ホリエモンこと堀江貴文氏の収監が近日中といわれておりますが、今、改めて「ライブドア裁判」の内容を振り返って、自分なりに(金融市場参加者としての視点からが主です)この裁判の問題点を指摘してみました。
以下の文章は前半は裁判の概略及びその補足、後半はその評価になっています。ライブドア事件関連書籍や裁判内容の公開資料も読んでみましたが、判決内容に関しては「迷文」に近いものというのが率直な感想です。結論の概要としては、刑事裁判の結果として、堀江氏への実刑確定には賛同しかねます。ただし、堀江氏およびライブドア社が行ってきた行為に賛同する気は全くありません。
【以下、「ライブドア裁判を今振り返る」本稿】
旧証券取引法違反の罪に問われた裁判で、最高裁への上告が棄却され、東京高裁の判決(懲役2年6か月)が確定していたライブドアの元社長の堀江貴史氏の収監が近日中に実行されると言われている。賛否両論のあった堀江氏への実刑確定であるが、改めて裁判の内容を振り返って、特に金融市場での仕事に従事している筆者からみた裁判の問題点を指摘してみたい。
まずは、「ライブドア裁判」の裁判の争点を再確認してみる。堀江氏を含めた他のライブドアの旧幹部が罪に問われたのは①会社買収の際の株式交換に関して、虚偽の事実を公表したこと ②内容虚偽の有価証券報告書を提出したこと であり、両件とも旧「証券取引法」の違反が容疑である。詳細を下記に記したい。(以下、裁判の内容に関しては判例時報2002号-東京地方裁判所判決及び同2030号-東京高等裁判所判決を参照した)
まず第一の「株式交換に関して、虚偽の事実を公表したこと」に関する容疑の詳細は、ライブドア社の最高経営責任者であった堀江貴史氏が同社最高財務責任者であった宮内亮治氏らと共謀し、以下の行為を行ったことである。ライブドアの子会社であったライブドアファイナンス社が投資事業組合名義ですでに買収していたマネーライフ社を、同じくライブドアの子会社であった、ライブドアマーケティング(当時バリュークリックジャパン)との株式交換によって買収するにあたり、企業価値をライブドアファイナンス従業員が過大に評価して、ライブドアマーケティングとの株式交換比率を決定し、ライブドアファイナンス社の株価を維持上昇させ、本株式交換によりライブマーケティング社が取得したライブドアファイナンス社株を売却した利益を得て、されに親会社であるライブドア社の連結売上に計上することによって、利益を得ようと企て、本件株式交換及びライブドアファイナンス社の業績に関して虚偽の事実を公表し、ライブドアファイナンスの株価上昇を図る目的を持って、風説を流布したこと である。
以下に、第一の容疑の内容に関して補足説明を加えておく。まず、「株式交換」とはある株式会社が、対象会社を100%子会社にするための手法でであり、子会社となる会社の株主に対して、その保有している株式を親会社となる会社株式に交換する方式である。現金がなくても企業買収が機動的に出来る制度として導入された。買収する側はまず、買収候補企業の企業価値を算定し、それに見合う自社株を新規発行し、相手企業の全株と交換する。よって買収する側の株価が高ければ、有利な条件での株式交換となる。本買収においてマネーライフ社の企業価値が不当に高く見積もられており、それによってライブドアファイナンス社は本来より多くのライブドアマーケティング社株式を取得し、同社株の市場での売却により本来より多い利益を得ているというのが裁判所の判決である。また、実質的に支配関係のある算定機関に実体よりも高い企業価値を算定させてのにも関わらず、開示文書で「第三者機関」と記載したので虚偽の開示であったとの判定である。
また、「投資事業組合」とは,組合員たる投資家から資金を集め投資先企業に対し主として出資の形で資金を供給する組合のことで、事件で使われたのは、民法上の「任意組合」と呼ばれるものであった。届出や出資者の登記の必要がなく、外部から実態が分からないのが特徴とされていた。後述するように、投資事業組合の実態については本裁判でも大きな論点であった。 続いて第二の「内容虚偽の有価証券報告を提出したこと」に関しての容疑は以下の通りである。ライブドア社は2004年9月期の連結決算において、実態は3億強の経常赤字であったにも関わらず ①業務の発注を装い架空の売上を計上 ②ライブドアが出資する投資事業組合がライブドア株式を売却する事で得た利益を売上に計上 した結果53億強の利益を計上することによって50億強のの経常黒字であったとする、虚偽の有価証券報告書を関東財務局長に提出したこと。
第二の容疑について補足すると、「虚偽の記載」として、具体的に問題になっていたのは会計原則としての『資本・損益区分の原則」である。この原則は「元手」としての資本と「儲け」としての利益の明確な区別を要求する原則である。資本から生まれた収益と会社の営業活動から生まれた利益を区分して会計上計上することにより、会社の実態が会計上正確に反映されるようにとの配慮からの会計の一般的規定である。
本件の堀江氏に対する容疑にに適応されている法律の1つ目は「旧証券取引法第158条」である。条文を引用すると、「何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。」。別の関連会社社員(ライブドアファイナンス社社員)にマネーライフ社の企業価値を評価させたのにも関わらず、「第三者機関が算定した」と虚偽の発表をしたこと、及びライブドアマーケティングの株価を上げるため、ライブドアマーケティングの決算短信を粉飾して発表したことに対して適応されている。
