サザンオールスターズ『葡萄』② | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

文学には私小説というジャンルがあります。太宰治の『人間失格』や三島由紀夫の『仮面の告白』などが、それに当たります。作者本人の体験に基づきながら、あくまで虚構として物語を構成するものです。事実を忠実に記述するノンフィクションより、私小説の方が真実を描き出すことがあります。
 
サザンオールスターズのアルバム『葡萄』にも、私小説的な作品が収録されています(歌詞は、各曲名をクリックすれば、sas-fan.netにリンクします)。
 
2曲目:青春番外地
 
バンカラなメロディに乗せて、1970年代の新宿あたりの青春を歌っています。しかし、桑田佳祐個人の青春を事実どおりに歌ったものではありません。オフィシャルブック『葡萄白書』によれば、「憂国論議」をするのは桑田より上の世代で、「楽団のバイト」はすぐ辞めて、「酔いどれパーティー」をするのは専ら渋谷で、ごくたまに新宿に遠征する程度だったそうです。すなわち、本作は私小説的に描かれた桑田の青春です。そして、「誰もがいなくなった」「みんな全てが消えてしまった」という歌詞に、青春とは真っ只中にいる者より、既に遠くなった者ほど強く意識できるという真実が表れています。
 
11曲目:栄光の男
 
長嶋茂雄と松井秀喜の国民栄誉賞受賞セレモニーをきっかけに作られた、人生を振り返るような歌です。本作の歌詞も私小説的なアプローチで書かれています。桑田が長嶋引退試合を見たのは、立ち喰いそば屋ではなく、喫茶店ですから(『葡萄白書』より)。それでも「こんなはずじゃ無かった」という思いがこみ上げて、涙を零したのは事実のようです。今回のアルバム『葡萄』がオリコン初登場1位を獲得し、4年代連続1位をソロ、グループを含めて史上初達成した桑田でも、「栄光の男にゃなれない」と歌っています。本当は軽薄で助平な男にすぎないという、冷静な内省があります。その思いと、紫綬褒章を授けて「栄光の男」に仕立て上げようとする周囲とのギャップが、年末年始の騒動の原因ではないかと思ってしまいます。
 
14曲目:
 
シンプルな伴奏とメロディで、「歌うたい」の気持ちを一人称で歌い上げています似た感じの歌として、サザン名義の「私の世紀末カルテ」や、ソロ名義の「それ行けベイビー!!」があります。前者は本作より私小説的(桑田は満員電車に乗らないから)で、後者に「歌うたい」の特性はありません。桑田にとって「歌うたい」であることがアイデンティティです。だから聴衆に対し、「あなたなしじゃ生きられない」と叫ぶのです。本作によって、自分の歩んできた人生という「道」は、それほどの価値はあるのかと自問自答したくなります。
 
To be continued......
 
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