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バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲/寺神戸亮 パンフより~①事の起こり

事の起こり


ヴイオロンチェロ・ダ・スパッラ。

このCD を手に取る前にこの長ったらしい名前の楽器の存在を知り、実際に音をどこかで耳にしたことがある方も増えてきたのではないだろうか。

というのも恐らく日本は、近年復元されたこの楽器の榛奏に接する機会が一番多く持てる国かもしれないのだ。

実は現在、この楽界で実際に演奏活動を行っている音楽家は僕が知る限り世界で3-4人ほどなのだが、そのうち二人までが日本で定期的にこの楽器でのコンサートを行っている。

しかもその一人はこの楽器の復活に一役買った、日本在住のヴァイオリニストで弦楽器製作家でもあるロシア人、ドミトリー・バデイアロフ氏だ。

もう一人は言わずもがな、僕自身である。

とは言えまだまだ馴染みの薄い楽器である。

今回始めて音を聴く方も多いと思うので、事の起りからお蒔したいと思う。

もともと、オランダの音楽学者、ランベール・スミス氏やアメリカのグレゴリー.バーネット氏などがこの楽器についての研究をしており、それに興味を持ったシギスヴァルト・クイケン氏がバデイプロフ氏に製作を依頼、バッハのヴィオラ・ボンポーザではないかとされるホフマン作のヴイオロンチェロ・ピッコロをモデルにバデイアロフ氏独自のデザインによって製作されたのが始まりであった。

僕は試作の段階からいろいろと話を聞いたり、試奏をしたりしていたので、完成品を目にしてすぐにこの楽器の虜になり、さっそく一台注文した。

パティアロブ氏(左)と寺神戸(八王子の工房にて)ヴイオローネの仲間、ヴイオロンチェロ さて、すでにヴイオロンチェロ・ダ・スパッラ、ヴィオラ・ボンポーず、ヴイオロンチェロ.ピッコロと3つもの名前が挙がり、混乱されている方も多いのではないかと思う。

これらはすべて同じ楽器を指す。

ここで、名前の由来について少し説明してみよう。

そもそもヴィオラ族には腕のヴィオラ、「ダ・ブラッチョda braccio」族と足のヴィオラ、 「ダ・ガンバdagamba」族に分かれる。

それぞれ弓で弾く擦弦弦楽器で、インドに起源を持つ。

ダ・ブラッチョはその名のとおり腕で構え(braccioはイタリア語で瓶の意)、ダ・ガンバは足.gambaは同じくイタリア語で脚を意味する)に挟んで構える。

それぞれに低音から高音まで、大小いくつかサイズの違うものがあり、声と同じようにソプラノ、アルト、テノール、バスに分かれ、「族」 (ファミリー)を構成する。

ガンバ族の場合は単純にソプラノ(トレブルtrebleあるいはデイスカントdiscantoともいう)、アルト(alto)テノール(tenore)、バス(Basso)と呼んでいるが、ブラッチョ族の場合はもう少し複雑で、それぞれに固有の名前がある,
プラッチョ族はもともとアルトの楽器が最高音域を担うものだったので、これがブラッチョ族を代表して「ヴィオラviola」と呼ばれる。

そしてその中でもいくつかのサイズに分かれており、小さめのものはヴイオレッタ violetta),中ぐらいが単にヴィオラあるいはヴィオラ.アルト alto)、そして大型のものはテノール声部を受け持つものとしてヴィオラ・テノーレ(tenore)またはクイントン(Quinton)などと呼ばれた。

バスを受け持つものはヴィオラの大きいもの、と言う意味のヴイオローネ(violone)と呼ばれ、ヴィオラより高い最高声部を弾く楽器は小さいヴィオラ、すなわちヴイオリーノ(violino)で、これが後にヴィオラ族の花形楽器となったヴァイオリンである。