容疑に適応されているもう一つの法律は「旧証券取引法197条1項1号」であり、条文を引用すると「有価証券報告書若しくはその訂正報告書について、重要な事項に付き虚偽の記載のあるものを提出した者は、5年以下の懲役又若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」との内容である。ライブドアの 2004年9月期連結決算で、自社株売却益を本来は認められない売上高に計上したこと、及び業務の発注を装って架空の売上を計上し虚偽の有価証券報告書を関東財務局長に提出したことについて適応されている。
本裁判においては、「公判前整理手続」(刑事裁判で公判前に争点を絞り込む手続。刑事訴訟法316条の2以下に規定)が行われたため、実際の裁判での論点は以下の6点に絞られていた。①本件株式交換に関する公表内容が虚偽であるかどうか②ライブドアマーケティング社の平成16年第3四半期の業績に関する公表内容が虚偽か否か③これらの公表が虚偽であったとして、公表に関する堀江氏の犯意および共謀の有無④これらの公表がライブドアマーケティング社の株価の上昇を図る目的を持って行われたか否か(以上、第一の容疑に関して)⑤ライブドア社は重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出したのか⑥虚偽の記載のある有価証券報告書を提出していたとして、堀江氏の犯意および共謀の有無。これらの各争点に関する東京地方裁判所の判断は次のようなものであった(2007年3月16日判決)。
①本件株式交換に関する公表内容が虚偽であるかどうかの論点に関しては、共犯者宮内氏らはマネーライフ社の企業価値とは無関係な合併手数料や売上を上乗せするなどして企業価値を算出しており、虚偽であると言わざるをえず、マネーライフ社がライブドアファイナンス社との株式交換に関して行った公表は証券取引法158条の「風説の流布及び偽計」に概当。
②ライブドアマーケティング社の平成16年第3四半期の業績に関する公表内容が虚偽か否かの論点に関しては、関係者の供述やメールの内容などからマネーライフ社のある会社に対する売上は架空のものであり、この売上を前提としたマネーライフ社の平成16年第3四半期の業績に関する公表内容は虚偽であり、証券取引法158条の「風説の流布及び偽計」に概当。
③これらの公表が虚偽であったとして、公表に関する堀江氏の犯意および共謀の有無 の論点に関して、堀江氏の犯意および共犯者との共謀を基礎づけるととして、検察が主張した間接事実の有無、及びその推認力について詳細に検討した結果、マネーライフ社の平成16年第3四半期の業績に関する虚偽の内容を公表すること認識、許容していたとし、堀江氏と共謀者宮内氏との共謀が認定されたと判断。
④これらの公表がライブドアマーケティング社の株価の上昇を図る目的を持って行われたか否か については、いずれの公表もマネーライフ社の株式売買及び同社株式の株価維持向上を図る目的を持って行われたと認定。
⑤ライブドア社は重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出したのか については、ライブドア社の完全子会社においてライブドア社株式の売却を行った場合、証券取引法上のインサイダー規制や商法の子会社株式の取得規制に抵触し、その効力が問題になるのみならず、インサイダー取引への制裁の恐れがあり、そもそもライブドア株の完全子会社での売却益をライブドア社の連結決算において損益勘定の売上として認識できず、虚偽の有価証券取引報告書を提出した場合、刑事罰を科されるため投資組合を利用した規制回避を狙い、各組合を結成したものであり、組合の目的もライブドア社の株の売却及び連結決算への還流を目的としたものであると認定。実質的に組合の存在は否定すべきであるから、ライブドア社株式は子会社が売却したものであり、連結損益には売上として計上できず、結果重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出したと認定。
⑥虚偽の記載のある有価証券報告書を提出していたとして、堀江氏の犯意および共謀の有無。 については、堀江氏の共犯者宮内氏などから、報告を受けるなどして、虚偽の記載のある有価証券報告書を提出することを認識、認容していたとして、宮内氏との共謀を認定。
堀江氏の弁護人は、宮内氏が「横領」に関わっている可能性を指摘し、こちらの件を起訴しない代わりに、検察側の主張に沿った供述をする旨の暗黙の契約があるのではないかと指摘し公訴棄却を主張したが、東京地裁はこの主張に「一定の理解を示す」ものの、宮内氏の供述が検察官との取引によって行われたものではないと判示した。
量刑に関しては以下のような判示をしている。「本件各犯行は投資家保護制度の根幹を揺るがすものであって、証券市場の公正性を害する極めて悪質な犯行」「一般投資家を欺き、その犠牲の上にたって、企業利益のみを追求した犯罪であって、その目的に酌量の余地がないばかりか、強い非難に値する」「堀江氏人らにおいては、このようなみせかけの成長にこだわり、短期的な企業利益のみを追求したものである。そこには虚偽情報によって翻弄される投資家への配慮といった、上場企業の経営者としての自覚は微塵も感じられない」とし、「堀江氏が本件各犯行を主導したとまでは認められないなど、酌量の余地を最大限考慮しても氏人に対しては実刑をもって臨まざるをえない」。結果求刑懲役4年に対して、懲役2年6か月の判決が下された。
