スマートフォンやタブレット(合わせて以下、スマホと略)の急激な普及で、生活や仕事が様変わりしている。スマホは1994年に登場していたが、Steven Jobsが2007年にコモデティ化に成功し、一挙に全世界へ広まった。スマホの急進化や大量普及の先には、どんな生活や社会が待っているだろうか。


 「理想のスマホ」があったとする。機能、性能、形状はどんなものか。

 今のスマホに、医療系や環境系センサが搭載されたとする。体温、血圧、呼吸脳波等を病院に連絡したい人には重宝だ。また、飲料水、化学薬品、放射線等測定できるセンサは安全確認や地球環境保護に使える。

 空想は尽きないが、多様なセンサだけでなく出力機能も変わるだろう。今のスマホは液晶表示、音響、振動出力だけ。形状はゾウリムシ。単細胞生物を連想させる。近未来にはきっとスマホにも手足が生え、昆虫、鳥、猫のようなものが登場するかもしれない。そのスマホに、「充電!」と言うと、パタパタとコンセントへ飛んで行き、新聞や食器運びもするアプリ登場も考えられる。こんな空想を進めていくと、進化の極致は、ドラえもんの世界だ。名付けて、「ドラスマホ」。未来の機器は今の技術やマンガの延長で十分想像でき、実現可能であろう。しかし、それを取り巻く社会の予想は難しい。極限に進化したドラスマホは、生活や世界をどう変えるか。


 「社会の予想」と言えば、1994年3月、米国サンフランシスコApple本社に訪問したことを思い出す。

 Apple社はその時、タブレット端末で住宅商談をするSF映画を見せた。現在のiPadは、その映画に登場した形と一致しているし、確かに商談に利用している。技術は空想映画のように進むようだ。しかし、iPadは、映画以上に利用が広まった。例えばSNSの登場や広告利用だ。当時のApple社は、その未来像を示さ(せ)なかった。TwitterやFacebookを運用するSNS企業は、きっとAppleとは別に、「スマホ社会」を何度も想像し、ビジネスの構築をしたのだろう。そのSNS企業の市場規模は、今ではスマホ製造企業やアプリ開発企業より大きく、今後も拡大する一方だ。

 ところで、ところでこのSNS企業の業務がわかりにくい。「出版物」でたとえ話をすれば、Apple社等のスマホの製造企業は「紙」の製造部門か。またApple Shop等も含むソフト企業は、いわば印刷機メーカー。これらの企業群に対しSNS会社は、「出版社」だと考えるとわかりやすい。今、SNS企業の主力商品は、Facebookなど、例えていえば「無料配布カタログ雑誌」だ。スマホのユーザーは、この無料雑誌上で企業の調査に協力しつつ、個人情報をやりとりしているように見える。Echelonに似た問題の是非はともかく、SNS企業が推進する近未来のドラスマホ世界は、どういうものか。


 かつて、今のスマホ利用に似た「Software Agent、エージェント」が議論されたことを思い出した。

 エージェントとは、ソフトウェアによる人工知能である。それは使用者の生活様式や価値観に沿ってカスタマイズを繰り返し、使用者の欲する情報を集めたり発信したりする、高度なしくみである。ドラスマホの極致は、このエージェントではないだろうか。その究極の姿は、わが身や家族のように感じる心強い助手である。このエージェントとの付き合い方は、現在でもよく見かける。例えば電車の中で皆一斉に下を向き、メール、ゲーム、コンテンツ視聴をする姿は、使用者自身が楽しんでいるが、エージェントにとって、カスタマイズの奉仕作業となっている。エージェントは、無機質な機械とソフトだが、そのカスタマイズの行為で活性化し、成長を重ね、さらに主人を喜ばせ、時にその便利さを他人にも拡散する。まるで、社会的遺伝子(ミーム)が仕込まれている人工生物のようだ。


 一度、人間がエージェントと依存関係を作ると、その関係を断ち切るのは難しい。今のPCも、似た面がある。好みのURL、写真や映像、音楽、メール受発信の記録を、PC更新ごとに継承している。この依存関係を極致まで深めた典型例が、「のび太君」だ。彼は猫型エージェントなしに生きていけない。未来のドラスマホも、これに似て、便利さと引き換えに何か対価を払うことになろう。これまで人類は、王様やのび太君を除き、エージェントと共生した経験がない。ケータイという形で登場し、せっせと奉仕して成長させた極致に、どんな人間関係や社会が待っているか・・・


 この問いかけが4回続いたが、未来のドラスマホの世界でTwitterのような事業をしたいなら、何度も何度も想像することが大事だ。