わたしの大嫌いなあなたへ(台本) | 松本電電丸の劇場

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元ヲタク役者、松本電電丸のブログです。
まあ気ままに書いてます。
アニメやゲームネタ結構ぶっ込むかも。

以前みくみんさんがヒトリシバイナイトに出演した時、ウェディングドレスを着て結婚式の花嫁スピーチの芝居をやっていたのを思い出した。良い話だった。


それを真逆にしてみたらどうなるんだろうな?という実験感覚で書いてみた。いやー随分ドロドロの憎悪タップリの台本になってしまった(^^;;


「やってみたい」という方がもしいたら、ご連絡お待ちしてます。




ピンスポつく


男が喪服を身に包んで立っている。


手紙を取り出し――読む。




「この度のご不幸…心よりお悔やみ申し上げます。私はあなたの事を考えると、溜息ばかり出てしまいます。胸も苦しくて、汗ばかり出てしまいます。そしてあなたからの言葉をいただくと、お腹の中が痛くてたまりません。その度に思ってしまいます。


あなたなんか、死ねばいいって。


私はあなたの部下です。部下にとって上司の言葉は絶対。だからこそ、あなたにいくら理不尽な叱られ方をされても、歯を食いしばり、耐えてきました。何も口答えせず、何も反論せず…。けれど、あなたは誤解していましたね。私はあなた自身に従ってたわけではなく、あなたの肩書に従ってたにすぎません。あなたは私にとって、肩書だけの存在。それが消えればあなたなどに従うわけもない。


あなたは気が短かったですね。自分の言葉を相手が理解しないとすぐに嫌な顔をします。まるで人をゴミみたいな目で見てきましたね。そしてひどい場合にはありったけの侮蔑をこめて


『馬鹿か!』


と口にする。あなたの言い方が悪いからという理解が足りなかったようですね。あなたは口が早すぎる。聞き取りづらいのですよ、あなたの言葉は。それに要所要所抜けてる箇所があって、それで誤解するなと言う方が困難です。『理解されなかったのは自分が悪いのでは?』と疑問をもてなかったのですか?自己批判の姿勢があなたに見られなかったのは残念極まることです。


あなたは常に私の心をえぐってきましたね。私が別の上司からお叱りを受けた後、あなたは私に声をかけてくれましたね。


『そんな事も満足にできねーのかよ!』


あの時、私は理性を失う寸前でした。あなたの醜い顔をサッカーボールのように蹴りとばしたかった。しかしそれは止めました。そんな事で今の仕事を辞めさせられたくはなかったのでね。反省をしているなかでさらに追い打ちをかけてくれたのは何故ですか?意図が分からないのです。ただ何の意図もなく怒りをぶちまけたというのならば、あなたは社会人失格です。部下は上司の奴隷ではないのですから。あの屈辱は忘れたくても忘れられません。あ、そうそう。あなたが私と同じ仕事をしていたことがありましたね。その確認をこっそり行いましたが、何とも杜撰でした。あなたのメンツを考慮して、私が尻拭いをしてそのミスの事は口にしてませんから。


あなたはすぐに決めつける方でしたね。私の行動やその意図を理解しようともせず、頭ごなしに怒るだけでした。あんな鬼のような形相で睨まれたら萎縮するって、何故理解できないのでしょうか?あなたはすぐに反論を叩き潰す人でしたから、私は反論することを諦めました。自分の口下手はしっかり分かっていますし、何を言っても自分が決めつけたことを疑わないあなたの性格は存じ上げていますから。


何故、ここまで『あなた』と二人称であなたを呼んでいるか、お分かりですか?あなたの名前を口にする事自体、私にとっては苦痛になりました。これまで受けた言葉の暴力の数々は私の心の傷となり、今なお痛みを伴っています。あなたのことを耳にするたび、そのトラウマは甦る。その度に前述の苦しみを味わななくてはならないのです。


あなたは私の上司である以前に、ひとりの人生の先輩です。あなたが私の頃、私以上に嫌な思いもされていたのではないですか?その度に誰かを憎んだり恨んだりしたこともあったのではないのですか?人はつらい目にあった分だけ、人に優しくできるものと、わたしは両親から教わりました。あなたはそんな、人の痛みを省みない大人になりたかったのでしょうか?もう手遅れですが、それを問わずにはいられないのです。


最後に、あなたは私にとって忌むべき敵でした。絶対に倒さなくてはならない悪。仇。前述でも『あなたなんか、死ねばいいのに』と思ってしまったことも事実です。でも、こうして本当にあなたの不幸が現実になってしまった時は、どうしても、涙が止まらなかったのです。殺したいほど憎い…そう思っていた、はずなのに…。恐らく、私はあなたに認めてもらいたかったんだと思います。常に厳格で、私に否定的なあなたに。しかし、それはもう叶わぬ夢。もう、あなたの鼻を明かし、その時の私に対するあなたの言葉を聞くことは、もう、叶わない。・・・ですが、いつか私もそこに行く時には、あっと驚かれる私になってみせます。だから、どうか安らかにお眠り下さい。今まで、お疲れ様でした。」




手紙をしまい、一例


暗転



終劇




※この物語はフィクションです。