堀江氏側は第一審に対して控訴し、第二審である東京高裁で再度本件は争われた。2008年7月25日に東京高裁判決が下されたが、まず堀江氏側の控訴内容は以下のようなものであった。①投資組合事業の独立性につき、第一審で実施された公判前整理手続きにおいて確認されたものとは異なる枠組みで判決は判断されており、訴訟手続きの違反がある②投資事業組合は脱法目的や会計処理潜脱の目的で組成されてないなど、事実誤認がある③公表された有価証券報告書の内容は真実であり、仮に虚偽であったとしても、堀江氏には故意はなく、共犯者と共謀した事実もないなどの事実誤認がある(以上から堀江氏は無罪であるとの主張)④「内容虚偽の有価証券報告を提出したこと」に関しては粉飾決済の過去の案件と比較しても粉飾決済額が小さく、第一審の量刑は不当である。これに対して、東京高裁はいずれの弁護人の主張も棄却した。第一審での間接事実の認定に関しても再度検討を加えた形であるが、原審の判断は維持され、量刑は変更なしであった。
東京高等裁判所の判決後、堀江氏は最高裁判所に上告している。堀江氏からの最高裁への抗告棄却に対する異議申し立てについて、最高裁第3小法廷(田原睦夫裁判長)は20日付で棄却決定し、堀江氏の収監は正式に確定した。説明が長くなってしまったが、裁判の争点、及び裁判所の判断の概要の説明は以上である。以下にこの裁判に関する考察を加える。
まずは、本裁判の大きな争点である「投資事業組合」の扱いについてである。裁判所の「投資事業組合」の位置づけに関する判断は「組合の目的はライブドア社の株の売却及び連結決算への還流を目的としたものである」との判断である。よってライブドア社株式は実質的に子会社が売却したものであり、連結損益には売上として計上できず、計上した有価証券報告書を提出したことが、「重要な事項につき虚偽の記載」があったとの判断であった。つまり、裁判所の判断は本件において「投資事業組合」は会計上連結され然るべきであったとの判断である。しかし、「投資事業組合」がどのようなケースで「連結や持分法の対象とすべき子会社または関連会社の範囲に含まれるか」については「支配力基準」「影響力基準」を適用するとはされていたものの、刑事処罰の際に必要な「明確な」基準となっていたかどうかは議論が残るところである。「投資事業組合」の連結基準が十分明確でなかったことは、その後企業会計基準委員会から「投資事業組合に関する支配力基準及び影響力基準に関する実務上の取り扱い」という通達が基準を明確化するために出されていることからも確認できる。「投資事業組合は連結すべきであった」よって「自社株売却益を損益計算書に記載した有価証券報告書を提出したこと」は「重要な事項に関する虚偽の記載」であるとの判決のロジックには疑問が残るところである。投資事業組合を使った自社株売却→損益計算書への計上のスキームはあるべき行為ではないが、当時の会計上の解釈が一元化されていなかった状況であれば、上記の裁判所のロジックには無理があると言えよう。
続いて堀江氏への量刑についてであるが、裁判所の考え方には疑問が残ると言わざるを得ない。弁護人の主張では、他の類似事件に関して以下の量刑が課されているのに比較して本件の量刑は不当に重いとの主張がなされている(以下、弁護人の最高裁判所への上告趣旨書より引用)①山一證券事件は、平成7年~9年にわたり合計 約7428億円の粉飾決算事件であったが、東京高裁は、平成13年10月25日に元社長に対して、原審を破棄して懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。②日本債券信用銀行事件は平成10年の約1592億円の粉飾決算事件であったが、東京地方裁判所は、平成16年5月28日に、元会長に、「懲役1年4月、執行猶予3年」の判決を言い渡し、東京高等裁判所は、平成19年3月14日にこの結論を維持する判決を下した。③カネボウ事件は平成14年の粉飾決算事件であり、粉飾額は連結純利益で約58億円、連結純資産で約753億円に上ったが、東京地方裁判所は、平成18年3月27日に、元社長に対して、「懲役2年、執行猶予3年」の判決を言い渡した。④フットワークエクスプレス事件は、証券取引法違反(虚偽の有価証券報告書の提出)に問われた事件であるが、その粉飾金額は、経常利益で274億円、当期未処分利益で約1340億円にも上った。これについて、大阪地方裁判所は、平成14年10月8日に、元社長に対して、懲役2年、執行猶予3年の判決を言い渡した。⑤ アイペック事件は、約80億円の粉飾決算事件であったが、東京高等裁判所は、平成15年11月18日に元社長に対して、懲役1年8月執行猶予4年の判決を言い渡した。少なくとも粉飾額についてはライブドア事件(約53億円)より大きい案件に対して、すべて執行猶予がついているのがポイントである。