(ヴァイオリンの成功のおかげで族の名前まで変更され、 「ヴァイオリン族」と呼ばれるようにもなった)さらに大きなバス楽器はもちろんコントラバッソ(contrabasso)-コントラバスである。

さてここで誤解をしないでほしいのが、バス楽器の名称である。

「ヴイオローネ」という呼び名は、今口ではコントラバスに対応するガンバ型の最低音楽器を指すのが普通である。

バス・ガンバよりも大型で同じようにフレットを持ち、より低く調弦され、多くの場合16フィートの音域、すなわちバス声部をそっくりそのまま1オクタ-ヴ下でなぞることが多い.,このヴイオロ-ネにも大小、あり、多少音域が違うのだが、そのあたりは話をややこしくするので省こう。


しかしこの「ヴイオローネ」と言う呼び名はガンバ型の大型楽器にだけ与えられた名称ではない。

イタリアの野菜スープ、ミネストローネが「大きな野菜スープ」を意味するように、ヴイオローネは「大きなヴィオラ」を意味する。

すなわちこれは固有名詞ではないので、一般的にヴィオラの大きいものなら何でも「ヴイオローネ」と呼べるのだ。

そのため、ガンバ族の大型楽器はもちろんのこと、ブラッチョ族の大型楽器もヴイオローネと呼ばれた。

ブラッチョ族の場合、ヴイオローネはチノーレの下に位置し、8フィート(ヘ音記号で書かれたバスラインを実際の音域で演奏する)のバス楽器であった。

ここでちょっと整理してみよう,同じ声部ごとに対比させてみると

【ガンバ族】 
トレブル
アルト 
テノール 
バス 
ヴイオローネ

【ブラッチョ旗】   
ヴイオリーノ   
ヴィオラ  
(テノール)   
ヴイオローネ   
コントラバス

ヴイオロ-ネはどちらの種族にもあること、しかしガンバ族とブラッチョ族ではヴイオローネの位置が違うことにお気づきだろう。

そう、ブラッチョ族のヴイオローネは8フィートの低音楽器、今のオーケストラでチェロに当たる部分を担っているのだ。

これほとりもなおさず、一般的に低音(通奏低音)を受け持つ楽器であることを表す。

この、ブラッチョ族のヴイオローネとは実際どんな楽器かというと、いわゆる「チェロ」に酷似しているのだがチェロよりも一回り大きく、それゆえ床に置くか、小さな台などに乗せて演奏されることが多かった。

もちろん、足に挟むこともあったかもしれない。

調弦はチェロと同じか、しばしば長2度低かった。

ちなみにフランスではバッス・ドゥ・ヴイオロン(Basse de violon)、イギリスではベース・ヴァイオリン(base violin)と呼ばれた。

まさにヴァイオリン族(-ヴィオラ.ダ・ブラッチョ族)の「バス楽器」ということなのだ。

この「ヴイオローネ」の方がむしろ今のバロック・チェロに近い、足の間に挟んで弾くタイプのバス楽器であった。

リュリのオーケストラなどでは最低音を受け持つ重要な楽器である。

ヴイオローネの定義、特にプラッチョ族におけるヴイオローネの位置づけがお分かりいただけただろうか。

さて、ここまでの段階でヴイオロンチェッロ、いわゆるチェロはまだ存在していない。

チェロという楽器はヴィオラ族の中では比較的新参者で、 17世紀も半ばになってようやく登場する。

最初にそれらしき名前が登場するのは1741年、フォンタナの作品で「ヴイオロンチ-ノ」 (violoncino)と書かれている。

その後ヴイオロンチェッロ violoncello)という呼び名も他の様々な作品で登場するが、どちらもヴイオローネの指小形(デイミニューテイヴdiminutive)であり、 「小さなヴイオローネ」という意味だ。すなわちヴイオロンチェソロとは「ヴィオラの大きいもの(ヴイオローネ)の小さいもの」という意味なのである。

