人間
掴んだのは雪だった
溶けることなく
少しずつ少しずつ積もっていく
果てはないように思えた
しんしんと
世界
こんなにも彼の心は危うい
何もない
私はこんな世界には耐えられないだろう
世界
全てを憎む彼の心。
何もない。
ただただからっぽだった。
でも
何故だろう
ふと
こう思ってしまったのだ
この世界を
彼は我々の誰よりも人々を愛していたのだと
動悸
ジリリリリリリリリリリリリリリリリ―。
鐘の音が響く
私だけのこの広い家に
私を陥れるようにあれは鳴り続けた
ジリリリリリリリリリリ―。
相手はわからない
だが怖い
落ち着こう。
一服だ。
でも落ち着かない
震える手で
タバコの灰が落ちた
この一人だけの空間で
機械的になる音にこんなにも恐怖している
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ―。
まだ鳴っている
オレを取り込もうと鳴っている
正義の名のもとに
盾と言葉は信念で
その真実は私欲に過ぎなかった
私の正義は
彼にとってはただの理想で
正義とは悪が居なければ必要のないもとだった
つまり彼は
私にとって都合のいい悪を作り上げる事によって
私の正義を作らせた
形だけの盾は
刃をいとも簡単に貫き
私を串刺しにする
その痛みで
作られた信念はマッチ棒のようにポッキリと折れてしまった
笑う声が聞こえる
私を嘲笑う声が
正義が私を笑っていた
聖書
天国は崩壊した
今までの平穏は燃え盛る火炎と化し
幸せだった人々はもはや姿形もなかった。
そんな中に
オレは一人彷徨っていた。
オレが母と呼んだ人は
黒焦げになって「人だった物の消し炭」になってしまった。
オレが父と呼んだ人は
足を倒れてきた柱に潰され
オレの名前を何度も呼びながら炎に飲まれた
今まで歩いた道は
いつしか死を刻む時間にしかならなかった。
何かがオレの足を掴んで
死んでいった
つかまれた拍子に転んだ
立てる気力はなく
立てばそのまま死神に手を引かれるような気がして立てなかった
そうして
「彼」は泣きはじめた
オレのような人をみて悲しんだのか
あるいは 天高く上る黒煙が目に染みただけなのか
もう
ほんとうにどうでもよかった
その時に
オレはココロという物を失った
誰が為に鐘はなる
何かの咆哮が聞こえるようだ。
人通りの多かったこの道も
日が沈むと まるで人など住めないような場所にすら思える。
風がビルの狭間を切り刻んでいく音。
天高く
これ以上高くなれば 神の審判をも受けかねないこの塔の頂上には
赤いヒカリ。
そこに
彼女が見えた。
―いや、見えるわけがないのだ・・・・。
それなのに
どうしてもそれが「彼女」であるとしか―。
思えなかった。
それが人の形であるかもわからないのに
それが彼女だと―
そんな葛藤に飲まれ
気付けば
「彼女」の姿はもう無かった―。