このような他の裁判での量刑との比較において、本裁判の判決(懲役2年6か月、執行猶予なし)は重いものであるが、裁判所判決は以下のような論理でこれを正当化している。東京地裁判決では、「粉飾決算事件の中に「損失額隠ぺい型」と「成長仮装型」の2種類があり、後者は前者よりもはるかに非難可能性が大きいと」の議論を展開した。「成長仮想型」とは、「投資者に対し、飛躍的に収益を増大させている成長性の高い企業の姿を示し、その投資判断を大きく誤らせ、多くの市井の投資者に資金を拠出させるもの」との定義である。東京高裁判決も、「成長仮装型の事例は未だ少ないから、一般論としてこの評価の手法が是認できるかは、慎重を要するであろう」としつつも、「このような視点からの分析、すなわち損失隠ぺい型と成長仮装型とに分けての評価、すなわち後者では粉飾金額は高額ではなくても犯行結果は大きくなるとする評価には注目すべきものがあり、本件に関しては上記説示の結論は是認できる。」としている。しかし、粉飾決算に対する処罰は「投資家に対して粉飾決算によりどの程度の損害を与えたか」との観点から議論されるのが正しい議論ではないだろうか。そもそも「損失を隠蔽するか」「成長を仮想するか」といったベクトルの方向性によって量刑の重さが違うというのは違和感のある部分である。「投資判断を大きく誤らせ、多くの市井の投資者に資金を拠出させる」「投資家に結果損害を与える」ことは「損失額隠ぺい型」でも同様なはずである。このロジックに関しては堀江氏への実刑をありきで考え出されたロジックと言われても仕方がないような内容であり、今後の同様の裁判の前例としてはふさわしくない内容と考えられる。
また、裁判所判決の「量刑の理由」の中で述べられている内容は金融市場に関する理解が欠けており、強い違和感を感じざるを得ない内容である。東京地裁判決の「量刑の理由」によると堀江氏の行為には以下のような判断が下されている。①「粉飾した業績を公表することにより株価を不正に吊上げて、ライブドア社の企業価値を実態よりも過大に見せかけ、度重なる株式分割を実施して、人為的にライブドア社の株価を高騰させ(中略)一般投資家を欺き、その犠牲の上に立って、企業利益のみを追求した犯罪である」②「株主は、本件発覚後、株価が急落し、さらには、上場廃止によって投資資本を回収する術も事実上失ったと認められ(以下略)」。
特に強い違和感を感じるのは、まず①「株価を不正に吊上げて」や「度重なる株式分割を実施して、人為的にライブドア社の株価を高騰させ」や「見せかけの成長にこだわり、短期的な企業利益のみを追求したものである」のくだりである。表現だけ捉えれば、裁判所は企業が自社の株価をコントロールできるかのような言い方であるが、株価の動きは多分に市場全体の動きやセンチメントに左右されるものであり、「企業が株価の動きをコントロールできる」ことを前提としていると考えれる裁判所の主張には疑問符がつく。ある事象が株価にプラスかマイナスか中立かは、理論的には説明可能でも実際にどうなるかは予測不能なのである。また、「短期的な企業利益の追求」自体は罪ではなく、あえて量刑事由の説明にこの表現が必要だとは思えない。
また、「株式分割によって人為的にライブドア社の株価を高騰させ」のくだりは裁判所の金融市場への理解のなさの象徴である。株式分割は理論的に企業価値には中立要因であり(株式の流動性向上の分はプラスの可能性はあるが)、株式分割後、株券交付までに期間があった当時は需給要因で「株式分割=株価上昇」といった状況があったものの、この状況下で株式分割をして、株価が上昇したことは理論的には説明できない行為であり、株式分割と株価上昇を当然の因果関係を持つ事象と扱うのは不適切である。
さらには、②「株主は、本件発覚後、株価が急落し、さらには、上場廃止によって投資資本を回収する術も事実上失ったと認められ(以下略)」とのくだりにも同様の違和感を感じる。株価の急落にはマネックスがライブドア株の担保の掛け目をゼロにしたこと(いわゆるマネックスショック)、検察の捜査開始日が平日であったこと、そもそもライブドア株には株価指標では説明しがたいレベルまで株価が上昇しており、そもそもニュースフローに対して反応しやすかったなどの複合的な要因があったはずで、ライブドア社や堀江氏の本裁判で罪に問われている行為のみを株価の下落要因とすることにも違和感を感じざるを得ない。以上のような金融市場への理解が不足は本判決の大きな問題である
以上のように、ライブドア裁判の判決内容に関しては、疑問を呈さざるを得ない部分が少なからずあり、特に量刑事由に関しては「迷文」と言わざるを得ない内容で、堀江氏への懲役2年6カ月という実刑確定に対して議論が起こるのは当然といえよう。ただし、最後に誤解がないように敢えて強調しておきたいが、堀江氏への「懲役2年6カ月」という判決の「妥当性」には疑問符を付けざるを得ないことは確かであるが、このことは堀江氏やライブドア社の過去の行為が肯定されるべきこととは同意ではない。裁判での論点になった事項に絞って考慮しても、2004年9月期の利益の大半がファンド経由の自社株売却益である状況で、投資家に実態が理解できない形での決算開示を行ったこと、また故意が仮になかったとしても架空の売上を決算に計上したことは、当時のライブドア社の管理体制及び同社社長であった堀江氏の上場企業社長としての資質への大いなる疑問を呈さざるを得ないものである。自社株売却を損益計算書に反映させるような行為が、市場全体で行われていては、「公正な市場」など望むべくもないし、それは架空売上げの計上も同様である。「ベンチャー企業に『怪しい』行為はつきもの」「堀江氏逮捕後、ベンチャー企業が委縮した」などとの主張も耳にするが、こういった意見には以上の理由で賛成は出来ない。刑事裁判での「推定無罪」の原則の上での適正な判決に関する議論と社会的な責任や公正な市場の構築のための議論を混同すべきではないだろう。
社会に大きなインパクトを残したライブドア事件及びその裁判であるが、本来議論されるべき「経済法令」の適応に関して、適切な判断及び前例を残すという観点からは、残念な結果となっている。感情的な議論に流されない今後の判例の積み重ねが今後行われることを期待したい。
