相続と司法書士の本当の話
日本で「相続」という手続きが実際に必要になる人は、全体のわずか7%しかいないと言われている。つまり、残りの93%の日本国民は、法律的な手続きとしての相続を行う必要がないほど、財産が少ない、または分配するほどの資産が存在しないということだ。これは意外な事実であり、多くの人が誤解している部分である。ニュースや雑誌で「相続トラブル」や「遺産分割争い」という言葉をよく目にするため、まるで誰にでも関係するように思ってしまうが、実際はごく一部の層の問題に過ぎない。
しかし、これが「事業主」となると話は一変する。会社を経営している人、個人事業を営んでいる人が亡くなった場合、その割合は一気に跳ね上がる。ある司法書士によれば、事業主の約半分、つまり5割近くが相続の手続きを避けられない立場にあるという。なぜなら、彼らは事業用の土地や建物、機械、株式など、事業に関連する資産を多く持っているからだ。つまり、一般の家庭では相続が発生しないことが多い一方で、事業主はほぼ避けて通れないのが実情なのだ。
この話は、あるベテランの司法書士から直接聞いた話でもある。相続の相談を受ける現場では、意外にも多くの人がまず税理士や行政書士のもとへ行ってしまうという。しかし、実はそれが大きな落とし穴になっている。なぜなら、税理士や行政書士に相談した場合、最終的には司法書士の手を借りなければならないため、結果的に費用が2倍かかってしまうケースが多いのだ。
具体的にはこうだ。税理士に相続の相談をしたとしよう。税理士は税金計算や相続税申告のプロではあるが、不動産登記や名義変更といった「登記業務」は法律上できない。結局、登記手続きを行うために、別途司法書士へ依頼することになり、二重の費用が発生してしまうのである。ところが、最初から司法書士に相談すれば、その登記関連の業務をすべてワンストップで対応してもらえる。したがって、最初から司法書士に行くほうが、コストはおよそ半分に抑えられるというわけだ。
では、なぜ多くの人が司法書士ではなく、税理士や行政書士のところへ行ってしまうのか。その理由はとてもシンプルで、「宣伝がうまい」からである。税理士や行政書士は数が多く、事務所同士の競争も激しい。そのため、生き残るために広告戦略や集客の工夫に力を入れてきた。テレビやインターネット、街の看板などで「相続の相談は税理士へ」「遺産の手続きなら行政書士へ」といったフレーズを見かけるのは、そのためである。つまり、広報力と営業力の差が、相談先の選択に影響を与えているのだ。
一方で、司法書士は人数自体が少なく、また広告を積極的に打つ文化があまり根付いていない。そのため、「相続といえば司法書士」というイメージが一般には広がっていない。実際には司法書士こそが、相続登記や遺産分割の名義変更といった核心部分を担う専門家であるにもかかわらず、その立場があまり知られていないのだ。司法書士の多くは、派手な宣伝よりも「確実な手続き」「法律に基づいた正確な処理」を重視しており、結果として一般の目に触れる機会が少なくなってしまっている。
このように、世の中の相続手続きの実情をよく知ると、いかに私たちが「宣伝」や「イメージ」で判断しているかが分かる。正しい知識を持たなければ、余分な費用を払い、無駄な手続きをしてしまうことになるのだ。だからこそ、これからの時代は**「賢い依頼者」**になることが求められる。つまり、相続の手続きが必要になったときには、まず誰に相談するのが一番合理的なのかを見極める力を持つことである。
司法書士は、静かに、しかし確実に法律の根幹を支える専門職である。華やかさはないかもしれないが、実際の相続の現場では、最終的に彼らの手が欠かせない。だからこそ、私たちももっと司法書士の役割を理解し、「正しい窓口を選ぶ知恵」を身につける必要がある。相続の世界もまた、知っているか知らないかで大きく差がつく分野なのである。