八重桜にまつわる忘れ難い場面がある
9才の春、授業中に学校から呼び戻された。
庭の八重桜をみることを希求しながら病院で亡くなった祖母が
顔に白い布をかけられて横たわっていた。
枕元には満開の八重桜が活けてあった。
親戚らしい女性が布を取り、
「○ちゃん、おばあちゃんて呼んでごらん」と言った。
私は、「もう聞こえないのに…」と思いながら
苦痛から解放された祖母の、微笑んでいるような顔を見ていた。
するとまた「ほら、呼んでごらん」と言われた。
仕方なく「おばあちゃん」と呼ぶと
その女性は「わぁ」と泣き崩れた。
「なんて芝居がかった嘘くさい人だろう」と今なら表現するだろうか、
その時の私は「あのおばちゃん嫌い」と母に言ったそうだ。
実子がなく、初孫の私をとても可愛がってくれた祖母のあれこれとともに
今でもふとしたときに鮮やかに甦るこの場面は、
命や死やたくさんのことを考えさせる。
そして9才の私は、今よりもっと深く、その全部を理解していたと思う。