以下の文章は前半は裁判の概略及びその補足、後半はその評価になっています。ライブドア事件関連書籍や裁判内容の公開資料も読んでみましたが、判決内容に関しては「迷文」に近いものというのが率直な感想です。結論の概要としては、刑事裁判の結果として、堀江氏への実刑確定には賛同しかねます。ただし、堀江氏およびライブドア社が行ってきた行為に賛同する気は全くありません。
【以下、「ライブドア裁判を今振り返る」本稿】
旧証券取引法違反の罪に問われた裁判で、最高裁への上告が棄却され、東京高裁の判決(懲役2年6か月)が確定していたライブドアの元社長の堀江貴史氏の収監が近日中に実行されると言われている。賛否両論のあった堀江氏への実刑確定であるが、改めて裁判の内容を振り返って、特に金融市場での仕事に従事している筆者からみた裁判の問題点を指摘してみたい。
まずは、「ライブドア裁判」の裁判の争点を再確認してみる。堀江氏を含めた他のライブドアの旧幹部が罪に問われたのは①会社買収の際の株式交換に関して、虚偽の事実を公表したこと ②内容虚偽の有価証券報告書を提出したこと であり、両件とも旧「証券取引法」の違反が容疑である。詳細を下記に記したい。(以下、裁判の内容に関しては判例時報2002号-東京地方裁判所判決及び同2030号-東京高等裁判所判決を参照した)
まず第一の「株式交換に関して、虚偽の事実を公表したこと」に関する容疑の詳細は、ライブドア社の最高経営責任者であった堀江貴史氏が同社最高財務責任者であった宮内亮治氏らと共謀し、以下の行為を行ったことである。ライブドアの子会社であったライブドアファイナンス社が投資事業組合名義ですでに買収していたマネーライフ社を、同じくライブドアの子会社であった、ライブドアマーケティング(当時バリュークリックジャパン)との株式交換によって買収するにあたり、企業価値をライブドアファイナンス従業員が過大に評価して、ライブドアマーケティングとの株式交換比率を決定し、ライブドアファイナンス社の株価を維持上昇させ、本株式交換によりライブマーケティング社が取得したライブドアファイナンス社株を売却した利益を得て、されに親会社であるライブドア社の連結売上に計上することによって、利益を得ようと企て、本件株式交換及びライブドアファイナンス社の業績に関して虚偽の事実を公表し、ライブドアファイナンスの株価上昇を図る目的を持って、風説を流布したこと である。
以下に、第一の容疑の内容に関して補足説明を加えておく。まず、「株式交換」とはある株式会社が、対象会社を100%子会社にするための手法でであり、子会社となる会社の株主に対して、その保有している株式を親会社となる会社株式に交換する方式である。現金がなくても企業買収が機動的に出来る制度として導入された。買収する側はまず、買収候補企業の企業価値を算定し、それに見合う自社株を新規発行し、相手企業の全株と交換する。よって買収する側の株価が高ければ、有利な条件での株式交換となる。本買収においてマネーライフ社の企業価値が不当に高く見積もられており、それによってライブドアファイナンス社は本来より多くのライブドアマーケティング社株式を取得し、同社株の市場での売却により本来より多い利益を得ているというのが裁判所の判決である。また、実質的に支配関係のある算定機関に実体よりも高い企業価値を算定させてのにも関わらず、開示文書で「第三者機関」と記載したので虚偽の開示であったとの判定である。
また、「投資事業組合」とは,組合員たる投資家から資金を集め投資先企業に対し主として出資の形で資金を供給する組合のことで、事件で使われたのは、民法上の「任意組合」と呼ばれるものであった。届出や出資者の登記の必要がなく、外部から実態が分からないのが特徴とされていた。後述するように、投資事業組合の実態については本裁判でも大きな論点であった。 続いて第二の「内容虚偽の有価証券報告を提出したこと」に関しての容疑は以下の通りである。ライブドア社は2004年9月期の連結決算において、実態は3億強の経常赤字であったにも関わらず ①業務の発注を装い架空の売上を計上 ②ライブドアが出資する投資事業組合がライブドア株式を売却する事で得た利益を売上に計上 した結果53億強の利益を計上することによって50億強のの経常黒字であったとする、虚偽の有価証券報告書を関東財務局長に提出したこと。
第二の容疑について補足すると、「虚偽の記載」として、具体的に問題になっていたのは会計原則としての『資本・損益区分の原則」である。この原則は「元手」としての資本と「儲け」としての利益の明確な区別を要求する原則である。資本から生まれた収益と会社の営業活動から生まれた利益を区分して会計上計上することにより、会社の実態が会計上正確に反映されるようにとの配慮からの会計の一般的規定である。
本件の堀江氏に対する容疑にに適応されている法律の1つ目は「旧証券取引法第158条」である。条文を引用すると、「何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。」。別の関連会社社員(ライブドアファイナンス社社員)にマネーライフ社の企業価値を評価させたのにも関わらず、「第三者機関が算定した」と虚偽の発表をしたこと、及びライブドアマーケティングの株価を上げるため、ライブドアマーケティングの決算短信を粉飾して発表したことに対して適応されている。