このことから、そもそもチェロという楽器は(ブラッチョ族の)ヴイオローネから派生したものであり、小型のヴイオローネであった、ということがわかる。

それではどのぐらい小型だったのだろうか。

ヴイオロンチェソロの登場とほとんど時を同じくしてバルトロメオ・ビスマントヴァ(Bartolomeo Bismantova)が1 677年に書いた教則本、コンペンデイオ・ムジカーレ(Compendio Musicale)にはヴイオロンチェッロ・ダ・スパッラ(violoncello da spalla)についての簡単な説明が載っている《図1〉。

これがヴイオロンチェロ・ダ・スパッラについて書かれた最初の記述である。

以下慣習に従い「ヴイオロンチェッロ」ではなく「ヴイオロンチェロ」と記す。

なによりも興味深いのは指使いで、バスの音域であるにもかかわらずヴァイオリンと同じ全音幅で指を置いていく指使いなのだ。

これはとりもなおさずヴァイオリンやヴィオラと同じ指使いが可能な、かなり小型の楽器であることを示唆している。
(ちなみに普通のチェロは半音幅で指を置いていく) 

もうひとつ面白いのは、巌低弦をチェロよりも一昔高いDに調弦することを勧めていることだ。

〈図1〉

これもおそらく小型の楽器であるため、 CよりもDの方が必要な張力を得やすいためではないだろうか。

このように、ヴイオロンチェロ、すなわち「小さなヴイオローネ」という楽器が生まれたのが17世紀の半ばこほとんど時を同じくしてこのヴイオロジチェロ・・ダ・スパッラも生まれた。

というより、もしかするともともとヴイオロンチェロという楽器自体がこのタイプのものとして生まれたのかもしれないのだ。

そのため、わざわざヴでオロンチェロ・ダ.スパッラ-肩のチェロ-という肩書きを作品の中で得たことはなく、たいていの場合単にヴイオロンチェロ(violoncello)と呼ばれたのかもしれない。

17位紀から18世紀初頭にかけての作品の中に[violoncello]という表記があった場合は注意しなければならない。

現在私たちが親しんでいる足に挟むバロック・チェロではなく、このヴイオロンチェロ・ダ・スパソラの可能性もあるのだ。

初期のころはむしろヴイオロンチェロといえば、この肩掛け型の楽器であった場合が多いのかもしれない。

続く

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J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全6曲)
Johann Sebastian Bach Suites for Violoncello Solo BWV1007-1012
Disc1

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調

BWV1007SuiteNo.1 in Gmajor,BWV1007

Prelude
Allemande
Courante
Sarabande
Menuett I&Ⅱ Gigue

無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調

BWVI008Suite No.2 in D minor, BWV1008

Prelude
Allemande
Courante
Sarabande
Menuett I&II
Gigue

撫伴奏チェロ組曲第3番ハ短調

BWV1009suite No.3 in C major, BWV1009

Prelude
Allemande
Courante
Sarabande
Bourree I&II
Gigue

Disc2

無伴奏チェロ組曲第4番変ホ長謝

BWVIOIO Suite No.4 in D-Major, BWV1010

Prelude
Allemande
Courante
Sarabande
Bourree I&II
Gigue

無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調

BWV1011 Suite No.5 in C minor, BWV1011

Prelude
Allemande
Courante
Sarabande
Gavotte I&II
Gigue

無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調

BWV1012SuiteNo.6in D major,BWV1012

Prelude
Allemande
Courantc
Sarabande
Gavotte I&II
Gigue

寺神戸亮(ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ)
RYO TERAKADO,Violoncello da Spalla
録音・2008年2月5-7、 18-19日 東京、 Hakujuホ-ル
Instrument :Violoncello da Spalla: Dmitry Badiarov
(2005, Brussels)
Pitch a≒415
Bow : Mashiko, Isao2003, Chiba
絵:有元利夫「アルルカン」


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