
一文無しであてもなく歌舞伎町を彷徨っていた白鳥龍彦は、スカウト会社「バースト」幹部で謎に満ちた一流スカウトマンの真虎に助けられ、スカウトマンとしての道を歩み始める。裏社会に足を踏み入れた龍彦は、危険な思惑が交錯する世界を縦横無尽に駆け抜けていく(映画.comより引用)。2015年公開作品。監督は園子温で、出演は綾野剛、山田孝之、沢尻エリカ、金子ノブアキ、深水元基、村上淳、久保田悠来、真野恵里菜、丸高愛実、安田顕、山田優、豊原功補、吉田鋼太郎、伊勢谷友介。
漫画が原作で、新宿歌舞伎町のスカウトマンを描く裏社会物です。スカウトマンと類似の稼業は、梅宮辰夫主演の『不良番長』シリーズでも描かれていました。カタギより悪いが、ヤクザほど悪くない仕事なので、ヤクザを演じるには迫力不足な役者(特に若手)でも何とか様になるという利点があります(本作でヤクザ役を演じているのは吉田鋼太郎だけです)。
何かと尖った作家性重視の作品を作ってきた園子温ですが、本作では雇われ監督になろうとしています。脚本を放送作家の鈴木おさむ(森三中・大島美幸の夫)と、水島力也名義の山本又一朗プロデューサーに任せていますから。それで主導権を握っている山本プロデューサーの好きな「男の世界」が、たっぷりと描かれているのです。
この「男の世界」は、山本プロデューサーが自らの事務所(トライストーン)に所属する、小栗旬を主役に据えた『クローズZERO』二部作でも描かれています。言わば古いタイプの不良の世界です。本作でも雨降る中で不良集団が乱闘する回想シーンがあり、男同士で一対一のタイマンによって騒動が決着するという共通の世界観やルールが貫かれています。私は、そういう世界観を嫌いではありません。
また『クローズZERO』二部作に出演していた綾野剛、山田孝之、金子ノブアキ、深水元基が本作にも出演しており、同作の不良高校生たちが卒業した後の姿であるようにも解釈できます。綾野はトライストーン所属であり、『クローズZEROⅡ』や『ルパン三世』などで、小栗のバーター出演として脇を固めてきました。しかし、本作において一作品中で喜怒哀楽全ての感情を表現した綾野は、主役クラスにまで出世した感があります。卒業生が一人前になったことを喜ぶ担任教師のような心境になれます。
そのように山本プロデューサーの色が強い本作で、園監督が自分の色を出してきたのは、沢尻エリカが登場する中盤あたりです。沢尻演じるアゲハが心の拠り所とする絵本を用いて、詩人でもある園監督らしい詩的なムードを演出しています。どこか居心地の悪い体育会系的な「男の世界」で、文化系の園監督が己を出せるのは、女を描いている時だけなのでしょうね。
★★★★☆(2018年3月24日(土)DVD鑑賞)
本作の新宿歌舞伎町は、実は静岡県浜松市でロケしています。