容疑に適応されているもう一つの法律は「旧証券取引法197条1項1号」であり、条文を引用すると「有価証券報告書若しくはその訂正報告書について、重要な事項に付き虚偽の記載のあるものを提出した者は、5年以下の懲役又若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」との内容である。ライブドアの 2004年9月期連結決算で、自社株売却益を本来は認められない売上高に計上したこと、及び業務の発注を装って架空の売上を計上し虚偽の有価証券報告書を関東財務局長に提出したことについて適応されている。
本裁判においては、「公判前整理手続」(刑事裁判で公判前に争点を絞り込む手続。刑事訴訟法316条の2以下に規定)が行われたため、実際の裁判での論点は以下の6点に絞られていた。①本件株式交換に関する公表内容が虚偽であるかどうか②ライブドアマーケティング社の平成16年第3四半期の業績に関する公表内容が虚偽か否か③これらの公表が虚偽であったとして、公表に関する堀江氏の犯意および共謀の有無④これらの公表がライブドアマーケティング社の株価の上昇を図る目的を持って行われたか否か(以上、第一の容疑に関して)⑤ライブドア社は重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出したのか⑥虚偽の記載のある有価証券報告書を提出していたとして、堀江氏の犯意および共謀の有無。これらの各争点に関する東京地方裁判所の判断は次のようなものであった(2007年3月16日判決)。
①本件株式交換に関する公表内容が虚偽であるかどうかの論点に関しては、共犯者宮内氏らはマネーライフ社の企業価値とは無関係な合併手数料や売上を上乗せするなどして企業価値を算出しており、虚偽であると言わざるをえず、マネーライフ社がライブドアファイナンス社との株式交換に関して行った公表は証券取引法158条の「風説の流布及び偽計」に概当。
②ライブドアマーケティング社の平成16年第3四半期の業績に関する公表内容が虚偽か否かの論点に関しては、関係者の供述やメールの内容などからマネーライフ社のある会社に対する売上は架空のものであり、この売上を前提としたマネーライフ社の平成16年第3四半期の業績に関する公表内容は虚偽であり、証券取引法158条の「風説の流布及び偽計」に概当。
③これらの公表が虚偽であったとして、公表に関する堀江氏の犯意および共謀の有無 の論点に関して、堀江氏の犯意および共犯者との共謀を基礎づけるととして、検察が主張した間接事実の有無、及びその推認力について詳細に検討した結果、マネーライフ社の平成16年第3四半期の業績に関する虚偽の内容を公表すること認識、許容していたとし、堀江氏と共謀者宮内氏との共謀が認定されたと判断。
④これらの公表がライブドアマーケティング社の株価の上昇を図る目的を持って行われたか否か については、いずれの公表もマネーライフ社の株式売買及び同社株式の株価維持向上を図る目的を持って行われたと認定。
⑤ライブドア社は重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出したのか については、ライブドア社の完全子会社においてライブドア社株式の売却を行った場合、証券取引法上のインサイダー規制や商法の子会社株式の取得規制に抵触し、その効力が問題になるのみならず、インサイダー取引への制裁の恐れがあり、そもそもライブドア株の完全子会社での売却益をライブドア社の連結決算において損益勘定の売上として認識できず、虚偽の有価証券取引報告書を提出した場合、刑事罰を科されるため投資組合を利用した規制回避を狙い、各組合を結成したものであり、組合の目的もライブドア社の株の売却及び連結決算への還流を目的としたものであると認定。実質的に組合の存在は否定すべきであるから、ライブドア社株式は子会社が売却したものであり、連結損益には売上として計上できず、結果重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出したと認定。
⑥虚偽の記載のある有価証券報告書を提出していたとして、堀江氏の犯意および共謀の有無。 については、堀江氏の共犯者宮内氏などから、報告を受けるなどして、虚偽の記載のある有価証券報告書を提出することを認識、認容していたとして、宮内氏との共謀を認定。
堀江氏の弁護人は、宮内氏が「横領」に関わっている可能性を指摘し、こちらの件を起訴しない代わりに、検察側の主張に沿った供述をする旨の暗黙の契約があるのではないかと指摘し公訴棄却を主張したが、東京地裁はこの主張に「一定の理解を示す」ものの、宮内氏の供述が検察官との取引によって行われたものではないと判示した。
量刑に関しては以下のような判示をしている。「本件各犯行は投資家保護制度の根幹を揺るがすものであって、証券市場の公正性を害する極めて悪質な犯行」「一般投資家を欺き、その犠牲の上にたって、企業利益のみを追求した犯罪であって、その目的に酌量の余地がないばかりか、強い非難に値する」「堀江氏人らにおいては、このようなみせかけの成長にこだわり、短期的な企業利益のみを追求したものである。そこには虚偽情報によって翻弄される投資家への配慮といった、上場企業の経営者としての自覚は微塵も感じられない」とし、「堀江氏が本件各犯行を主導したとまでは認められないなど、酌量の余地を最大限考慮しても氏人に対しては実刑をもって臨まざるをえない」。結果求刑懲役4年に対して、懲役2年6か月の判決が下された。
