
瀬戸内海の美しい小島で、ささやかな暮しをつづけてきた一家が、工業開発の波に追われ、父祖の地に哀惜の思いを残しながら、新天地を求めて移往するまでの揺れ動く心を追う(映画.comより引用)。1972年公開作品。監督は山田洋次で、出演は倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆、前田吟、渥美清。
笠智衆が父親、井川比佐志と倍賞千恵子が長男夫婦で、前田吟が次男というのは、山田洋次監督の『家族』と同じ設定です。同作が故郷を離れて新天地へ向かう道のりを描いたのに対し、本作は故郷に別れを告げるまでの葛藤を描いています。
渥美清は近所で魚や野菜を売っている松下役を演じています。渥美も笑いを抑制した演技をしますが、松下が島生まれではなく、よそから流れてきたという設定は、どこか『男はつらいよ』の車寅次郎を思わせます。
『男はつらいよ』シリーズで日本の風景を撮り続けた高羽哲夫は、本作でも優れた仕事をしています。それには、失われゆく日本の故郷を記録しておこうという執念みたいなものを感じます。そして、高羽が撮影する瀬戸内の景色が美しいほど、何故若い人は島を捨て、出て行くのかという松下の言葉に重みが増すのです。
地方の衰退という問題は、本作が公開された当時からあり、それから40年以上経ても、未だに改善されていません。「地方創生」と上っ面だけの言葉を掲げて、担当大臣に片山さつきみたいなヨゴレ議員を当てがって、それで適材適所とか言っている政府はクソです。本作で描かれたことは昔話ではなく、現在進行形の出来事なのです。
★★★☆☆(2018年12月20日(木)テレビ鑑賞)