よこより見る時と、上より見る時とは、はなはだちがひあるものなり。
茶筒を立てて、之をよこより見れば、圓き棒の如くなれども、上より之を見れば、圓き板の如し。又机は、よこより見れば、引出しも見え、あしも見ゆれども、上より之を見れば、唯一枚の板の如し。其他すべての物、見やうによりて、其形ことなるものなり。
此は、教場を上より見たる圖にして、正面にあるは黒板なり。其前に先生の机と、生徒の机、及び椅子とあり。生徒の机の大さは、先生の机の半分ほどにして、椅子は、又其より小なり。
凡べて圖は、物の大さ、形、及び物と物とのへだたりを知らしむるに便利なるものなり。

【私なりの現代語訳】
物の形は、横から見る時と、上から見る時とは、とても違いがあるものです。
茶筒を立てて、これを横から見れば、円い棒のようですけれども、上からこれを見れば、円い板のようです。また机は、横から見れば、引出しも見え、脚も見えますけれども、上からこれを見れば、ただ一枚の板のようです。その他の全ての物が、見ようによって、その形が異なります。
これは、教室を上から見た図で、正面にあるのは黒板です。その前に先生の机と、生徒の机、及び椅子があります。生徒の机の大きさは、先生の机の半分ほどで、椅子は、またそれより小さいです。
全て図は、物の大きさ、形、及び物と物との間隔を知らせるのに便利なものです。
【私の一言】
「全ての物が、見ようによって、その形が異なります」とは、正にそのとおりです。道行く女の後ろ姿を見て、美人かと思って追い抜き、振り返って前から顔を見た時、ガッカリすることはあります。
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