堀江氏側は第一審に対して控訴し、第二審である東京高裁で再度本件は争われた。2008年7月25日に東京高裁判決が下されたが、まず堀江氏側の控訴内容は以下のようなものであった。①投資組合事業の独立性につき、第一審で実施された公判前整理手続きにおいて確認されたものとは異なる枠組みで判決は判断されており、訴訟手続きの違反がある②投資事業組合は脱法目的や会計処理潜脱の目的で組成されてないなど、事実誤認がある③公表された有価証券報告書の内容は真実であり、仮に虚偽であったとしても、堀江氏には故意はなく、共犯者と共謀した事実もないなどの事実誤認がある(以上から堀江氏は無罪であるとの主張)④「内容虚偽の有価証券報告を提出したこと」に関しては粉飾決済の過去の案件と比較しても粉飾決済額が小さく、第一審の量刑は不当である。これに対して、東京高裁はいずれの弁護人の主張も棄却した。第一審での間接事実の認定に関しても再度検討を加えた形であるが、原審の判断は維持され、量刑は変更なしであった。
東京高等裁判所の判決後、堀江氏は最高裁判所に上告している。堀江氏からの最高裁への抗告棄却に対する異議申し立てについて、最高裁第3小法廷(田原睦夫裁判長)は20日付で棄却決定し、堀江氏の収監は正式に確定した。説明が長くなってしまったが、裁判の争点、及び裁判所の判断の概要の説明は以上である。以下にこの裁判に関する考察を加える。
まずは、本裁判の大きな争点である「投資事業組合」の扱いについてである。裁判所の「投資事業組合」の位置づけに関する判断は「組合の目的はライブドア社の株の売却及び連結決算への還流を目的としたものである」との判断である。よってライブドア社株式は実質的に子会社が売却したものであり、連結損益には売上として計上できず、計上した有価証券報告書を提出したことが、「重要な事項につき虚偽の記載」があったとの判断であった。つまり、裁判所の判断は本件において「投資事業組合」は会計上連結され然るべきであったとの判断である。しかし、「投資事業組合」がどのようなケースで「連結や持分法の対象とすべき子会社または関連会社の範囲に含まれるか」については「支配力基準」「影響力基準」を適用するとはされていたものの、刑事処罰の際に必要な「明確な」基準となっていたかどうかは議論が残るところである。「投資事業組合」の連結基準が十分明確でなかったことは、その後企業会計基準委員会から「投資事業組合に関する支配力基準及び影響力基準に関する実務上の取り扱い」という通達が基準を明確化するために出されていることからも確認できる。「投資事業組合は連結すべきであった」よって「自社株売却益を損益計算書に記載した有価証券報告書を提出したこと」は「重要な事項に関する虚偽の記載」であるとの判決のロジックには疑問が残るところである。投資事業組合を使った自社株売却→損益計算書への計上のスキームはあるべき行為ではないが、当時の会計上の解釈が一元化されていなかった状況であれば、上記の裁判所のロジックには無理があると言えよう。
続いて堀江氏への量刑についてであるが、裁判所の考え方には疑問が残ると言わざるを得ない。弁護人の主張では、他の類似事件に関して以下の量刑が課されているのに比較して本件の量刑は不当に重いとの主張がなされている(以下、弁護人の最高裁判所への上告趣旨書より引用)①山一證券事件は、平成7年~9年にわたり合計 約7428億円の粉飾決算事件であったが、東京高裁は、平成13年10月25日に元社長に対して、原審を破棄して懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。②日本債券信用銀行事件は平成10年の約1592億円の粉飾決算事件であったが、東京地方裁判所は、平成16年5月28日に、元会長に、「懲役1年4月、執行猶予3年」の判決を言い渡し、東京高等裁判所は、平成19年3月14日にこの結論を維持する判決を下した。③カネボウ事件は平成14年の粉飾決算事件であり、粉飾額は連結純利益で約58億円、連結純資産で約753億円に上ったが、東京地方裁判所は、平成18年3月27日に、元社長に対して、「懲役2年、執行猶予3年」の判決を言い渡した。④フットワークエクスプレス事件は、証券取引法違反(虚偽の有価証券報告書の提出)に問われた事件であるが、その粉飾金額は、経常利益で274億円、当期未処分利益で約1340億円にも上った。これについて、大阪地方裁判所は、平成14年10月8日に、元社長に対して、懲役2年、執行猶予3年の判決を言い渡した。⑤ アイペック事件は、約80億円の粉飾決算事件であったが、東京高等裁判所は、平成15年11月18日に元社長に対して、懲役1年8月執行猶予4年の判決を言い渡した。少なくとも粉飾額についてはライブドア事件(約53億円)より大きい案件に対して、すべて執行猶予がついているのがポイントである。
