主人公
グレイシス

春。一人の赤子が産声を上げた。
暖かな日差しと暖かな風、そんな気候に恵まれ彼女は生まれた。
彼女は「美しく、そして幸せになって欲しい」そんな願いを込められ"グレイシス"と名付けられる。
これは、呪われた血をもってしまった一人の少女の物語。
今回は初めて書かせて頂きます。ちょろ*様の楽曲です。





Nostalgic White 
ちょろ*

(00:00)

春。一人の赤子が産声を上げた。

暖かな日差しと暖かな風、そんな気候に恵まれ彼女は生まれた。

彼女は「美しく、そして幸せになって欲しい」そんな願いを込められ"グレイシス"と名付けられる。

これは、呪われた血をもってしまった一人の少女の物語。

父が他界したその年に
グレイシスが9歳を迎えた時、

彼女は不思議な力を持つ事となる。


「おかあさん!みて!ゆきだよ!ゆきがふってる!」
「あら?ほんとね。」
そう。外は寒くなり雪が降り始めた。
「おかあさん?おかあさんはゆき、すき?」

「ええ、大好きよ。」

だが、これが悲劇始まりだとは誰も知る由もなかった。


(00:25)
グレイシスはこの雪に対して何も感じる事はなかったが、母は異変に気付いていた。
何故なら季節はもう春である。桜咲き乱れるこの時期に雪が降るなんて滑稽ではないか。

最初は稀に見る気象、と思っていたがやはり様子がおかしい。
この雪は一晩中降り続き、2日目、3日目と降り続けた。
だがそれだけでは収まらず
もうこの雪は一年以上降り続けている。
それに時を重ねるにつれ雪も強くなる一方だった。
更に雪はこの地域だけでなく、世界に渡り行き、永遠と雪が降り続け、世界は極寒に凍え恐れた。


グレイシスが10歳になったある日の事、彼女は外で雪の上に咲く一輪の花を見つけた。
こんな寒さの中で咲いてるとは珍しいと思い彼女は花に触れる。

すると瞬く間に花は凍り付いたではないか。
少女は唖然とする。

それをたまたま見ていた村人は突然
「お前がこの雪を降らせたのか!?」
と罵声を浴びせグレイシスに襲いかかった。

しかし村人が彼女の手を掴んだその時、
何と村人までもが凍り付き動かなくなってしまったのだ。

グレイシスは自分の力を恐れ家に戻っていった。

だが、その一部始終を目撃した別の村人がこの出来事を言い降らす。

(00:47)
次の日から母とグレイシスは外に出歩く度、村人から罵声を浴びせられるようになる。

「その子が雪を降らせたんだろ?魔女か?悪魔か?今すぐここから出ていけ!」

村人は誰もが指を差してこの雪の元凶はグレイシスであると口を揃えて言い張るのだ。

「この子は悪くない!この子に触れさえしなければ、あなた達に危害はありません!それにこの力だけでは今まで雪を降らしていた証拠にもなりません!」


どれだけ娘が悪く言われようとも、母だけは娘を守ってくれていた。

それから日中問わず手袋を嵌めさせたり、肌が見える部分が頭だけ等、また不思議な力を出さないよう母はあらゆる対策を行う。

それでも村人から罵声を浴びせ続けられ、母は精神は少しずつ蝕まれていた。


数日後の早朝、母は眠っている娘を抱いて出掛けた。
雪原を歩く母は何故か暗い表情を浮かべている。

外は凍える寒さ、娘は毛布に包まれ微睡みの中、母のぬくもりを感じた。それは母の優しさだったのだろう。

途中で娘が眼を覚ますと、それから二人は手を繋ぎ歩いた。見知らぬ道、見知らぬ景色、


母は突然立ち止まるとようやく母は重い口を開き娘にこう言った。

「グレイシス、ここで待っててね。」

「わかった!まってる!」


「……ごめんね…。」
母はグレイシスにそう言って暖かかな毛布も渡し一人去っていく。

「おかーさん!すぐかえってきてね!」

しかしまだ幼い彼女はまだ何も分かっていなかった。"捨てられた"と言う事に。
そう。遂に彼女は唯一の味方だった母にまで手離されてしまったのだ。
母は待っててと言っていた。彼女はその言葉を信じて待ち続けた。

