シンセミア〈1〉 (朝日文庫)/阿部 和重
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渋谷でトラックが暴走したり、主婦がコカインにはまったり、街が洪水でえらいことになったり、警官がロリコンで筋金入りだったり。
そういったシチュエーションを小道具としてさらりと使ってしまうのを、筆力と言わずに何と言おう。
数十人の登場人物を、狭い町の中で縦横無尽に動かす文学的野心。
抑制された不条理な文体。
阿部文学の魅力がこの作品に詰まっているというわけではなく、つまり集大成ではないと思った。
登場人物は悪い奴ばかりで、最後は片っ端から死んでいくけれど、勧善懲悪の匂いはしないで。
きっと伝えたいのは神町という町のこと。何があるんだろうその町には。
ブランキー・ジェット・シティという素晴らしいバンドが昔日本にはいて
その歌は、ジェットシティという架空の町で起きた出来事や人々のことを取り上げていたんだけれど
局所的な物事も大事だが、その町が確かに存在する(浅井健一や、曲を聴いているリスナーの心の中に)
ということが非常に大切なことに違いない。
神町のことを思い出して、なぜかそういう風に思った。