このような他の裁判での量刑との比較において、本裁判の判決(懲役2年6か月、執行猶予なし)は重いものであるが、裁判所判決は以下のような論理でこれを正当化している。東京地裁判決では、「粉飾決算事件の中に「損失額隠ぺい型」と「成長仮装型」の2種類があり、後者は前者よりもはるかに非難可能性が大きいと」の議論を展開した。「成長仮想型」とは、「投資者に対し、飛躍的に収益を増大させている成長性の高い企業の姿を示し、その投資判断を大きく誤らせ、多くの市井の投資者に資金を拠出させるもの」との定義である。東京高裁判決も、「成長仮装型の事例は未だ少ないから、一般論としてこの評価の手法が是認できるかは、慎重を要するであろう」としつつも、「このような視点からの分析、すなわち損失隠ぺい型と成長仮装型とに分けての評価、すなわち後者では粉飾金額は高額ではなくても犯行結果は大きくなるとする評価には注目すべきものがあり、本件に関しては上記説示の結論は是認できる。」としている。しかし、粉飾決算に対する処罰は「投資家に対して粉飾決算によりどの程度の損害を与えたか」との観点から議論されるのが正しい議論ではないだろうか。そもそも「損失を隠蔽するか」「成長を仮想するか」といったベクトルの方向性によって量刑の重さが違うというのは違和感のある部分である。「投資判断を大きく誤らせ、多くの市井の投資者に資金を拠出させる」「投資家に結果損害を与える」ことは「損失額隠ぺい型」でも同様なはずである。このロジックに関しては堀江氏への実刑をありきで考え出されたロジックと言われても仕方がないような内容であり、今後の同様の裁判の前例としてはふさわしくない内容と考えられる。
また、裁判所判決の「量刑の理由」の中で述べられている内容は金融市場に関する理解が欠けており、強い違和感を感じざるを得ない内容である。東京地裁判決の「量刑の理由」によると堀江氏の行為には以下のような判断が下されている。①「粉飾した業績を公表することにより株価を不正に吊上げて、ライブドア社の企業価値を実態よりも過大に見せかけ、度重なる株式分割を実施して、人為的にライブドア社の株価を高騰させ(中略)一般投資家を欺き、その犠牲の上に立って、企業利益のみを追求した犯罪である」②「株主は、本件発覚後、株価が急落し、さらには、上場廃止によって投資資本を回収する術も事実上失ったと認められ(以下略)」。
特に強い違和感を感じるのは、まず①「株価を不正に吊上げて」や「度重なる株式分割を実施して、人為的にライブドア社の株価を高騰させ」や「見せかけの成長にこだわり、短期的な企業利益のみを追求したものである」のくだりである。表現だけ捉えれば、裁判所は企業が自社の株価をコントロールできるかのような言い方であるが、株価の動きは多分に市場全体の動きやセンチメントに左右されるものであり、「企業が株価の動きをコントロールできる」ことを前提としていると考えれる裁判所の主張には疑問符がつく。ある事象が株価にプラスかマイナスか中立かは、理論的には説明可能でも実際にどうなるかは予測不能なのである。また、「短期的な企業利益の追求」自体は罪ではなく、あえて量刑事由の説明にこの表現が必要だとは思えない。
また、「株式分割によって人為的にライブドア社の株価を高騰させ」のくだりは裁判所の金融市場への理解のなさの象徴である。株式分割は理論的に企業価値には中立要因であり(株式の流動性向上の分はプラスの可能性はあるが)、株式分割後、株券交付までに期間があった当時は需給要因で「株式分割=株価上昇」といった状況があったものの、この状況下で株式分割をして、株価が上昇したことは理論的には説明できない行為であり、株式分割と株価上昇を当然の因果関係を持つ事象と扱うのは不適切である。
さらには、②「株主は、本件発覚後、株価が急落し、さらには、上場廃止によって投資資本を回収する術も事実上失ったと認められ(以下略)」とのくだりにも同様の違和感を感じる。株価の急落にはマネックスがライブドア株の担保の掛け目をゼロにしたこと(いわゆるマネックスショック)、検察の捜査開始日が平日であったこと、そもそもライブドア株には株価指標では説明しがたいレベルまで株価が上昇しており、そもそもニュースフローに対して反応しやすかったなどの複合的な要因があったはずで、ライブドア社や堀江氏の本裁判で罪に問われている行為のみを株価の下落要因とすることにも違和感を感じざるを得ない。以上のような金融市場への理解が不足は本判決の大きな問題である
以上のように、ライブドア裁判の判決内容に関しては、疑問を呈さざるを得ない部分が少なからずあり、特に量刑事由に関しては「迷文」と言わざるを得ない内容で、堀江氏への懲役2年6カ月という実刑確定に対して議論が起こるのは当然といえよう。ただし、最後に誤解がないように敢えて強調しておきたいが、堀江氏への「懲役2年6カ月」という判決の「妥当性」には疑問符を付けざるを得ないことは確かであるが、このことは堀江氏やライブドア社の過去の行為が肯定されるべきこととは同意ではない。裁判での論点になった事項に絞って考慮しても、2004年9月期の利益の大半がファンド経由の自社株売却益である状況で、投資家に実態が理解できない形での決算開示を行ったこと、また故意が仮になかったとしても架空の売上を決算に計上したことは、当時のライブドア社の管理体制及び同社社長であった堀江氏の上場企業社長としての資質への大いなる疑問を呈さざるを得ないものである。自社株売却を損益計算書に反映させるような行為が、市場全体で行われていては、「公正な市場」など望むべくもないし、それは架空売上げの計上も同様である。「ベンチャー企業に『怪しい』行為はつきもの」「堀江氏逮捕後、ベンチャー企業が委縮した」などとの主張も耳にするが、こういった意見には以上の理由で賛成は出来ない。刑事裁判での「推定無罪」の原則の上での適正な判決に関する議論と社会的な責任や公正な市場の構築のための議論を混同すべきではないだろう。
社会に大きなインパクトを残したライブドア事件及びその裁判であるが、本来議論されるべき「経済法令」の適応に関して、適切な判断及び前例を残すという観点からは、残念な結果となっている。感情的な議論に流されない今後の判例の積み重ねが今後行われることを期待したい。