時は流れる。

だがいくら待とうとも母は戻って来ない。
少女は雪の上に座り込み、暖かかった毛布も今や凍り付き、寒さに凍えた。

そんな時、少女は眼を閉じる事を覚える。
眼を閉じれば残酷な白の世界は一変して黒の世界となるのだ。それが唯一の救いだった。夥しい雪を見なくて済むのだから。

でもこの景色は違う。ここはわたしのいるべき世界ではない。
わたしのいる世界は…おかあさんのいる世界。

だから少女は立ち上がり歩き出した。

(01:22)





雪の上にうっすらと残るもの。これは母の足跡。この足跡を辿ればきっと母に逢える。

その時既に雪と風は強さが増し吹雪となって少女に襲いかかっていた。

それでも彼女は母に逢いたい一心で歩き続ける。
たとえ、再会が悲劇になろうとも。


そして少女は吹雪の中母を見つける。
「おかあさーん!!」

再会が不可能に近い白の世界で母を見つける事が出来たのは、最早奇跡だろう。

しかし無慈悲にも吹雪は少女の声を掻き消し、母の姿をも消し去った。

母は更に進んで行く。
やはり母には吹雪で娘の声が聴こえていないのだろうか?
いや、違った。母には娘の声が聴こえていた。分かっていながら母は振り向く事が出来なかったのだ。
娘がどれだけ泣き叫ぼうと、娘はこの世界に居てはならない存在。
娘は世界の人々から恐れられたのだ。そして母である自分でさえも…。

しかし母はそれでも娘を自ら手に掛ける事は出来なかった。
たった少しの間だけでも生きていて欲しい。
出来ればそのまま死なないでどこかで生きていて欲しい。と母は願っていた。命を奪わず娘を「捨てた」という事。それが娘に対する最後の愛情表現だったのだ。



母の姿は見えなくなり、
少女は遂に力尽き、雪原に倒れこむ。
悴んだ手は赤く腫れ上がり、足は凍傷を患い、身体の感覚は失われていた。


「おか…あ…さん……。」
喉を渇らし声が掠れようとも、少女は母を呼び続けた。

もう一度、母の手に、そしてその温もりと、優しさに触れたいと思ったから。


最期まで少女は眼を瞑る事はなく、母を呼び続けた。

「お…かあ…さ─────


(01:47)
そして遂に白の世界が黒の世界へと変わった時、
突然、黒の世界の中で母が迎えてくれた。それに既に他界した父までもが。凍えて身体が動かせなかったが、少女は喜んだ。たとえそれが現実の母でなくてもいい。走馬灯の中で見えた一つの景色でも構わない。何故ならもう一度母に逢えたのだから。
黒の世界は瞬く間に明るくなり、寒さなど微塵も感じない。再び母の温もりと優しさに包まれたのか少女は微笑んでいた。






───おかあさん?おかあさんはゆき、すき?───

──ええ、大好きよ。───

季節は夏。凍りつく吹雪が荒れる中、少女の身体は徐々に雪に埋もれて行き、そしてそのまま深い眠りについた。

数日後、悪夢のような吹雪は収まり、曇天は晴れゆく。一年振りに太陽が顔を出した時、人々は喜んだ。ようやくこの絶対零度のような極寒から解放されるのだと。
しかし母だけは悲しんでいた。人々は救われても、愛する娘は救えなかったからだ。


生まれながらにして得たいとも、欲しいとも願わずに突如手にしてしまった力。しかし呪われた力を持った少女の最期は、不思議なほどに美しく、そして穏やかで幸せなものだった。





閲覧ありがとうございます。

今回は最近知り合いましたブリリア…ゴホンッ! ちょろ*様の楽曲から書かせて頂きました。

名曲ですね~(笑)
今回は既にストーリーが動画内に書かれており、それを更に広げた感じにさせて頂いたので結構ズルい事しました(笑)
所々に動画内に書かれてる文章を入れつつ完成。
イラストは最後に少女が笑っている意味深なシーンが個人的にお気に入りですね。
曲も二分程で弐寺辺りに入ってても違和感無さそうな楽曲です。素晴らしい楽曲をありがとうございました!
これからも素晴らしい楽曲を楽しみにしております。