毎年、母の日はなんだかんだスルーしていた。帰省の際には毎回世話になっているくせに、なんとも親不孝な娘である。
ゴールデンウィークにも会ったなごりで、今年はいっちょプレゼントでも送ってみるかと、珍しく腰を上げた。サプライズでもいいけれど、せっかくだから欲しいものを電話で聞いてみることに。
どうせ煎餅とかおかきの詰め合わせがいいとかいうんだろうなと予想していたのだけれど、
「糖尿病怖いから洋服がいいなぁ」と予想と違う答えが返ってきた。
おっと危ない。聞いてよかった。
どんな服が欲しいか聞くと
「う~ん、半袖。半袖のニット。」
とまた訳のわからない回答が返ってくる。
まぁあるね。半袖のニット。
でもあれっていつ着たらいいのか時期に迷う。しつこく言えば、前々から「なぜあれはあるのか」と思っていた。
でも欲しいって言ってるんだからまぁいいか。洋服といえば、ありがたいことに近所にデパートの老舗、三越がある。行きゃなんかいいのあるだろうと、三越におまかせモードで出かけた。
デパートって面白い。やっぱりいいものが揃っているし、なんていうか、来ている人を見るのが面白い。ちょっとお年を召した女性が、ハイカラなおしゃれをして背筋を伸ばして次々に入っていく様。「三越に行く」というちょっとした特別感。
あそこにいくのだからおしゃれをしていこう、と思える高級感。
そういう場所って、すごく必要だと思っている。
さて、三越について「母の日フェア」のコーナーに向かう。
どれどれ…あれ、なんだか人が少ないなと不安になる。
そしてふと上から吊るされたポップに目をやると、「母の日 Sサイズフェア」と書かれていた。
えっ…
一瞬止まっていると、店員さんが近寄ってきて
「良かったらお手に取ってご覧くださいね」とにこやかに声を掛けてきた。
はい…と返事をしていると、他のお客さんがやってきた。横目でも分かるくらい、濃いピンクのポロシャツを着ている。
そして唐突に
「なんでSやねん」
と言った。
つぶやいたのではなく、はっきりと言ったのだ。
なんでSやねん。
店員さんが隣で固まっている。
でも私も思ったのだ。
なんでSやねん。
なんでSしか置いてないねん。
MとLの人はどうしたらええねん。
「Sの人あんまりおらんから在庫余っとるんやろ!なぁ!」
なぁ!の視線の先は間違いなく私だ。
「えっと…いや…はは…」
店員さんの手前、あたしもそう思ってたよおばちゃん、とは言えず。苦笑いを返す。
おばちゃんはハンガーにかけられた洋服達をカシャーンカシャーンと一つずつ見てから、つまらなそうにSサイズフェアを去って行った。
むろん、私も居づらくなり、そそくさとその場離れた。
なんでSサイズフェアだったんだろう。さすがにS,M,Lで統計を取ったら、都会にはSサイズの人しかいませんとはならないだろう。むしろ「おばちゃん体型」といえばM,Lが思い浮かぶ。
自分で着るのなら、「これSサイズだけど少しゆったりしているから入るかも」とか思うことがあるかもしれないけれど、問題はこれが「母の日フェア」ということだ。贈り物だ。
普段Mの人にあえてSを送る人っているんだろうか。
おばちゃんの言うとおり、在庫処分だったのかなぁなんて思わざるをえない。まぁ色々とデパートなりの事情があるんだろうなと思った。
色々とデパート内をぐるぐるしたが、ピンとくる服が見つからない。今女性の服のデザインって、幅がすごく広かったり袖が広かったり色々で、「実際に着てみないとわからない」ものばかり。
もういっそ、ここに母親のパネルがあればいいのにと途方にくれる。洋服のプレゼントって難しいなぁ。しかもおばちゃんって腰回りがあるから、変に丈の短いのはだめかもしれないし…と年齢の問題も発生してくる。
だめだこりゃ、とデパートを離れ、今日はやめようと自分の好きな店に行く。
そこでもやっぱり母の服が無意識に気になり、あれこれ手に取っていると店員さんに話しかけられた。夏目三久さんみたいな、ベリーショートの美人な店員さん。あれこれ相談しているうちに、とても素敵な洋服を持ってきてくれた。
あー!いいじゃんコレコレ。これにします。と即決。
やっぱり定員さんってすごいなぁ~と思いながら店を出た。
どうせなら、三越で店員さんに相談してみればよかった。ピンク色のおばちゃんが強烈すぎて思いつかなかった。
あのおばちゃんは大阪の人なんだろうか。あれがもし「どうしてSなの!」だったとしたら、印象がずいぶん変わる。三越を責めている、ヒステリックさすら感じる。
なんでSやねん、ってすっごい責めを緩和してるよなぁ~と。大阪弁面白いな~と思った。
後日、送った母からありがとうと電話が来た。
「なんで半袖ブラウスやねん」と言われるかなと思ったけど、「ありがと~なんでもいい~。ブラウスも欲しかった~」とのんきな回答が返ってきた。
そうそう。そう言うと思った。
一応半袖ニットも探したんだよ。とこちらも呑気に付け加える。
今度は一緒に洋服を探しに行こうと約束して、電話を切った。
来年のプレゼント、洋服は辞めよう。
そう思った2018年の母の日だった。